映画「千年一問」 ※鄭問(チェン・ウェン)のドキュメンタリー映画 | 日々是本日

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 今回も引き続き鄭問(チェン・ウェン)の記事である。

 

 前回は鄭問さんの創作意図を確認したいと思って再読した、「鄭問画集」の中のインタビューについて書いた。

 

 結果的には、どういう漫画を描きたいのかということについては、直接的にコメントしている所は見当たらなかったということもあり、ネットの情報を見ていたところ鄭問さんは2017年に亡くなられていた。

 

 

 えっ・・・

 

 58歳、心筋梗塞。

 

 っ・・・・・・

 

 しばらく呆然としてしまった。

 

 既に亡くなられていたとは、しかも58歳とは若すぎる・・・ 

 

 そして、鄭問(チェン・ウェン)のドキュメンタリー映画が製作されていた。

 

 

▼映画「千年一問」予告編

※監督は王婉柔(ワン・ワンロー)

 

 残念ながら、日本で今観る術が見つからなかった。

 

 鄭問さんの略歴については下記の記事を参照されたい。

 

 

 これまで記事の締めくくりとして、ここでは鄭問さんの作品を振り返って終わりたいと思う。

 

 台湾マンガ研究所に掲載されている作品リストは以下である。

 

▼台湾マンガ研究所

【作品リスト】(台湾中国語版)

『戦士黒豹』
『戦士黒豹第二部』
『闘神』
『刺客列伝』
『臥龍先生』
『鄭問特刊』
『鄭問絵畫技法創作画冊』
『阿鼻剣』
『東周英雄伝』
『MAGICAL SUPER ASIA–深く美しきアジア』
『2096–百年後の英雄』
『鄭問画集』
『万歳』
『始皇』
『漫画大霹靂』
『人間仏教行者–星雲大師』
『風雲外伝:天下無双』
『鄭問画集–鄭問之三国誌』

 

台湾マンガ研究所 「鄭問」の項 より引用

 

 まず、台湾での漫画家デビュー作品である「戦士黒豹」はどんな作品だろうか。

 

 台湾版の復刻版の画像があった。

 

▼1983年台湾でのデビュー作品「戦士黒豹」

※通販サイト「K:COLLECION+」の商品情報より

 

 なるほど・・・ちょっとビックリ・・・・・・中身の想像がつかないなぁ・・・・・・・・・

 

 これ以降で、日本で出版されたのは順番としては「刺客列伝」である。

 

▼台湾では1986年に出版された「刺客列伝」

刺客列伝

※日本での出版は1998年だが台湾では「東周英雄伝」の前に出版されていた。

 

 原作の「刺客列伝」は、司馬遷の「史記」の中にある「列伝」である。

 

史記列伝1 (岩波文庫 青214-1)

 

中国最初の史書『史記』の最後にこの七十の列伝が置かれている.宰相,武将,循吏,酷吏,刺客,侠客,素封家等,司馬遷は貴賤を問わず「正義を保持し,ひとに屈せず,機を失わずして世にあらわれた人々」をとりあげ,それぞれにしたたかなこれらの人間の生きざまを,躍動する筆致で描き,史記の全体世界像を構成する.

 

 

 この司馬遷の「列伝」の中で「刺客列伝」として、曹沬(そうばつ)、専諸(せんしょ)、豫譲(よじょう)、聶政(じょうせい)、荊軻(けいか)の五人が取り上げられている。

 

 作品中の鄭問さんのコメントでは、「史記」のテーマにこのように触れている。

 『史記』の一貫したテーマの一つ「侠(きょう)」の心を鮮やかに描き出した一編で、「士は己を知る者のために死す」という豫譲(よじょう)の一言が印象的である。

 

※「刺客列伝」p22 より引用

 ここには、鄭問さんが描きたくなるようながあったのだ。

 

 「己を知る者のために死す」

 

 というのは社会的である人間の認め合いの究極の結末ではないかと思う。

 

 日本語版には鄭問さん自身による序文が追加されているので、これも紹介しておく。

日本語版の出版にあたって

 

『刺客列伝』は私が名を成すことになった作品で、

この作品によって私のその後の創作のスタイルが開かれ、

また海外での知名度を広めることになりました。

このため私は『刺客列伝』にはつねに強い思い入れがあるのです。

 

どの作家も創作という道のりでまじめにやっていれば、

必ず何らかの成長が得られるもの。

私もこんにちに至っては、

ストーリーの展開の技術、絵の技法など、昔の私を超えたでしょう。

しかし「刺客列伝」を描いたあの頃の

「好きなように描いて何が悪い」というパワーは、

今の私には及ばない何かがあるのです!

 

※「刺客列伝」日本語版序文 より引用

 

 そしてこの後の1990年に「東周英雄伝」で日本デビューを果たすことになる。

 

 「東周英雄伝」については下記の記事を参照されたい。

 

 

 「東周英雄伝」は講談社の漫画雑誌「週刊モーニング」で連載されていたが、1991年末から講談社の漫画雑誌「月刊アフタヌーン」でも「深く美しきアジア」の連載が開始される。

 

 この作品はなんと奇想天外なSF作品である。

 

 どんな話かは下記の単行本のAmazon商品サイトの説明を参照されたい。


▼「深く美しきアジア」第1巻(1992年)

深く美しきアジア(1) (アフタヌーンコミックス)

※記事作成時点では試し読みページあり

理想と秩序だけが支配する世界の実現を目指す魔界の子・理想王と、あらゆる厄災をもたらす疫病神・百兵衛の対決! 日本漫画界に霹靂(へきれき)の如く衝撃を与えた台湾の巨星・鄭問(チェンウェン)が描く神秘世界! 魑魅魍魎が乱舞する――!!

