蓑豊 著 超・美術館革命―金沢21世紀美術館の挑戦 (角川oneテーマ21)

普通の美術館は年間5~6万人が平均の入館者数と言われている。それに対して、金沢21世紀美術館は開館9年目となる今年の8月22日の時点で累計入館数が1148万8147人を記録しており、1年間当たりでおよそ127万人が来場している計算になる(参考:北國新聞8/24の記事)。
いかにしてこのような革命的な美術館をつくったのか?
著者(金沢21世紀美術館初代館長)は自身の経営哲学を交えながら、そのためのアイデアを存分に語ってくれている。

著者の経営者としての意識は非常に高く、本書はビジネス書としても読める。
例えば、相手をいかに説得するかについて書かれている部分はとても勉強になった。
説得とは、相手に何かを訴えて、相手がこちらに共鳴するように仕向けることである。そのためにまず必要なのは「親しみやすく、その場を楽しく感じさせる雰囲気を醸し出せる能力」である。そして、「これだけは誰にも負けない」と思える何らかの専門分野を持つことである。
しかしこれだけではまだ不十分であり、自分の専門以外にも幅広い知識が必要である著者は言う。いろいろな分野に通じておくことで、お客と親密になれるチャンスが増えるからだ。相手が持ち出すいろいろな話題に対応すべく、著者は自身の専門の骨董以外にも、文学やクラシックなどをはじめ様々な分野の知識を日々吸収しているそうだ。

著者はこれまでに数多くの街の人と積極的に話すように心がけ、美術館と協力して街を活性化しようと説得してきた。商店街、市商工会議所、医師会、ロータリークラブ、ライオンズクラブなど、いろいろな集まりにアプローチした。チケットの半券で飲食費を割り引いたり、企画展の名前をつけた商品販売など、美術館とのコラボをお願いした。たしかに僕が金沢21世紀美術館を訪れたときに立ち寄った街の喫茶店には、美術館で展示されている作品と関係のある絵画が飾られていた。金沢21世紀美術館は街と密接に結びついているのである。
著者は美術館をつくるためのビジョンを考える際、美術館と街を連関させて考えた。だから本書は、どのようにして人が集まる美術館をつくったのかという話だけに止まらない。いかにして美術館が街を活性化させたかというところにまで言及する。

美術館革命の成功の要因は、「街が美術館を作り、経済が文化を支える」という従来の考えを逆転し、「美術館が街を作り、文化が経済を支える」と考えた点にある。
この考えはこれからの時代において、どの分野でも必要な発想だと思う。現代人は精神的な豊かさを与えてくれる文化にもっともっと目を向けていくべきだ。
前回紹介したイスラエルでもそうだった。イスラエルがイノベーションを起こせる要因は突き詰めていけば文化にあった。文化には閉塞感を打破するヒントがたくさんある。
文化を考えることなしに、経済を活性化させることはできない。これから先、自分たちの文化や異国の文化を知り、それらに親しみ、感性を磨くことがよりいっそう求められる。
著者はこう語る。
「感性というのは、運動選手であろうが科学者であろうが、お医者さん、弁護士だろうが、何になるにも必要なんです。塾とかばかりでは、感性は育たないですよ。」

著者の情熱が感じられる本だった。
巻末には著者と、現代を代表する芸術家である村上隆さんの対談も収録されている。時間が無い方はここを読むだけでも、金沢21世紀美術館の凄さ、著者の世間に対する訴え、そして美術をはじめとする文化の大切さがわかるだろう。


小宇宙星座創成記

金沢21世紀美術館の無料展示場にある「スイミング・プール」

水の中に人がいる!?