100分de名著:100分de水木しげる | 日々是本日

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 「100分de名著」は各回 25分×4週 = 100分 で毎月一冊の名著を紹介するNHKの番組である。

 

 スポットでスペシャル回が挟まるのだが、8月の最後は10代向けの「for ティーンズ:2022年夏休みスペシャル」に続いて、水木しげるの特集だった。

 

 水木しげる生誕100周年ということだったので、今回は番組に沿って水木さんの作品を振り返りながら、サラッとコメントおこうという主旨である。

 

▼100分de名著:100分de水木しげる

古今東西の「名著」を、100分で読み解く「100分de名著」。スペシャル版として「100分de 水木しげる」を放送します!
多角的なテーマから代表作を読み解くことで、水木作品の魅力を徹底解剖します。通常の4回シリーズではなく、100分間連続の放送でお届けします。

 

 ゲスト選者と取り上げられた作品は以下の通りである。

「のんのんばあ」「のんのんばあとオレ」
  釈徹宗(宗教学者)
「墓場の鬼太郎」「ゲゲゲの鬼太郎」
  中条省平(フランス文学者)
「ラバウル戦記」「総員玉砕せよ!」
  ヤマザキマリ(漫画家・文筆家)
「悪魔くん」「河童の三平」

  佐野史郎(俳優)

 

 

第1章 妖怪との出会い

    紹 介 作 品:「のんのんばあ」「のんのんばあとオレ」

    ゲスト選者:釈徹宗(宗教学者)

 

のんのんばあ他 水木しげる漫画大全集

 

 この作品の初出は1975年の週刊少年チャンピオンである。

 

 釈さんの解説によると、この「のんのんばあ」というお婆さんは、鳥取県境港の水木さんの実家に出入りしていてた女性で、少年の水木さんに妖怪の世界を教えた人物だという。

 

 「のんのん」とは仏さまを表す幼児語で、この話は信心深かった「のんのんばあ」が妖怪退治をする話であるという。

 

 この表紙のお婆さんの絵は見たことがあったが、話は思い出せないから読んでないなぁ。

 

 この「のんのんばあ」の話は1977年出版のエッセイ「のんのんばあとオレ」に続き、1991年にNHKでドラマ化されたという。

 

 ▼水木しげる「のんのんばあとオレ」ちくま文庫1990 

のんのんばあとオレ (ちくま文庫)

 ※単行本の出版は1977年

 

 この1991年のNHKのドラマを漫画化したのが漫画の「のんのんばあとオレ」ということだった。

 

 ▼水木しげる「のんのんばあとオレ」講談社漫画文庫1997 

のんのんばあとオレ (コミッククリエイトコミック)

 ※単行本の出版は1992年

 

 この章は、エッセイ「のんのんばあとオレ」から下記の一節を紹介して終わった。

 

「転生」ということばがあるが、それは、亡くなった人の心が、ほかの人に宿り、生きつづけることだとすると、オレはいまでも、のんのんばあの心が、オレに宿り生きつづけているような気がしてならない。

 

 水木さんの死生観と妖怪物の原点はここにあったのだなぁ。

 

 そして、水木さんが少年だった「のんのんばあ」の時代ぐらいまでは、民間信仰も含めてなんらかの信仰心が当たり前の時代であったのだと感じた。

 

 

第2章 高度経済成長が置き去ったもの

    紹 介 作 品:「墓場の鬼太郎」「ゲゲゲの鬼太郎」

    ゲスト選者:中条省平(フランス文学者)

 

 「墓場の鬼太郎」の貸本版が出たのは1960年だという。

 

 角川文庫の貸本まんが復刻版シリーズで2006年から2007年にかけて全6巻が出版されている。

 

▼水木しげる「貸本まんが復刻版 墓場の鬼太郎」角川文庫

 

墓場鬼太郎(1) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

墓場鬼太郎(2) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

墓場鬼太郎(3) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

墓場鬼太郎(4) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

墓場鬼太郎(5) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

墓場鬼太郎(6) 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

 その後、1965年から「少年マガジン」の連載が始まり、1968年のアニメ化時点で「ゲゲゲの鬼太郎」に変更されたそうである。

 

 中条さんが強調していたのは、鬼太郎は、高度成長期に人気のあった「巨人の星」のような熱血スポーツ物のヒーローとは一線を画した主人公であるということだった。

 

 この辺の事情は、水木さん本人のインタビューが紹介されていて興味深い。

 

