※「100分de名著」は各回 25分×4週 = 100分 で毎月一冊の名著を紹介するNHKの番組である。
2019年7月の100分de名著は「小松左京スペシャル」だった。
言わずと知れた日本のSF作家である。
生没年は、1931年(昭和6年)~ 2011年(平成23年)、80歳であるので、今の若い世代での知名度はどうだろうか。
先に各回のタイトルを見てみよう。 ※「」は著作タイトル
第1回 原点は「戦争」にあり ~「地には平和を」~
第2回 滅びとアイデンティティ ~「日本沈没」~
第3回 深層意識と宇宙をつなぐ ~「ゴルディアスの結び目」~
第4回 宇宙にとって知性とは何か ~「虚無回廊」~
小松左京スペシャル 2019年7月 (NHK100分de名著)
566円
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タイトルに挙がっている4作品の中では「日本沈没」が一番有名ではないだろうか。
しかしながら「日本沈没」ですら映画で観た口である。
小松左京とはどんな作家であり、これから読むべき作品はあるのだろうか?
これが「小松左京スペシャル」全4回を観る上での問題意識であった。
▼第1回 原点は「戦争」にあり ~「地には平和を」~ ※1963年作品
地には平和を (角川文庫)
734円
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終戦間際の日本が、架空の歴史である一億総玉砕に向かって突き進んでいくという、その時に生きる中学生が主人公の物語である。
この架空の歴史が未来のマッドサイエンティストによるという展開あたりから本格的なSFとなっていくようである。
中学生の時に終戦をむかえた小松左京自身の戦争体験が背景にあると言われていた。
▼第2回 滅びとアイデンティティ ~「日本沈没」~ ※1973年作品
日本沈没 決定版【文春e-Books】
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日本沈没
地震によって日本が沈没するという予測が徐々に真実となっていく日本を描いた作品である。
沈没がクライマックスかと思われたが、実は、国を失った時の日本人のあり方がテーマであった。
▼第3回 深層意識と宇宙をつなぐ ~「ゴルディアスの結び目」~ ※1976年頃の作品
ゴルディアスの結び目 (角川文庫)
820円
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他人の深層意識(潜在意識/無意識)に入り込むという設定は、1976年頃の作品にしてはかなり斬新な上に、「潜在意識の底に別の宇宙につながる「超空間の穴」のようなものを見つけ」(※)、これまたあり得ないオチで終わる作品であるという。
解説をきいているだけで何回もビックリさせられた。
※公式サイト解説より引用
▼第4回 宇宙にとって知性とは何か ~「虚無回廊」~ ※1986年から連載されたが未完
虚無回廊
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この作品のテーマは「宇宙の中での人間存在の意味」であるという。
もうこれだけで十分にガツーンときてしまう。
地球から5.8光年の距離に出現した謎の筒状物体「SS」、AIを超えた「人工実存(AE)」、数多くの異星生命体との遭遇といった、あり得ないだけでなくそれ自体容易には想像がつかないものによって物語が展開されていくというのである。
全くもっと驚くばかりである。だがこれこそが小松左京でしかあり得ない設定であり、道具立てなのかもしれない。
しかしながら未完である。
オチは自分でつけるしかないのである。
この回のゲストである小説家の瀬名秀明さんが、
「SFの楽しみここに在りというベラボウに面白い小説」と評しているのを聞きながら、どうしたものかと逡巡が止まらない・・・
番組はいよいよ全4回のまとめに向かって進んでいき、小松左京の自伝の一部が朗読される。
「人類を、地球を、宇宙を丸ごと描けるのがSFだ。」
自分の中で小松左京はこう言っている。
小松左京にとって、世界が相対化できる、宇宙すらも相対化できるSFとは、宇宙と人間存在の意味を問う舞台であったのだ。
更に瀬名さんが小松左京の考えを語る。
「未来を作る行為がSFである。」
「現代においては作られた未来は現実化していくが、
それをまた知性と想像力で乗り越えていくのである。」
ここでまたガツーンときた。
現実では確かに宇宙の謎が解明されつつあり、AIは本当に意識を持ち得るかもしれない。
そうした時代を想像力で乗り越える糧として、この本が必要になる日がくるのではないだろうか。
またこの回で熱く語る瀬名秀明さんの姿は、ファンの方にオススメしたい。
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