映画「ドラマクイーン フルコーラス」 | 日々是本日

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 映画「ドラマクイーン フルコーラス」は、Amazon prime video 配信の日本映画である。

 

ドラマクイーン フルコーラス

 

 「ドラマクイーン」の標準的な意味はドラマのヒロインであるが、「 芝居がかった行動をする人」、「過剰に騒ぎ立てる人」といった意味にも使われるようである。

 

 男女雇用機会均等法によるセクハラ禁止、最近のパワハラ防止法施行などハラスメントに対する社会的意識は高まってきているが、これは「過剰に騒ぎ立てる人」という意味でのドラマクイーンに会ってしまう可能性も高くなったとも言えるだろう。

 

 こんな本が出版されているくらいだから、上も下もやり難くなったものだ。

 

あなたの会社に「ドラマクイーン」はいませんか? -残念な管理職への対処法-

 

 もちろん、この作品のタイトルである「ドラマクイーン」はこの「過剰に騒ぎ立てる人」の意味で使われている。

 

 タイトルに「フルコーラス」と付いているのは長編版ということであり、33分のショートバージョンは「フルシャウト」となっている。

 

 

 監督の三笠大地さんは、2017年に「世界の終わりに問う賛歌」という作品で第11回小学館ライトノベル大賞・審査員特別賞を受賞して商業デビューされた作家兼映像クリエイターである。

 

 主演(作品中の映画監督役)の久保宏貴さんは、去年の冬に牛角のおもしろCMに出演していた俳優さんである。

 

▼牛角のCM(右が久保宏貴さん)

 

 ヒロインは風谷南友さん。

 

 声がアニメっぽいと思ったら声優もされていた。

 

 内容は映画「スマホを落としただけなのに」に近いサイコサスペンスの印象で、Amazon prime video のジャンルは「ホラー」となっている。

 

 好みが分かれるところではあると思うので、事前に予告編での確認をオススメする。

 

 久保宏貴さんのブログでも内容が紹介されているのでこちらも参照されたい。

 

 

 Amazon prime 会員は特典で無料、非会員は200円であるが、個人的にはこの手の作品が好きな人には値段以上のものがあるのではないかと思う。

 

 

---以下、ネタばれありの感想---

 

 

 事情が徐々に明らかになっていく序盤で登場人物達の判断が二転三転していくあたりは、映画「羅生門」(あるいは芥川龍之介の原作小説「藪の中」)を思わせる雰囲気だが、そう思って観ていると新しい事実が確定していって本来のテーマである「男女の問題」に引き込まれていった。

 

 基本的にはどの世界でもあるだろう「女を武器にしていく話」を、男女の生物学的な違いや性別役割の違いと対照させて是非を問うことによって、考えさせられるところがあった。

 

 誰の脚本か確認したら、企画原案も含めて監督の担当であった。

 

 作家兼映像クリエイターである監督の面目躍如である。


 自然そのものには善悪はないから、男女の生物学的な違いや性別役割の違いそのものに善悪があるわけではない。

 

 個人的には「違いは埋まらないが故に共存するしかない」というメッセージを受け止めたが、人によって受け止め方は異なるだろう。

 

 作品中の映画の脚本がゴミ箱に捨てられるという結末についても、見解は人によって随分と異なるのではないだろうかと思う。

 

 泣きながら歩いているうちに回想がはじまり、それと同時に膨らみはじめていた希望的な未来への予感に、いきなり冷や水をかけられたようだった。

 

 その時は辛口だなぁという感想を持ったが、観終ったあとでは実に現実的な結末だとも思った。

 

 映画の完成を目指していいくことは、取り返しのつかない自分の行為と向き合って乗り越えていく過程でもあり、実際には茨の道だからである。

 

 以下、2つほど余談をして終わる。

 

 専門的な内容として、人類学のエピソードが語られる。

 

 若い人類学者がニューギニアで原住民の旅行に同行した時、夫が先導して妻が重い荷物を運んでいたという話。

 

 最初は夫が楽をしていると思ったが、現地での旅は夫が先導して危険がないことを確認しなければならないくらい危ないものであるという事情が明らかになり、最初の判断は誤りだったとわかったという。

 

 記憶が正しければ、人類学の大家であるジャレド・ダイアモンド博士の実話である。


 もう一つ。

 

 終盤に刑事が作品中の映画監督について、映画製作に頓挫した後で、うつ病、統合失調症、アルコール中毒等で精神科を受診しており、多重人格障害の恐れがあったと語る。

 

 映画の中でもっともらしく語られると、うつ病、統合失調症、アルコール中毒の患者さんが多重人格的であるかのような印象を受けかねないが、そんなことはないので注意されたい。

 

 うつ病、統合失調症あるいはアルコール中毒から多重人格障害に進行するケースはほぼ皆無だろうから別の設定の方がよかったなぁと思う次第である。