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読書の迷宮

小説・ノンフィクションなどなど、読んだ本の感想を種類に関わらず書いていきます。

「巨星」(ピーター・ワッツ:創元SF文庫)

(2019-06-13読了)

 

 

 

 ピーター・ワッツは「ブラインドサイト」が大絶賛で期待して読んでみたら内容が全く分からず、面白いと思わなかった。結局、この作品には自分は合わないんだなと、続編は読むのを諦めていました。

 

そこに登場したのがピーター・ワッツの短編集の本作。

 

書店で目次をパラパラめくると「遊星からの物体Xの回想」なるタイトルがあり「なんだと!?」と色めき立った次第で。

「これってもしかして、ジョン・カーペンター監督の傑作「遊星からの物体X」に関係ある作品なのか?」と思ったら、あの物語を物体X側からの視点で描いた短編らしいって事で即、購入。

 

 個人的に気に入ったのは、やはり購入時に気になった「遊星からの物体Xの回想」かな。

 

原作のジョン・W・キャンベルの「影がゆく」ではなく、ジョン・カーペンター監督の映画「遊星からの物体X」に基づく内容なのがまず嬉しい。

 

あの映画の中で描かれた物語に基づき、しかし視点は「物体X」から描かれている。

映画を観る限りは物体Xは知性を持った高等生命体には見えにくかったのだが、しかし人間に姿を変えてからは宇宙船を作って南極を脱出しようとしていたので知性をやはり持っているのか?と思わせる。

 

小説ではより細かな心理描写を描く事で物体Xの思考をつまびらかにしていく。これは非常に面白いのだけれど逆に映画が持っていた凄まじい恐怖感は影を潜める結果になる。理知的であるが故に知性的であり恐怖は無いと。

 

 他の作品では「天使」と「付随的被害」が非常に良かった。

 

いずれも遠い未来のや宇宙を舞台にしたSFではなく、現代かあらそれほど遠くない近未来を舞台にしている。

前者はドローンが人工知能を搭載した話、後者は強化服的な装備を人間の脳に直結する話。

 

いずれも、たとえば士郎正宗の「攻殻機動隊」や伊藤計劃、或いは藤井太洋あたりの作品に通じるハイテクと人工知能や人間との関わりを描く作品。

 

「天使」では、人工知能が次第に認識していく世界の様子、それが冒頭の「物体X」同様に主観で描かれていく話は雰囲気も似ているかな。

あとJ・P・ホーガンの「未来の二つの顔」の人工知能が次第に人間を「影」として認識して攻撃していく話と似ている感じはあるかな。

 

もう一方の「付随的被害」は伊藤計劃の「虐殺器官」や「ハーモニー」などを読んでいた時の感覚に似た匂いを感じる。

 

ただ、「物体X」も「天使」も「付随的被害」も、いずれも出だしと展開は良いのだが終わりが尻すぼみと言うか、思考ネタに入っちゃって短編としてのキッチリと落としたオチがあまり感じられなかったのが勿体なかった。

 

 そしてラストの三話「ホットショット」「巨星」「島」は、同じ設定を使った連作になっているが発表年度は内容の時系列とは違う様子で。

 

人類が遥か彼方を目指して植民船を送り出す話が大筋なのだが、そこで植民船が出会う宇宙での現象の面白さと、それに対峙する人間側のキャラクターの面白さを描く。

どこか受ける感覚はチャールズ・シェフィールドの「マッカンドルー航宙記」やグレッグ・イーガンの作品に出てくる人類とはかけ離れた形での知性体とのファースト・コンタクト物のような痺れる感覚があったな。

 

このあたりは一つの長編として描いていたら、確実に「ブラインドサイト」よりも面白かったと思う。

「ビット・プレイヤー」(グレッグ・イーガン:ハヤカワ文庫SF)

 

 

 

 

 個人的には「順列都市」がマイ・ベストなグレッグ・イーガンの短編集。

 

 内容的には様々なテーマを扱っているのだが、構成が見事で、近未来から始まってミレニアム(千年紀)を何ヶ月かの如き感覚で過ごす遠未来までを加速度的に感じさせる作品配列が見事でした。

 

