「私ね、これとこれ持ってるんだよー、中村さんは?」
あゆと岸田さんは、体育館の隣にある階段のおどりばにいた。
その場所は、影になっていて視界に入りにくく、近寄る人もいない所だった。
可愛いイチゴの消ゴムやバナナの消ゴムを並べながら、1人楽しそうに話す岸田さんは、あゆが問いかけに答えなくても何も気にしていないようだった。
消しゴム可愛い!!!!
あゆは、心の中で思った。
だけど消ゴムなんて一つしかなくて、交換できるようなのは、ないな。
そんな事を思っていると岸田さんがまた後日、交換できる消ゴムを持ってこようと提案してくれた。
消ゴム買わなきゃな。
そして母に頼み、可愛い消ゴムを買いに行った。
次の日の休憩時間、岸田さんが話しかけてきた。
「中村さん、消ゴム交換しよう」
あゆは、素直に岸田さんについて体育館隣の階段へ向かった。
そんなことを何日も続けているうちにあゆは、自然と消ゴム交換の時だけ、岸田さんと話せるようになっていた。
私、学校で声を出して話せてる!
あゆ自信も自分の変化にびっくりしていた。
岸田さんは、あゆが話さなくても話しても何も変わらず普通に話しかけてくれた。
そんな姿にあゆも心が落ち着き、自然と言葉をかわせるようになっていった。
クラスでは、相変わらず話せなかったけど、岸田さんと消ゴム交換をしている時だけは声が出せるようになった。
岸田さんは、クラスで浮いた存在だった。
クラスの男子から、臭い!岸田は風呂に入っていないと言われ嫌悪されていた。
だけどあゆは、そんなことはどうでもよくて、岸田さんと話せることや消ゴム交換をすることが楽しかった。
こんなふうに学校で話せたのは初めてだった。
ただただ
目の前で繰り広げられる会話や雰囲気を心から楽しんでいた。
「ねぇ、前にあげた消ゴム返してくれない?」
突然、いつもの消ゴム交換の時間に岸田さんからそう言われた。
困ったな。
あの消ゴムどこやったっけ?
返さなきゃいけないのにない。
あゆは、母に相談して新しい消ゴムを買って岸田さんの家まで消ゴムを返しに行った。
「もらった消ゴムを探したんですけど見つからなくて新しいのを買って持ってきました」
あゆの気持ちを母が岸田さんのお母さんに代弁して伝えてくれた。
それ以来、消ゴム交換は終わりをつげてまたいつもと変わらない日常がすぎていった。
頭だけは、まだ痛かった。
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