ドラマ「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」(最終回)/「そのひとことが言えたら…」北大路書房 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 2月に今年の冬ドラマ、高畑充希さん主演の「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」の記事を書いた。

 

 最終回を観て続報記事を書こうと思っていたのであるが、その前にフジテレビの音楽番組「Love music」の King Gnu さんの回を観てしまったので先にKing Gnu「カメレオン」の記事を書いたが、冬ドラマの話なのでこちらの記事も3月中に書いておきたい。

 

▼ドラマ「ムチャブリ!わたしが社長になるなんて」公式サイト

 

 以前の記事は主に、橋本治「「わからない」という方法」(集英社2001)と関連づけた内容であった。

 

 どうしてかというと、このドラマは高畑充希さん演じる平社員の主人公が突然に社長に抜擢されて頑張るという話であって、そこで社長としての仕事とは何なのかを考えていくところから始まる。

 

 それが、この本で橋本さんが言っている「「わからない」という方法」と通じるところがあると思ったからである。

 

 橋本さんの言っている「「わからない」という方法」とは、私なりの表現で簡潔に言ってしまうと、「手っ取り早く答えを得るのは楽だけれども、どうしてそうなのか本当のところはわからないから、答えに至る過程を自分なりにわかるまで確認していくという方法」であった。

 

 最初の記事は第5話まで観たところで書いたもので、第6回以降は残念ながらこの「「わからない」という方法」の実践を見るという意味は薄くなってしまった感があったが、ドラマとしては面白く観ることができた。

 

 今回は最終回まで観終わった後の続報として、また別の観点で作品全体を振り返ることにする。

 

---以下、ネタバレ注意!---

 

 まず、ファミリー劇場CLUBの記事での各話タイトルは以下の通りである。

第1話:出世欲ナシ今どき30歳OLが突然社長に!?全く新しい爽快お仕事ドラマ開幕
第2話:店に客が来ない!!新米社長に降りかかる経営ピンチ…生意気な部下と直接対決!?
第3話:恋と仕事は両立できる!?新米社長に突然、恋の予感…女の幸せって一体なに?
第4話:伝説のワインを契約したい!
第5話:新米社長、リーダーシップに悪戦苦闘!?バックハグで三角関係も怒涛の急展開!!
第6話:新米社長の母が登場!!職場見学で仕事も恋もかき乱す!?まさかの彼にハグされて
第7話:新米社長、仕事と家庭の両立でピンチの社員を救う!!ツンデレ部下が突然キス!?
第8話:新米社長、部下の裏切りで大ピンチに!?会社も大損… あのキスも全部ウソなの?
第9話:新米社長、憧れの上司が解任され大ピンチ!!行き場のない彼が家に… 同棲開始!?
第10話(最終回):新米社長、会社も恋もすべて失う!?流され続けたヒロインが自分の幸せ決断

https://www.fami-geki.com/vod/drama-muchaburi/ より引用

 この各話タイトルにざっと要約されている通り、第3話以降から恋愛ネタが入ってきてそれが部下と憧れの本社社長との三角関係に向かい、実家から母親がやってきて、雇った友人社員の仕事と家庭の両立問題が挟まり、本社の取締役会で本社社長が解任されるというクーデターが起こり、最後に「会社は!?」、「恋愛は!?」、「仕事は!?」となる実にドラマらしい展開であった。

 

■「会社は!?」

 

 本社の取締役会で本社社長が解任されるというクーデターが起こり、高畑充希さんが社長を演じている子会社の存続も危うくなる。


 本社内の政治的なゴタゴタはサラッと描かれていた感じであったが、話の本筋ではないのでむしろこのぐらいで良かった。

 

 ここでのポイントは、解任された本社社長が高畑充希に「部下の裏切りもまた自分の責任」と説明するところにあると見えた。


 ドラマとしてはここから仕返しに転じるという流れもあり得る訳だが、ビジネスの王道として敢えて仕返しをしない話の流れにしたのだろう。

 

 スティーブ・ジョブズも自分で創業したアップル社を部下達によって解任されたが、一時は潔く身を引いたという話が思い出された。

 

■「恋愛は!?」

 