イーガンは長編「ゼンデギ」では近未来を扱っていたのですが、その後の「シルトの梯子」「白熱光」以降はあまりに遠い未来が舞台で、現代とはかけ離れた世界での物語が「とっつきにくいんじゃないかな?」と読んでいない現在。

 

しかし、本作の最後の「鰐乗り」「孤児惑星」の二作が、最近のイーガンの遠未来を描く作品群に通じる世界設定の作品ぽくて、それら最近のイーガンの長編を読む心構えや理解に通じる点があったのが有難かったかな。

 

「七色覚」

 

 本作の中では一番、現代に違い舞台設定かな?と思う作品。

 

人間の感覚を変化させる話で、本作は人間の色覚を変えるインプラントを入れた人間に世の中がどう見えてくるか?って話をリアルに描く。

 

ある意味、人間の中に突然出現した「ニュータイプ」な人種たちが、最初は少数派だけど次第に集まっていって自分達の能力を有効に効果的に使い始める感じかな。

 

最初の世代はその違和感と世間とのギャップに色々苦労するのだろうが、次の世代で「生まれながらにその能力を持っている」人たちが出現して次第に世界の中心となっていった場合に、世の中のダイナミックな変革が生まれる気がする。

 

色覚を変えた人向けのTV放送や広告などが生まれ、それを見るためにさらにインプラントする人が増えていって、って流れになっていって。

 

ある意味のサイボーグやナノテクノロジーによる人体改変に通じるテーマなのかも。

 

「不気味の谷」

 

 本短編集の中では一番ハマらなかったかな?

 

作品のテーマとしては好きなネタなはずなんだけど、おそらく切り口が好みに合わなかったのかも。

 

死んだ人間の人格と記憶をデータ化したものをアンドロイドにコピーするもの。人格と人権の問題を中心に、果たしてその存在をどう扱うべきか?は非常に難しい問題だと思う。

 

「ゼンデギ」でも出てきた「サイドローディング」技術が語られる。

 

関係ないが、本作では脚本家の人格をコピーしてるのだが、その人物の「コピー」が作った作品は果たしてその人物自身が作ったもの、として認めて良いのかどうかな?このあたりはコピーの人格に人権を認めるのかどうか?って点とも絡んでくる気がするな。

 

ただし、以前から言ってるようにこれは「コピー」でしかなくて、人間の延命では無いって点を考えないとダメだよな。

 

「ビット・プレイヤー」

 

 突拍子もない物理法則の世界に放り込まれた出だしから、どことなく小林泰三の「天獄と地国」的なものを想像して読み続けたのだが、実はそこは「ゲームの世界」だったと。

 

ゲーム世界における人工知能によるNPCの脇役(ビット・プレイヤー)を主人公として、その人工知能の主人公が自分の置かれた状況をどう考えるか?を主人公の視点から描いているのが非常に面白い。

 

イーガンと言えば、コンピューター世界の中に一つの仮想世界を作って、その中に人工知能の生命を作るとかのパターンが幾つかの作品で見られるのだが、その殆どは「その世界を作った人間」側の視点から描かれる。

本作の場合はその逆の視点なのが面白いな。

 

そして、仮想世界での自己の存在の問題だけでなく、仮想世界そのものの中で独特の方法で道具や装置を作って仮想世界環境を改変していこうとする姿が非常に興味深い。

 

「失われた大陸」

 

 基本的にはタイムトラベル物ではあるのだが、描かれている内容は移民問題的な雰囲気が色濃いか。

 

タイムトラベル先で安寧の土地に住まえるのか?と言うと、いきなり強制収容所みたいな場所に閉じ込められて来る日も来る日もフェンスの中での生活と、時折の面接で次の段階に進めるかどうか?