(ナレーション:少年誌で求められたのは正義のヒーローとしての鬼太郎、その違和感を語っています。)

 

編集が見て、どうこう言うわけですけど、

結局、格闘させろということですね。

格闘、これが入ってきたんですよ。

これが重大な問題だったんです。

貸本時代にはオバケをやっつけなかったんです、そんなに。

正義のアレが出てきてやっつけるっていうのは、ある意味から見ると滑稽でしょ。

 

※1989年放送「ETV8 妖怪たちはどこへいった」の映像より

 

 その通りだねぇ。

 

 この章では、水木さんが少年時代は画家を目指していて、当時の絵を見ることができたのもよかった。

 

 上手かった。

 

 そして、鬼太郎の中に西洋絵画が取り入れられていて、マグリットの「ピレネー城」風の絵やブリューゲルの「バベルの塔」風の絵の漫画のコマが紹介されていた。

 

 ▼水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎(1)(水木しげる漫画大全集)」講談社2013

ゲゲゲの鬼太郎 水木しげる漫画大全集(1)

 

 なるほどねぇ。

 

第3章 はじめは画家になりたかった

    紹 介 作 品:「ラバウル戦記」「総員玉砕せよ!」
    ゲスト選者:ヤマザキマリ(漫画家・文筆家)


 前章では、水木さんが少年時代は画家を目指していて当時の絵まで見せておきながら、この章のタイトルは「画家になりたかった」である。

 

 そして紹介される作品は戦記ものである。

 

 画家になりたかった少年は片腕を失って命からがら生き延びて、漫画家になり、戦争の語り部になった。

 

 「ラバウル戦記」は復員後に書き溜めていた戦争時のスケッチに、後年、文章を添えた作品である。

 

 ▼水木しげる「ラバウル戦記」ちくま文庫1997

水木しげるのラバウル戦記 (ちくま文庫)

 ※単行本の出版は1994年

 

 自身も画家を志していた時代がある漫画家・ヤマザキマリさんは、この作品の水木さんの絵を画家のデッサンに近いと言い、その中に世界や人間を観察する眼差しがあるという指摘をしている。

 

 紹介された内容からは、辛い戦場での日々の中にもある生活感のリアリティーと、戦争など他人事のようにただある自然が感じられた。

 

 ヤマザキマリさんは更に、南方のジャングルの中の闇、特に漆黒を体験した経験が、その後の漫画に表れていると指摘していた。

 

 もう一冊の作品は、やはり戦記物の「総員玉砕せよ!」である。

 

 ニューブリテン島に配属された水木さんの部隊は、その後の戦況の悪化によって、総員玉砕を命じられる。

 

 この作品は、NHKスペシャルでドラマ化されており、2007年8月12日に放送された。

 

 この100分de名著の放送に先立って、2022年8月23日に再放送されている。

 

▼NHKオンデマンド  単品:220円(税込み)・購入期限:2023年7月28日

 

  ▼DVD

NHKスペシャル 鬼太郎が見た玉砕 ~水木しげるの戦争~【NHKスクエア限定商品】

 ※3,300円、特典映像18分あり

 

 番組では、水木さんの長女・尚子さんのインタビュー映像が放送された。

 

 このインタビューでは、「総員玉砕せよ!」の構想ノートと水木さんから聞いたという戦争の話、晩年に死んだ兵隊が夢に出てきた話などが語られていた。

 

 水木さんに限らず、戦争を生き延びた兵士が死んでいった仲間の目を意識しながら生きるということは、しばしば報告されていることである。

 

 ゲスト陣は、水木さんもまたそういう心境にあって、漫画家になった水木さんは語り部にならざるを得なかったのだろうとコメントしていた。

 

第4章 地下世界の魅力

    紹 介 作 品:「悪魔くん」「河童の三平」

    ゲスト選者:佐野史郎(俳優)

  

 俳優・佐野史郎が悩みに悩んで選んだという作品は、「悪魔くん」だった。

 

 そう言えばこんな作品もあったような気はしたが、話が思い出せないからやはりこれも読んでないのだなぁ。

 

▼水木しげる「貸本まんが復刻版 悪魔くん」角川文庫2010

悪魔くん 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

 

 貸本漫画時代の作品で、やはり復刻版が出版されていた。

 

 番組ナレーションによる作品紹介の内容はこうであった。

 

