前回では鄭問「東周英雄伝」(1990年~1993年)、前々回では鄭問「始皇(シーファン)」(1999年)を取り上げた。
鄭問(チェン・ウェン)さんは台湾の漫画家で、1990年3月から「週刊モーニング」に「東周英雄伝」を連載し日本デビューした。
「鄭問画集」は「東周英雄伝」から「始皇(シーファン)」までの8年間の作品を集めた画集である。
この本は出版当時に購入していた。
亜細亜的魔術!
豪快にして繊細、重厚にして軽快なり。『東周英雄伝』『深く美しきアジア』『始皇(シーファン)』、1990年の日本上陸で日本漫画界に霹靂の如く衝撃を与えた台湾の巨星・鄭問(チェンウェン)、8年の画業の精華を集めた第1画集、ついに刊行。そして独創の世界を生み出す鄭問マジックの秘密が、自らの口で語られる。
※上記バナーの商品サイトより引用
商品サイトの説明に「鄭問マジックの秘密が、自らの口で語られる。」とあるのは、最後の第五章は特別インタビューとなっており、そこには「始皇」のタイトルは歯ブラシを使って書いているといった画法の説明も含まれている。
今回、「鄭問画集」を取り上げたのは、このインタビューを再読したからである。
というのも、前回、前々回の記事では鄭問さんは「歴史ではなく人間を描きたいのだ」ということを強調してきた訳で、この点の理解を深めるために作者本人の語りを読みたいと思ったからである。
このインタビューによると、鄭問さんが最初に絵に興味をもったのは小学校の頃で、手塚治虫の「鉄腕アトム」を教科書の隅に書いていたという。
けれども漫画家になろうと思っていた訳ではなかった。
その後に進学した、復興商工(台湾の美術系の職業高等学校)では彫塑を専攻していたという。
卒業後は内装のデザイナーを経て漫画家になるが、この彫塑を学ぶ過程で製作対象を立体として考えなくてはならなかったことが漫画に生きているという。
どういう漫画を描きたいのかということについては、直接的にコメントしている所は見当たらなかった。
知りたかったことに一番近いと思った内容は下記である。
絵そのものにこだわっています。だから自分の気持ちか作中人物か分けられないのです。日本の漫画家は「いかに作中人物の感情を表すか」に重きをおきますよね。でも私の場合は、「絵そのもの」という概念に置き換えます。」
「私が達成したいと思うのは、1人の人の顔を描いて、その人が何を考えていて、どういう生い立ちであるか、どんな心持の人なのかわかるような絵です。」
※鄭問「鄭問画集」p155 より引用
鄭問さんは、その人の気持ちが溢れる人物が描きたい人なのだった。
強い想いと激しい情念に溢れる歴史上の人物を描くというのは、鄭問さんの画力が活きる最良のジャンルに違いない。