 

これはタイムトラベルよりも平行世界への移動としても描ける内容かな?と思いつつ。

 

「鰐乗り」

 

 ここからいきなり、遥かな未来を描く作品になる。本作の「鰐乗り」と「孤児惑星」はストーリーに繋がりは無いが、遥かな未来を舞台に電子化した人類の様子を描くって世界設定だと感じられる。

 

本作では、電子化した人類が銀河系の「融合世界」に広がっているのだが、その中に外部との接触を一切断っている空間「孤高世界」がある事に興味を持った夫婦が、その謎を解こうと幾千年もの年月を費やしていく話。

 

この中で興味深いのは、電子化されても光速を超える物理法則は無いので、千光年もの先に行くにはデータが千年もかかるわけで、その千年(ミレニアム)を一瞬の如く描く感覚が非常に面白い。

 

移動している何百年何千年もの間に新たな発見や技術開発もあるかも知れないのだが、主人公らが興味を抱いた孤高世界の中の様子に関しては何も分からないまま。

 

あと、この夫婦が何万年も生き続けているのだけど、そこで「生きることに飽きてしまった」的な感覚に陥っていること。永遠の命に近いものを手に入れられれば、好きなだけ生きていけるのだろうが、それが逆に倦怠を生む要因になるのか。

 

ただ、この物語で描かれる未来の人間の様相は、データ化されたって点を考えると人間のデータ化によって何光年も先に行けるってのは、単に「自分のデータを何光年も先に送信する」だけであり、受信された側で再びデータ人間化するって事を考えたら、やはりこれは「永遠の命」ではなく記憶の断絶と、コピーされた人間を作る行為でしか無いよな。

 

まあそれを考えると肉体からデータに移行した時点で、人間そのものの延命ではなく「人間のデータを移植されたコピー」でしか無いわけで。その辺りは遥か昔に通り過ぎた世界の話ではあるけど(^_^;)

 

「孤児惑星」

 

 これもまた、知的生命体がデータ化された社会で、恒星の周りを周回しないで宇宙空間を単独で移動する孤児惑星の様相を描く、そしてそこに住む知的生命体とのコンタクトを描くファースト・コンタクト物とも言える作品。

 

これは「鰐乗り」とは全く違ったテーマのSFなのだが、これは同じグレッグ・イーガンの作品でも短編の「ワンの絨毯」を思い出す感覚があったなぁ。

 

この惑星が持っているエネルギー循環の謎、その解明を進めると同時に惑星に住む異星人とのコンタクトも非常に面白い。異星人たちと似た姿になって接触していくのは「われらはレギオン」の中の接触方法を思い出す部分があったな。

 

 さて、グレッグ・イーガンはディアスポラ以降の長編では、「ゼンデギ」を除いてかなり遠い未来を舞台にしている作品ばかりで、あらすじを読んでも「果たして理解出来るのかな?」とか「面白いと感じられるのかな?」と思ってきたのだが、おそらくそれらと時代が通じると思われる最後の短編2編「鰐乗り」と「孤児惑星」を読んだ後では、「シルトの梯子」や「白熱光」も読めるかもしれないな、と少しだけ自信が付きました(^_^;)

 

今後、出来ればそれら作品も含めて(特に難敵な「クロックワーク・ロケット」から始まる三部作も)グレッグ・イーガン作品をなんとかコンプリートしたいなと思いました。

「火星無期懲役」(S・J・モーデン:著 金子浩:訳/ハヤカワ文庫SF)

(2019-05-12読了)

 

 火星を舞台に恒久基地建設とサバイバルとミステリを融合した作品。

 

出だしは「火星の人」(映画化名「オデッセイ」)っぽい感じだったが、後半次第にミステリとサスペンスの度合いが大きくなっていきました。

 

前半の火星サバイバル展開が非常に面白かっただけに、後半は「え?そっちに話を持っていくの?」と興味のボルテージが下がってしまって残念な作品になったのですが、最後の展開が個人的にツボだったので少し盛り返しました。

 

 作品の概要は、火星に恒久基地を建設するにあたって、NASAの専門家が到着するまでに資材を元に恒久基地を建設する役割として、終身刑で刑務所に服役していた主人公ら男女が選ばれる話。

 

刑務所で一生を過ごすか?或いは火星に行って専門知識と技術を使って恒久基地を建設してある程度の自由を感じつつ残りの人生を過ごすか?ただし、場所的に地球に戻れるわけではなく無人島への(昔で言えば)遠島・島流しみたいなものと考えられるか。

 

ところが、その火星での恒久基地建設が計画通りに行かず、トラブルからスタート。さらには予想外の事後などで死者が発生。果たして彼らは協力しあって恒久基地を建設出来るのか?

