あゆは、5年生になった。
日常に何の変化も起こっていなかった。
ただ、あゆには、自分が気がついていない大きな変化があった。
学校の廊下を歩きながらふと思った。
そういえば私、前みたいにしゃべりたいとか思わなくなったな。
もう学校で友達がほしいとも思わない。
何でこんな気持ちになったのか不思議だけど、すごく楽だな。
あゆは、自分の気持ちが穏やかになっていることに気がついた。
もう頭も痛くない。
イジメもない。
誰も何も言ってこない。
嬉しくもないけど辛くもない。
まるで
何も感じない。
だけどあゆは、初めて楽になれた気がした。
もう、しゃべれないと悩む必要も怖がる必要もない。
そう、恐怖心さえ感じなくなってしまったのだ。
このまま学校で普通に過ごしていくと決めたあゆは、無意識に自分を脅かす感情を全て心の奥においやり、しっかりとカギをかけて見えないようにしたのだ。
自分を守る為に
感情を脅かすバリアをはったのだ。
「中村のバーーか!!!」
突然、後ろから大きな声が聞こえてきて、思わず振り返った。
声の主は、あゆのことを散々いじめていたあの男の子だった。
すぐに前に向き直ったあゆは、そのまま何もなかったように顔色を変えずに歩き出した。
「知らないふりをすればいい」
そんな小さな心のつぶやきさえも、また心の奥におしこめて見なかったことにした。
何も見なかったことにして。
何も聞かなかったことにして。
平気なふりをして生きていく。
そんな人生がここから始まった。
しばらくしたら、急に石井くんに対しての憎しみが湧き上がってきた。
何で私にあんなひどいことをしたの?
許せない!!
あれから2年の時がたって、
ようやく許せないという感情がいきなり湧き上がってきた。
許せない感情とひたすら向き合い、感じきるとまた別の感情が顔を出した。
そういえば、先生が石井くんは、中村さんの事を好きだからいじめているって言っていたな。
そうなのかな?
そんなことを思っているうちにあゆの頭の中にありもしないストーリーが勝手に作られていった。
実は、石井くんは私のことが好きでいじめたんだ。
もちろん、そんなことは本気では思っていなかった。
そういうことにしておきたかったのかもしれない。
そこから、あゆの妄想ワールドに火がついた。
好き勝手にストーリーを頭の中で考えていく。
そうすると不思議と楽しい気持ちになれた。
いつのまにか憎しみは、なくなり楽しい気持ちにしかならなかった。
楽しいという感情を学校で感じたことがなかったあゆは、自分で楽しい気持ちを作り上げたかったのかもしれない。
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