コーネル・ウールリッチ No.42◇夜の闇の中へ◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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図らずも殺してしまった女のやり残したことを、自分が果たそうと決めたーーー






◇夜の闇の中へ◇ -Into the Night-

コーネル・ウールリッチ ローンレス・ブロック 補綴 稲葉明雄 訳



あなたが果たせなかったことを、わたしが成し遂げてみせる……拳銃自殺に失敗し、誤って見知らぬ女性を死なせてしまったマデリンは、その女性、スタアの身代わりとなって生きようと誓う。マデリンはスタアの過去を探り始め、彼女が生前に、自分の人生を破壊した人々への復讐を決意していたことを知るーーーサスペンスの詩人が遺した未完原稿を、実力派作家ブロックが補綴。若い娘の憎悪と情熱、愛と復讐を描く幻の遺作長編。



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マデリン・チャーマーズは死ぬことにした。人生に目的が無かったからである。しかしいざ、自殺を図ろうとしたら弾は出なかった……自分は生きることに勝ったのだ。もう拳銃は捨ててしまおう。生きている喜びに浮かれたのが間違いだった。拳銃を置いた勢いで弾が発射されたのだ! その上その弾が1人の女性の命を奪ってしまった!



死んだ女性はスタア・バートレットといった。彼女の名前を教えてくれたラジオはもうそれっきり事件の話をしなかった。マデリンは決めた。スタアのやり残したことをわたしが果たそうと。その為には彼女のことをよく知らなければならない。



マデリンは良心の呵責に苛まれながらスタアの故郷に向かい、母親シャーロットに会う。彼女の口からスタアは妻ある男と結婚し幸せだったが男の前妻によってその幸福が壊されたことを知る。そして夫を殺そうと計画していたことも。



これだ! 夫の前妻に仕返しをし、夫を殺す。これがスタア=マデリンの目標だ。マデリンはまず女ーーー歌手アデレイドを他人を利用して仕返しする。もう2度と歌えないようにしてやった。さて、問題は男だ。名前は分かっているが探すのは容易では無い。しかし遂に……



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「夜の闇の中へ」です(・∀・)



遂にウールリッチ=アイリッシュ最終作!

最後の作品にして遺作が遂に登場! 読み始めたのが2022年なので2年間の付き合いでした。長かった……もうあの夜は夜と闇に立ちこめる孤独と犯罪の香りと都会という奈落に沈む不幸な人間や男女たちの悲劇にお目にかかることは無い……あのひたひた感はウールリッチ=アイリッシュでしか味わえません。



さて、本作は遺作ということなのですがなんと未完です。いや正しく言うなら欠けていてとうとう現存しない箇所を、ローンレス・ブロックが補っています。「八百万の死に様」のあの人です。



どこが欠けてるんじゃ、と解説を読んでびっくりしたのはまさかの1ページ目から33ページまでがすでにブロック氏の筆であること。もし原稿が残っていたら全然違う書き出しだった可能性も有り得たわけでそこは研究と読解の執念ですね……



あと前妻アデレイドがマデリンに過去の話を聞かせる部分もブロック氏の筆なのですがここは「ああ、やっぱりな」と思いました。アデレイドの性格がこの辺複雑なんです。最初から悪女じゃ無かった香りがぷんぷん。



だてにウールリッチ=アイリッシュを全部読んでいません。故になんとなーく「ここはウールリッチ」、「ここはブロック氏」と分かりました。……が、最後がなー……ラストはオリジナル・ウールリッチですがウールリッチだったらこんなラストにしたかな?と首を傾げてしまう……つーか33章要らない。



しかし生前とうとう高い評価を得られなかった。ホテルの一室で見られる景色でしか物語を書けなかったウールリッチが欲しかったものが最後の章に表れているのかも知れない。1人っきりになってしまった自分の世界を尋ねてくれる、「生」に満ち満ちた誰かを。それは正当な評価を下す世間だったり、今、ウールリッチ=アイリッシュ作品を楽しんでいるわたしたちかも知れない。



さよなら、ウールリッチ=アイリッシュ。わたしはあなたを最後に海外古典ミステリの旅を終える。戻ってくることはもう無いか、当分先のことでしょう。

もっともっと現代の作家にも出逢いたいから。とりあえず、今はここらでお別れです。



コーネル・ウールリッチ=ウィリアム・アイリッシュ読破。

ーーー2024年7月11日。