原野に立つ、寂れた館に集まる不審な男たちと荒れ狂い、怯える主人夫妻……ジャマイカ館で一体何が起きている?
◇原野の館◇ -Jamaica Inn-
ダフネ・デュ・モーリア 務台夏子 訳
母が亡くなり、叔母の住むジャマイカ館に身を寄せることになったメアリー。だが、荒野のただ中に建つ館で見たのは、昔の面影もなく窶れ怯えた様子の叔母と、その夫だという荒くれ者の大男だった。寂れ果てた館の様子、夜に集まる不審な男たち、不気味な物音。ジャマイカ館で何が起きているのか? 『レベッカ』「鳥」で知られる名手デュ・モーリアが、故郷コーンウォールの荒野を舞台に描くサスペンスの名作、待望の新訳決定版!
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農家の娘メアリー・イエランは唯一の身寄りであった母を亡くし、その妹であるペイシェンス叔母の所へ身を寄せることになった。ペイシェンス叔母は幸せな結婚をした。きっと喜んだ受け入れてくれる筈だ……
ところが返ってきた手紙はどこか冷たく素っ気なく、叔母夫妻が住むジャマイカ館は街中の人が誰も寄り付かないほど評判が悪いらしい。館の主人のジョス・マーリンは粗野な荒くれ者、ペイシェンス叔母は心の底から怯えてい昔の影は何もない。しかもマーリンは定期的に怪しげな男たちを呼び寄せては犯罪に手を染めているらしい……
幸福が冷え切ったものになってしまったメアリーはマーリンと馬の合わない弟ジェムに反発しながらも惹かれ、アルビノの牧師デイヴィを頼りにする。マーリンは相変わらず粗野で乱暴だが酒に怯え、心底怯えている様子も見せる。彼は船を故意に難破させ、その積み荷を奪っていたのだ! クリスマスの襲撃で酷く傷付いたメアリーは告発を決める。判事バサットとデイヴィに助けを求めた彼女はやっとのことで戻ったジャマイカ館で信じがたいものを目にする……
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「原野の館」です(・∀・) 訳あって注文した本が無かったのをみかねて父が貸してくれました。「鳥」や「レベッカ」を遺したデュ・モーリアの作品です。英国特有の土地、「原野」が舞台です。
これを読むにあたり、「"原野"って何ぞや?」と英国に旅行に行ったことのある両親に聞いてみました。すると「草は生えているのに生命を感じさせない場所」だと返って来ました。ふむ、と頷いて読むと
「生命を感じさせない、と言うよりも人間に好意的な生命が無いんだな」と思いました。とはいえ、本書の舞台のコーンウォールはウェールズ地方なのに対し、両親が思い浮かべたのは恐らくスコットランドや英国北部の方。ムーアとヒースは多分全然違うんでしょうが、人間にとって脅威と不毛と不吉を呼び起こす場所だったことは間違いないようです。
本書は舞台にして惨劇の舞台になるジャマイカ館のある原野(ムーア)の雰囲気が私たち読者を圧倒させます。彼女の文章はきめ細やかで読んでいるだけで光景と感情が伝わって来ます。故に主人公メアリーの強さと弱さと脆さ、マーリンの粗野と裏に隠された臆病さ、デイヴィ牧師の優しさと冷酷さがありありと伝わって来ます。
サスペンス風味は「レベッカ」の方が上ですが←、前者はレベッカという人間に焦点が当てられたのに対し今回は確実に原野という舞台にスポットライトが当てられます。そしてそこに住む人間たち……その人間の裏が複雑にして怖い……
「原野の館」でした(・∀・)/
次はしばらく川上弘美祭り?が続きます(*^o^*)/