 主人公の悪魔くんは、一万年に一人という天才児、彼は全人類が平等に幸せに暮らせる世界を作りたいと考えていた。そのために悪魔くんは、地底から悪魔を呼び出す。

 この作品には考えさせられるものが沢山ある。

 そこには人間の幸せやお金、経済についての水木さんの考えが散りばめられている。

 悪魔を通して人間社会を考えさせられる、鬼太郎と並ぶ水木さんの代表作である。

 

 ナレーションと並行して流れる映像は実際の漫画のコマで、その中のセリフは例えばこうである。

 

「いったいあのモーレツに働く人たちはなにをもとめているんですかねぇ。」

「そりゃあなた、お金ですよ。そこにすばらしい幸福がまっていると思っていればこそ……」

 

 ミヒャエル・エンデの「モモ」が思い出された。

 

 こんな作品が鬼太郎と並ぶ水木さんの代表作で、1966年から1967年にかけて実写版ドラマが放送されていたという。

 

 なんという健全な時代だろうか!

 

 佐野史郎さんは、自分が好きな話を中心になかなかの熱弁をふるっていた。

 

 尚、後で確認してみたところ、1989年にはアニメ化もされており、

 

 なんとこれから新アニメもできるようだ!

 

 

 さて、最後に紹介されたもう一つの作品は「河童の三平」であった。

 

 ▼水木しげる「河童の三平」ちくま文庫1988

河童の三平 (ちくま文庫 み 4-9)

 

 この作品も、貸本漫画の復刻版があるので「墓場の鬼太郎」、「悪魔くん」と同時代の作品である。

 

 内容の概略については、以下の Amazon 商品サイトの説明を参照されたい。

 

 ▼水木しげる「貸本まんが復刻版 河童の三平」(上中下巻)角川文庫2011

河童の三平 上 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

おじいさんと山奥で暮らす河童そっくりの三平少年は、ひょんなことから河童の国に紛れ込んでしまう。それを機に、河童の少年は人間界へ留学することに。三平の代わりに河童が学校に通っていると、なんと死神が現れる。おじいさんをあの世へ連れて行くというのだ。2人は必死で止めようと奔走。さらに河童は水泳大会の予選で珍騒動を巻き起こす。ユーモアに溢れながらも描き出される生と死。貸本時代の大傑作、待望の文庫化。

 

※上記バナーの Amazon 商品サイトより引用

 

河童の三平 中 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

人里離れた山奥に住む河童そっくりの少年・三平のもとに、10年ぶりに父が帰ってきた。父は再び旅立ってしまうが、彼が遺したトランクから現れたのは、なんと10人の小人たち。戸惑う三平だったが、彼らを養っていくことを決意する。河童には水泳大会に備えてロケット泳法を学び、ケンカ仲間のたぬきとは大根畠での珍事をきっかけに親友となり…。古き良き日本の田舎で繰り広げられる大騒動。出会いと別れを描く感動の中巻。

 

※上記バナーの Amazon 商品サイトより引用

 

河童の三平 下 貸本まんが復刻版 (角川文庫)

河童から泳法を教わった三平は、県の水泳大会で優勝。なんと横浜で開催される国体に出場することに。しかし大会当日、屁による空中泳法を披露し、ここでも大騒動を巻き起こしてしまう。その後三平は、宿で出会った魔女の花子と東京にいるはずの母を捜し始めるが、彼は次々と予想外の事態に遭遇してしまうのだった。生きること、死ぬこと。そして友情、喜怒哀楽。少年のさまざまな想いが詰め込まれた大傑作長編漫画、堂々の完結。

 

※上記バナーの Amazon 商品サイトより引用

 

 こんな作品もあったのだねぇ。

 

 佐野さんは荒唐無稽だけどユーモラスだと言い、ヤマザキマリさんは一番好きな作品で死と寂しさと孤独があると言った。

 

 人生にはユーモアが必要だし、その中で語られる寂しさと孤独に人生のリアリティーがあるのだと思う。

 

 

 

 とは言え、この作品についての感想は読んでからにしたいと思う。

 

 水木さんは、与えられた現実を生きるのではなくて、自分の物語を生きるということを書いているという佐野さんのまとめには納得感があった。 

 

 そして改めて、このために異世界を通して現実世界の意味を問うている水木さんの作品を凄いと思った。

 

 

▼NHKオンデマンド 単品:220円(税込み)・購入期限:2023年7月28日