 

※上記バナーの商品サイトより引用

 

 鄭問さんの描く魑魅魍魎が乱舞するSF世界!

 

 1993年まで連載され単行本は全5巻である。

 

▼「深く美しきアジア」第2巻(1993年)

深く美しきアジア(2) (アフタヌーンコミックス)

※記事作成時点では試し読みページあり

 

▼「深く美しきアジア」第3巻(1993年)

深く美しきアジア(3) (アフタヌーンコミックス)

※記事作成時点では試し読みページあり

 

▼「深く美しきアジア」第4巻(1994年)

深く美しきアジア(4) (アフタヌーンコミックス)

※記事作成時点では試し読みページあり

 

▼「深く美しきアジア」第5巻(1994年)

深く美しきアジア(5) (アフタヌーンコミックス)

※記事作成時点では試し読みページあり

 

 作品世界そのものについては、上記バナーの商品サイトの試し読みページ、または、下記の講談社コミックプラスの試し読みページでご覧いただきたい。

 

 

 さて、漫画雑誌スクラップの中の「月刊アフタヌーン」関連を探したら、当時の予告ページがあった。

 

 鄭問さんのコメント付きなのでこれも紹介しておく。

 

 

日本には素晴らしいSFの漫画が多く、それだけに「深く美しきアジア」に対して「東周英雄伝」の数倍もの心血を注いでいます。それでこそ、新しい創意とストーリーを語る方法を、読者の皆さんに提出できると考えています。

私の表現したいものは、冷艶な機械や広い宇宙ではなく、人間の行為と心なのです。これが今の私の願いであり、朝鮮なのです。(鄭問氏)

 

※「月刊アフタヌーン」1992年1月号の「深く美しきアジア」予告ページより引用

 

 「『東周英雄伝』の数倍もの心血」が注がれたというのには驚いたが、原作を持たず新しいものを創るというのはそういうことなのだろう。

 

 正直なところ個人的感想としては話が面白かったかどうかは微妙なところなのであるが、美術的世界は斬新だった。

 

 その後の1998年に、台湾では1986年に出版されていた「刺客列伝」、「鄭問画集」、「萬歳」、の三冊が日本で同時に発売される。

 

 「刺客列伝」については前述の通りである。

 

 「鄭問画集」は「東周英雄伝」から「始皇(シーファン)」までの8年間の作品を集めた画集である。

 

 詳細については下記の記事を参照されたい。

 

 

 「萬歳」は「週刊モーニング」1995年38号から連載された作品である。

 

 どんな話かは下記の単行本のAmazon商品サイトの説明を参照されたい。

 

▼「萬歳」全1巻(1998年)

萬歳

天の真理を知りたい者は誰だ!
放浪の風水師・萬歳が守る箱「天機(てんき)」には、天の真理と、その番人「天譴(てんけん)」が封印されている。そして現代香港の黒社会に出現した項羽という名の男が、天の真理を手に入れる野心を持った!はるか古代より伝わる中国ト占の世界を、CGと毛筆の驚くべき融合をもって鄭問が描く。

 

※上記バナーの商品サイトより引用

 

 CGと毛筆の融合!

 

 これも昔に読んだ筈なのだが内容は思い出せなかった。

 

 「鄭問画集」にはカラー図版が6点収載されており、このCGと毛筆の融合は商品サイトに記載の通り「驚くべき融合」であった。

 

 残念ながら試し読みページは見つからなかった。


 いよいよ最後は「鄭問画集–鄭問之三国誌」である。

 

▼「鄭問画集–鄭問之三国誌」(2002年)

鄭問画集―鄭問之三国誌

鄭問による描き下ろし表紙のほか、PS2ソフト「鄭問之三國誌」のために描き下ろしたイメージイラストを一挙公開。武将イラストも余すところ無く収録!

 

※上記バナーの商品サイトより引用

 

 なぜ三国誌なのかというと、三国誌のゲームのキャラクターデザインを手掛けていたからである。

 

▼「鄭問之三國誌(チェンウェンのさんごくし)」

鄭問之三國誌(チェンウェンのさんごくし)

※2001年発売のPS2ゲーム

 

 画集とゲームについてはまだ未見である。

 

 「鄭問画集–鄭問之三国誌」以降の情報については、幾つか検索したが見つからなかった。

 

 この画集とゲームと鄭問さんのその後については、気にかけておこうと思う。

 

 最後に、鄭問さんへ台湾で「国家に大きな功績があった国民」へ授与される褒揚令が贈られたことを記して終わる。

 

 

 謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

 

▼Taiwan Today の鄭問さんへ褒揚令授与の記事

「蔡総統、漫画家の鄭問さんに褒揚令 Taiwan Today」

https://jp.taiwantoday.tw/news.php?unit=151&post=114165

※告別読書会の案内ポスターが素晴らしい