 恋愛ネタの設定は、仕事のできる年下の部下と憧れの本社社長との三角関係という実にあり得ない話であるが、ドラマだからいいのである。

 

 肝心なのは、仕事のできる年下の部下とめでたくお付き合いをはじめるという結末の納得感である。

 

 このドラマがターゲットとしている層は20代から30代の女性であろうと想定される。

 

 そしてこの結末は、この女性層の願望を描いたものであろうと思われるのだが、そうだとすると憧れの本社社長よりも仕事のできる年下の部下が望まれているという現実に、歳をくったオッサンである自分は驚くのである。(笑)

 

 もう一つ思うのは、若い男性視点ではこの年上の女性を支えていくような恋愛にどのくらい納得感があるだろうかということであった。

 

 この点については、機会があれば若者にきいてみたいと思っている。

 

「仕事は!?」

 

 仕事という観点ではまず、第7話で雇った友人社員の仕事と家庭の両立問題が挟まるところに注目したい。

 

 この友人は子育てで一旦仕事を辞めて数年経っており、再就職先を探しているところであった。

 

 その後、高畑充希の会社に入って頑張るのであるが、徐々に仕事と家庭の両立が難しくなってくる。

 

 ここでのポイントは、この友人もまた上手く周りを頼ることができないという事と、この友人の夫は妻の仕事に対してある程度の理解があるという事である。

 

 高畑充希は仕事をこなしていく中で上手く周りを頼ることができなかった訳だが、友人の場合は仕事と家庭の両立を回していく上で上手く周りを頼ることがでないという話を入れることで、女性の陥る状況の両面を描いている。

 

 また、一昔前であれば女性が仕事と家庭の両立が難しいという問題は典型的には男性の無理解として描かれていたが、ここでは男性の側にもある程度の理解があるというケースで描かれている。

 

 男性の側にもある程度の理解があるというケースでの具体的な問題が提示されていて、好感が持てた回であった。

 

 そして、この積ん読本を思い出した。

 

▼「そのひとことが言えたら… 働く女性のための統合的交渉術」北大路書房2005

 

そのひとことが言えたら… 働く女性のための統合的交渉術

 

 以前にタイトル買いした本である。

 

 著者はアメリカの研究者で文化的な違いが気にはなったが、「まえがき」には日本とアメリカの文化の違いに配慮したという記述があった。

 

 社会における理解の広がりの次にある現実的な問題の解決について、参考になるのではないかと思われる。

 

 そろそろ、読むとしよう。(汗)

 

 さて、このドラマ全体のオチとして、高畑充希は憧れの本社社長からその座を譲られることになる。

 

 今度は本社1500人の社長である。

 

 ここでまた、

 

「なぁ~にぃ~」

 

ということになるのではあるが、この展開は高畑充希に仮託している女性の在り方を2つの意味で提示していると思われた。

 

 一つには、強烈なカリスマ的なリーダーシップからチームを活かすリーダーシップへ、というメッセージである。

 

 ひう一つは、いろいろな経験をして変わっていくという生き方である。

 

 本社社長は、その座を高畑充希に譲る話をする時にこう言う。

 

「君は色んな人を変えられる力がある。君自身もまだまだ変われるんだ。」

 

 ビジネスよりの視点を強調するならば、前半部分だけのセリフであったことだろう。

 

 そこで終わらず、「君自身も変われる」と言って締めるように個人の生き方という視点に軸があるところもこのドラマの良さであった。

 

 そしてこの本社社長を、自分を信じて自分がしたいことを追求していくという人物として描いておくことで、この言葉の後半部分にも説得力が生まれていた。

 

 とはいえ、最後の本社新社長就任のスピーチを見ると全然うまくいくように思われなかったのであるが。(笑)

 

 それはまぁ、こういうドラマなのだということで、この主人公が実在したなら確かに今後の生き方は変わるであろうと感じることができる、悪くないオチであったということにしたい。

 

総評

 

 いかにもあり得ないドラマチックな設定と筋立てに、ビジネス的な視点をうまく盛り込んでいた。

 

 高畑充希さんの演技を含めコメディとして面白く、ビジネス的な視点にも奇をてらったところはなく、ドラマ視点でもビジネス視点でも楽しく観ることができた作品であった。

 

 

▼本日時点で視聴可能な配信サイト