ジョージ秋山、大島 剛「漫画家本 ジョージ秋山本」小学館2021 | 日々是本日

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bookudakoji の本ブログ

 漫画家ジョージ秋山さんが2020年5月に逝去されていた。

 

 そのことをノンジロウさんのブログで知った。

 

 

 てっきりまだ、ビッグコミックオリジナルに「浮浪雲」連載されているものかと……

 

 「浮浪雲」が続いている間はお元気だろうと勝手に思っていたが、その「浮浪雲」も2017年で連載が終了していた。

 

 よく考えてみればそもそもジョージ秋山さんが漫画連載を開始したのが、自分が漫画を読み始める前である。

 

 お歳を考えれば不思議ではない。

 

 享年77歳であった。

 

漫画家本 ジョージ秋山本 (少年サンデーコミックススペシャル)

故ジョージ秋山先生の業績を称え追悼し、その全貌に迫る!
去る2020年5月に逝去したジョージ秋山。
デビューから晩年まで、絶えず問題作、話題作、そしてヒット作を
送り出し続けてきたその軌跡を、先達、後輩、担当者の証言で追う。
最初期作品、デビュー作品をはじめ、主たる作品解説リストも掲載。
漫画史上、稀有の鬼才を一冊に!

(上記バナーの商品サイトより引用)

 

 ノンジロウさんのブログを読んですぐにこの本を買い求めた。

 

 共著の大島さんは「浮浪雲」の最後の担当編集者である。

 

 私自身、この異色な作品を描く漫画家ジョージ秋山の人柄はどんなものがろうかと思っていたが具体的なエピソードを知る機会を逸していたので、この本の内容は実に興味深かった。

 

■ペンネームについて

 

 本名は秋山勇二(あきやまゆうじ)なのでそれを文字ったのかと思ったが、「クイック・ジャパン」誌のインタビューでは日本人ドラマーであるジョージ川口さんのようなバンドマン風の名前にしたかったと語っているようである。(「クイック・ジャパン」誌の出典ページ未確認)

 

 

 「漫画家本 ジョージ秋山本」ではこう語っていたと掲載されていた。

 

こんな仕事バカくせえから「30ぐらいまでやればいいかな」と、だから「ジョージ秋山」なんてペンネームつけたんだ。「ジョージ」なんてペンネーム、30過ぎたら恥ずかしいでしょ。

(「漫画家本 ジョージ秋山本」p208 より引用)

 

■風貌について

 

 どんな風貌だろうかと思ったら大柄で強面な感じの人でなかなかインパクトがあった。

 

 「漫画家本 ジョージ秋山本」の11ページにカラー写真があるが、「浮浪雲」の主人公である雲(通称:かしら)の後期の顔にかなり似ていた。

 

 

■作品について

 

 傑作多数であるので、個人的に忘れがたい事項について簡潔にコメントする。

 

 まず、私が少年の頃に「なんでこんな絵がかけるのだろう」と思わされた、非情な情念の半月の眼をした主人公は忘れることができない。

 

    ▼「銭ゲバ」

銭ゲバ (Magical comics)

 

    ▼「アシュラ」

アシュラ 完結編

 

 そして1989年に「ヤングマガジン」で連載が開始された「ラブリン・モンロー」の擬人化はかなり衝撃的だった。

 

ラブリン・モンロー 1 (ヤングマガジンコミックス)

 

 この作品はナチスドイツをモチーフにした設定で、オオカミの総統(カバー絵の中段)、ブタの女(カバー絵の上段)、ブタの男(カバー絵の下段)の三人が主要人物である。

 

 そしてブタの女を巡る三角関係を軸にストーリーが展開していく。

 

 最初に読んだ時は衝撃的にして、実に謎めいた作品に思われた。


 数年後に単行本を読み返すと、そもそもの擬人化の設定によって、オオカミが残虐でおかしくないしブタだからオオカミに脅かされておかしくないということが当たり前の前提になるから、その奥にある心の動きの本質を考えさせられるのだと感じた。

 こんな作品はジョージ秋山さんしか描けないだろう。

 

 その他、映画化もされた「ピンクのカーテン」の不思議なエロティックさも忘れ難い。 

 

ピンクのカーテン (13)

 

 

■「浮浪雲」について

 

 そして、ジョージ秋山さんと言えばなんと言ってもこの作品である。

 

 1973年から2017年までビッグコミックオリジナルに連載され、単行本は全112巻、収録話数1039話である。(下記のビッグコミックサイトより)

 

<作品紹介>

舞台は幕末の品川宿。物事に執着せず、 ふわりと生きる問屋場の頭、浮浪雲。 子供の教育や夫婦間の問題、 はたまた女性のくどき方まで、 人生の名人浮浪雲がサラリとヒントを与えてくれる。 悩める現代人必読の名作ドラマ!!

(上記バナーのビッグコミックサイトより引用)

 

 問屋場の頭であることから「かしら」と呼ばれているが、特に何をするでもなく過ごす主人公「浮浪雲」の一話完結の物語である。

 

 なんだろうこの漫画は……、何を伝えたいのだろう……

 

 若い頃に最初に読んだ時は、こう思って実にモヤモヤする作品だった。

 

 こういう作品は自然に読まなくなる。

 

 時を経てまた途中から読み始めると、面白いというよりも何かホッとするものが感じられた。

 そしていつの頃か、変に面白いという心境に至った。

 

 もともとこの作品は幕末の過激な時代物の予定であったらしく、ジョージ秋山さんもこう言っている。

「浮浪雲」はよ、はじめは“うかれぐも”だったんだよ。でも、勢いが足りねーっつんで、当時の編集長が“はぐれぐも”にしたんだよ。最初はもっと過激な時代モノを期待されてたみたいでね、“こんな漫画、発注してねーぞ”なんて、担当が編集長に怒られたりしてたんだ。

(「漫画家本 ジョージ秋山本」p208 より引用)

 こうして始まった作品が振り返ってみれば、超ロング連載作品となった。

 

 「漫画家本 ジョージ秋山本」に記載されている編集者の話によれば、ジョージ秋山さんは“はぐれ”をライバル視して自分と比べていたそうで、連載終了前あたりでは「はぐれが出てこない」と言っていたという。

 

 もの凄く描き手の人柄が出ている作品だと思っていたが、そうか、本人だったのか。

 どおりで顔も似ている訳だ。

 

 描いているうちに自分が投影されてライフワークになったのだろうか。

 

 主人公の「かしら」の後期の顔がご本人と似ているようだということは先述したが、第1巻表紙と見比べると後期の顔は大分変っているのがわかる。

 

▼「浮浪雲」第1巻の表紙

浮浪雲: 遊の巻 (1) (ビッグコミックス)

 

▼「浮浪雲」第112巻(最終巻)の表紙

 

浮浪雲(はぐれぐも) (112) (ビッグコミックス)

 

 「漫画家本 ジョージ秋山本」の後半には「青春喜劇」という作品が全ページ掲載されている。

 

 「銭ゲバ」連載開始する直前に書かれた自伝的作品である。(初出は別冊少年マガジン1970年2月号)

 

 本当に漫画が描きたくて、漫画に描きたいことを描いた人だったということが伝わってきて胸が熱くなった。

 

 そしてもう「はぐれが出てこない」ところまで「はぐれ」を描いたのだ。

 

 描き切ったのだろうと思い安堵した。

 

 ご冥福をお祈りいたします。

 

 

▼2020年6月7日のYahoo!ニュースの追悼記事はこちら

 

▼映画化作品については 映画.com の下記サイトを参照