名残の飯 橋場の渡し
隅田川のほとり、千住大橋の下流に
飯屋「しん」はあります。
よく通る声で厳しくお店を取り仕切る女将のおしげと
その娘で、丸顔でふっくらとした体つきで
明るくお客さんに接するおけい。
奥州へ向かう江戸の出口にあたるこの場所には
さまざまな旅人が通りかかって、
おいしそうな飯のにおいにひかれて、
立ち寄っていきます。
春の日差しのような温かい、心地よい語り口ながら
何かをあきらめた切なさがただよいます。
人類の起源
「人間は何者なのか」
この問いへの答えが、古代の人類の骨のゲノム研究で
明らかになる時代になりました。それを可能にしたのが、
今やだれもが知っている、PCR法です。コロナウイルスを
検知することに使われている技術が、人骨に残された
微量の遺伝子を増幅し、その人骨の祖先がどこから来たのか
調べることに活用されています。
たとえば日本人は、日本列島にもともといた縄文人と、
大陸から渡ってきた弥生人が混ざりあって今の日本人に
なったと説明されてきたと思いますが、
実際は縄文人も東南アジアから来た人たちと大陸から来た
人たちの混血であったことがわかってきました。
つまり、人類は歴史が記録されるようになるはるか前から、
大規模に移動し、混血を繰り返してきたのです。
ヨーロッパに住んでいる人と言えば、原始時代から
白い肌で金髪、青い目をしていたという印象がありますが、
有史以前の人骨からゲノム解析すると、実際にはまったく
違った姿をしていたことがわかりました。詳しくは本書を
読んでください、といいたいところですが、
青い目と白い肌も、それぞれ違った遺伝子から発生して
いるので、褐色の肌で青い目という組み合わせでも、
不思議ではないそうです。
文章はちょっと難しいですが、語りかけている内容は
とても衝撃的です。終章まで読んでいただければ、
人種という考え方が、生物学上は無意味であって、
アーリア人種の純粋な血統、などといった考え方が
間違っていることがわかります。
私個人としては、学生時代にトインビーの「歴史の研究」を
読んだとき、文明の間で勝者、敗者をわける考えに
共感できず、ずっと感じていたモヤモヤが、この本を読んで
晴れたように思います。
ゲノム研究の最前線の世界を、ぜひ体験してください。
『往復書簡 限界から始まる』上野千鶴子 鈴木涼美
中国の友人がこの本を読んだというので読んでみました。
いま、中国では上野千鶴子さんの本が大人気で
Weiboのトレンド1位にもなっています。
30代半ばを迎えて、母親との葛藤や、将来の仕事や
結婚について逡巡する鈴木涼美さんに、上野千鶴子さんが
助言するような構成に、図らずもなのか、なっています。
上野さんの広範な知識のおかげで、日本のフェミニズムの
歴史を把握することもできますし、ブルセラショップやAVの
当事者としての鈴木さんの、生々しい体験談も聞くことが
できます。
上野千鶴子さんは自分が大学生くらいのころに、とても
話題になっていた著者ではありましたが、その挑戦的な
姿勢ゆえに、読むのを避けていました。
朝日新聞の人生相談のコラムから彼女の考え方に興味を
持つようになりましたが、この本では上野さんがご自身の
かなりプライベートな事まで話をしていて、彼女が
なぜ今の仕事を選ぶことになったのかもわかって、
貴重なのではないかと思います。
なぜ上野さんの本が中国で売れているのかと言えば、
女性もバリバリ働いて活躍するようになった若い世代と、
まだ昔ながらのイエ制度の考えを持ち続ける親の世代の
対立が、ちょうど30年くらい前の日本の状況と、よく
似ているからではないかと思います。そして、
その気持ちを代弁する作家が、中国にも欧米にもいない
のでしょう。
人間は最後はひとり、ではありますが、そこに行きつく
までのパートナー選びは、より自由であってほしいと
思いました。