中谷宇吉郎 著 雪 (岩波文庫)

無駄のない、真面目で簡潔な言葉はそれだけで十分である。あとはその言葉に込められた、ありのままの事実が読者の好奇心を喚起する。

著者は本書の文体を料理に例えて、「もし料理屋で立派なご馳走を食べ馴れている人に、茶漬けのような味を味わってもらえたなら望外の喜びである。」と語っており、お茶漬けを食べるようにさらり読めるようになっている(見た目は堅苦しそうだが)。たしかに、本書の文体は「雪」だけに、柔らかい雪原を歩くようなリズム感がある。とても読みやすかった。

雪には詩情がある。


「うす雪の 心とけにし 春日野を いかで忘れん 世々はふるとも」 
薄雪物語より

この短歌の作者は、世の中のうつろいやすさを雪に見出した。白く、冷たく、はかない雪は多くの詩人や画家にインスピレーションを与えている。

この短歌は雪の表面的な性質にだけ目を向けて書かれた歌だ。一方、本書の著者は科学者であり、雪の表面的な性質のさらに奥にある自然の秩序を読者に教えてくれる。
著者は雪の結晶を「天から送られた手紙」であると比喩する。

「雪は高層において、まず中心部ができそれが地表まで降ってくる間、各層においてそれぞれ異なる成長をして、複雑な形になって、地表へ達すると考えねばならない。それで雪の結晶形及び模様がいかなる条件で出来たかということがわかれば、結晶の顕微鏡写真を見れば、上層から地表までの大気の構造を知ることができるはずである。そのためには雪の結晶を人工的に作って見て、天然に見られる雪の全種類を作ることが出来れば、その実験室内の測定値から、今度は逆にその形の雪が降った時の上層の気象の状態を類推することができる。」

つまり天が今どのような状態であるのかを、雪の結晶の形を通して知ることができるのだ。故に雪の結晶は「天から送られた手紙」として比喩できるのである。

雪の結晶については、「複雑精緻をきわめた美しい六花」という言葉が、昔から使われており、六花以外の「美しくない」結晶の方は無視される傾向にあったと著者は言う。
天からにメッセージを読み解く際には、美しくない結晶の方が、数も多く種類もたくさんあるため、学問的には重要なのだそうだ。

雪の結晶は表面的にも美しいが、雪の結晶のさらに奥、その背景にある自然の秩序も美しい。そこには自然からのメッセージがあり、それは表面的な美しさだけで満足している心には届かない。

追記


小宇宙星座創成記

とある朝、友達から送られてきた写真。

雪化粧した砂浜。白い霧が立ち込めている海。

いつも見慣れている海が別の様相を呈していた。