それどころが生き抜けるのかどうか?

 

 出だし、受刑者を宇宙飛行士として選んで専門家が到着する前に恒久基地を建設する作業員として火星に送るってアイデアは「トンデモ」なものに感じられるのだが、のちのち描かれていく理由によって計画者にとっては非常に利する設定になっているのが分かる。

 

その点よりも、まず前半でのサバイバルな状況のリアルさに「火星の人」(アンディ・ウィアー著。映画化名「オデッセイ」)的面白さで非常に面白く読めたのだが、中盤からその内容がミステリに傾倒していく事となり後半では完全にミステリ中心に話が進んで行く点が問題。

 

これは好みの問題もあるかも知れませんが、最初からミステリ中心に進む話だとわかった上でその展開が好きな人には面白かったろうと思います。

所が、私の場合はそこまでミステリ部分が重要になってくるとは思わなかったのと、最初の火星サバイバル展開が面白すぎたので「仲間で協力しあって現状の物資でどうやって生き抜き、基地を完成させるのか?」って点での面白さを期待していたので、後半のミステリ偏重はがっかりだったのです。

 

ただ、ラストで描かれる展開がアイデア的に面白かったので、その点での満足度が結構高かったので良しとしましたが。

 

それでも、個人的には本作はミステリ展開があるとしても薄味で、あくまでも「囚人たちが火星に行って恒久基地を作る、その中で発生するトラブルをどうやって協力しつつ解決していくか?」って「火星の人」的展開だけで終わっていた方が遥かに面白かったのでは?と思いました。

 






 

※以下、ネタバレがあります。

 





 


 

 前半の面白さは、物資を積んだコンテナ宇宙船が予定通りの地点に着陸していなくて、それをまず回収に向かうって点からスタートする。しかも、その回収に必要な車も遠方にあるので、一番最初は徒歩で酸素ギリギリで回収に向かい、車を手に入れてから次の改修作業のパターンに入る、と。

 

 

このシーンで、最初に車を回収に向かう徒歩の行程では、現地のコンテナに車の部品が搭載されていてそれを時間内に組み立てて帰還した場合にギリギリ間に合う酸素量なので、目的地に到着しても部品が無かったり組み立てが間に合わなかったりしたら時間切れで窒息死するってギリギリ感がサバイバル感溢れて緊迫感ある面白さでした。

 

その後、あるキャラクターの死亡があり他のキャラクターが死亡し、と死亡者が連続していく段階で「これは事故や自殺ではなく殺人では?」って疑惑が出てくる。

 

さらに死亡者が増えていって、後半になると「ああこれは犯人は全員殺すつもりか?」と思えてくる。しかし一方で主人公が実はサイコパスで殺しまくっていた、って設定も捨てきれないと思いつつ読む。

 

真犯人に関しては、まあサプライズでは無いのだろうけど、それよりもメンバーが次第次第に減っていくって事は基地建設と基地の維持が困難になっていくだけだろ?と思った。

それに対しては、各章の冒頭で描かれる企業側の様相から、どうやら低予算で確実性の高い恒久基地建設の方法として、安価で命知らずな囚人を選び、最初から全員を処分する考えであったのかな?と読めるか。

 

その点でのサプライズよりも、例えNASAに委託された企業ベースの計画であったとしても、人間を送り込んで殺して「居なかった事にする」ってのは無理があるだろうと感じる部分が強かったかな。まだしも犯罪者集団なのでサイコパスが紛れていて殺しまくっていたって方が(ドラマとしてはつまらないが)理屈としては分かる感じで。

 

それでも、最後に主人公が事態を悟って企業側に「本来の役割を俺が演じるからそれ相応の報酬を約束しろ。でないと全部無駄にするぞ」と脅しをかけて終わる部分は非常に面白かった。

 

まあ火星に居る男の脅しをどこまで信用して対応するかは分からないけど、せっかく完成した恒久基地を破壊されたり、企業の陰謀を世界に暴露されてはかなわないのである程度約束を守る可能性はあるかな?と想像しつつ終わる。

 

あとがきによると、本作の続編も書かれてるらしいのだが、果たしてどうなるか?翻訳が出たら多分読むと思う。