大学という閉鎖的、象牙の塔での死ーーーこれは自殺なのか? それとも他殺なのか?
◇象牙の塔の殺人◇ -The Death Dealers-
アイザック・アシモフ 池央耿 訳
いつものように、帰りがけに化学実験室に立ち寄った助教授が見たものは、息絶えた大学院生の姿だった。薬品を取り違えた結果の中毒死。その通りであれば、どんなにありがたかったことか。だが、そんなまちがいが起こり得ないのは、よくわかっていた。つまり、これは殺人なのだ。捜査に乗り出した彼は、徐々に苦しい立場に追い込まれていく。奇才アシモフの贈る長編本格ミステリ。
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大学の化学実験室で1人の生徒が死んだ。毒ガスを吸ったらしく、無害な化合物と有害な化合物を取り違えたらしい。警察や大学関係者は事故死と見ている。
ただ1人、その生徒の指導にあたっていた助教授ブレイドは彼の死に疑問を持つ。ーーーこれは本当に事故なのか? 本当は殺人なのではないか?
しかしこれが殺人となると第一容疑者になるのは自分なのだ。ブレイドは独自に調査を開始するが、それは大学と家庭の立ち位置を危ういものにしてしまうーーー
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「象牙の塔の殺人」です(・∀・)
アシモフ初の長編ミステリーです。もともとアシモフはミステリーも好きでした。それが最初にこの作品に現れ、後々「黒後家蜘蛛の会」で魅力が炸裂するわけです。
今回の殺人現場は大学です。大学。
大学って結構閉鎖的ですよね。学部が違うと接点すらないし、学部が同じでも専門や指導教官が違うだけで接点もなく、あってもあまり友好的なく、そんなつもりはなくてもなんか一線をかしているというか……探りを入れているというか。
そう考えると象牙の塔ってぴったりな言葉だ。
今回の学部と専門は化学。予備知識と専門知識があること前提なのである意味、その人たちだけしか立ち入れない、聖なる空間ですね。
そんな閉鎖的な空間で立場を(自分で)危ういものにしてしまったブレイドの運命はいかに!? ーーーが本書の見どころでもあります。
初めの方が「真夜中の死線」と似ていたので「えっ、また家庭崩壊したらどうしよ!?」とげんなりしながら読んでいたのですが、事件解決前で空気が変わって良かったです。なんだかんだ本気だと人の心って動くんです。まずそれ以前に主人公、タイプ違うし(苦笑)
本書が翻訳、出版されたのは1988年なのですが、これと同じ時期に広島大学学部長殺害事件があったんですよね。これとまんま同じだ。
というか大学での殺人ってあり得る殺人ですよね。大勢人がいるわけだから人間関係もどす黒いし、それぞれが高みを目指して切磋琢磨しているわけだからそれを持つプライドだって高いでしょう。
寄宿学校だって事件が起こるんだから大学に事件が起こったっておかしくないですよね。しかも大学は学生だけでなく、卒業生、教師との関係も密なので爆弾は色々なところに。教師の利害関係が顕著です。
現実世界にあってもおかしくない。その感情が生々しい。この作品の肝はきっとそこでしょう。死は案外、自分の身近にあるのです。
「象牙の塔の殺人」でした(・∀・)/
次はクイーン! ……ではなく、ちょっと現代へ(*^o^*)/~