普通に考えたら、何事も未経験者より経験者の方が有利だ。
それは、その通りだと思う。
飲食店はやはり飲食店経験者がいれば話が早い。
そんな中で僕たちは、未経験者だけでいきなり飲食店を始めた。
店長のコスモは、ここに来る前に広島の山奥のカフェで働いていたが、まぁ素人に毛が生えた程度だった。
だから、大変なことだらけ。
値付けから料理の盛り付け方、接客の仕方まで標準がわからない。
必死に本を読んで学んで、経験者に聞いてみてなんとなく知る。そんなことの繰り返しだ。
だから、未だに標準がわからない。
そんな中で僕なりの標準は、自分が客の立場で感じた良かったことをやって、嫌だったことはやらないようにしようという二つだけだ。
そして、そもそも店を始めた理由のひとつであるビジネスの中に「良心」なんていうものを持ち込んだら通用するのか。
また、良心がここを起点に外へ外へと広がっていくことが可能なのか。
それを実験する場であることも忘れてはならなかった。
僕は業界の標準がわからないので、そんなことを自分のスタンダードに決めて店を作ってみることにした。
それが、以前にも記した恩送りカードや運命図書館だ。
また、コーヒーも飲んで心が穏やかになる、優しい気持ちになれるような味を選んだ。だから、AETHERでは深煎りのストロングなコーヒーは置かず、香り豊かで優しい味のコーヒーを揃えている。
料理も、化学調味料を使わず、天然の発酵食品を多く使うようにしている。
一押しメニューの島カレーも、無添加の味噌や塩などをベースにしている。
「AETHERで食事したら、何故だかわからないけれど、次の日調子がいい。」そんな風に感じてもらえることを狙っている。
そんな和風ベースのカレーだから、仕込みの時間になると、店外にも昆布や生姜やウコンの匂いが漂ってしまう。
何ともカフェらしくない匂いだ。
僕が長年カフェを経験していたら、こういうメニューにはならなかったかもしれない。でも、未経験者だからできる発想なのだと思う。
そして、このカレーが人気を呼び、今ではメールで予約をもらうこともたびたびある。
実は、この未経験は、業界の常識をブレイクスルーする大きな武器なんだと思っている。
僕はこれについては、社労士業務を通して大いに体感している。
僕が社労士でそこそこ仕事ができ、それなりに名前が通ったのは、就業規則という業務からだった。就業規則についての本を出版し、それが業界や企業に直接的あるいは間接的に影響を与えたと思う。
僕がしたことはこういうことだ。以前は、就業規則は法律で定められているから仕方なく作るもの。だから、内容はあまり関係なく、形式上あればいいという考えが主流だった。特に中小企業ではそうだった。
それを僕は「なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?」という本で、「就業規則を工夫したら、会社にこんなメリットがありますよ。生産性が向上しますよ。」と実例を挙げて紹介したのだ。
でも、この本を出した時、僕はまだ開業して4年目だ。
なぜ、そんな本を出せたかというと、僕は、まだまだ業界経験も浅く、さらに独立する前は人事や労務に全く関係していなかったからだ。
だから、業界や人事部の常識というものが全くなかった。
社労士になった時、現場で働く側の視点に立って、「こんなルールがあったらいいのになぁ?」という妄想からルールを考えた。そこに社労士になって勉強した労働基準法などの知識を織り交ぜていくことができた。
なまじ人事部に長く在籍などしていたら、法律論から入ってしまい、法律の枠内で組織をきっちりと回すことはできたかもしれないが、枠外の発想ができなかったと思う。
未経験だから発想できた。
こんな実体験から新たな岐路に立とうとしている友人たちにも心の中でいつも祈っていることがある。
「未経験を恐れるな!」
「未経験だからできることを探せ!」
これは、自分自身にもいつも言い聞かせている。
いつまでもチャレンジャーでいたい。
