「ハローサマー、グッドバイ」(マイクル・コーニイ:河出文庫)
(2019-08-13読了)
「SF恋愛小説」として名高い作品で、以前に購入するも積ん読状態だったものをやっと読みました。
夏にこれを読まずしてどうするか?ってタイトル的な物もあってこの時期に読んだわけです。
内容は非常に素晴らしかったですね。
前半中盤の胸がドキドキする感覚、ジュブナイルの冒険と恋愛を描く小説、って感じで。
しかし「これって別にSFでなくても良かったのでは?」と少し思う点はありました。
ところがところが!ラスト近くにあっと驚く仕掛けがあって、これがまた見事なSFになっている上にラストシーンで素晴らしいオチを用意しているあたり、まごうかたなき「SF」だなと納得した次第です。
物語は、地球人によく似た知的生命体が地球の19世紀あたりの技術文明を持っている惑星が舞台。
この惑星自体の属する恒星系の複雑さも含めて、惑星では季節によって海が粘っこい性質をもった「グルーム」の時期が現れる。これが物語の背景として大きく関わってくる。
また、地球とは違った他の惑星が舞台なので、そこに住む主人公らの知的生命体以外の生物もオリジナリティがあって面白い。いくつかの動物や植物など。
大筋では関係が無いのだが、場面場面ではそれら動植物がシーンを左右する役割があったりと思っていると、それが意外な重要性を持っているのが驚かされる。
惑星の環境は以上ですが、それに加えて主人公らの知的生命体が大きく惑星を二分する国家を形成していて、互いに戦争状態であり主人公らの国家が次第に侵略されていっているとの時代の背景も物語の背骨となって働きます。
前半中盤で、主人公の少年ドローヴは政府高官の父親と母親とともに毎年避暑地で夏を過ごすのだが、昨年そこで出会った地元の酒場の娘ブラウンアイズに惹かれ、今年も会えないかと楽しみにしている。
ただ、政府高官の父親や母親からは身分の差を言われて「地元の子供と親しくするな。私達が紹介した子供と仲良くなれ」と言われる事に。
こういう身分差のある恋愛と、避暑地での子供どうしの屈託のない冒険行や恋愛感情など、普通に人間が主人公の青春小説としても読める素晴らしさとおもろさ、胸キュンが一杯詰まっている。
作品としてはテーマが全く別ですが、ふとハル・クレメントの「20億の針」を思い出しました。子供が主人公で、子どもたちが海沿いで(「20億の針」の場合は島が舞台)って感じが似た感覚を思い起こさせたのかも知れません。
最初はまだブラウンアイズとの間ではアイコンタクト的な雰囲気だけだったのですが、次第次第に気持ちを明らかにしていって、そこにもうひとりの女の子とドローヴとの親密さがブラウンアイズに嫉妬を起こさせる三角関係的な物語も含まれて、非常に魅力的に感じられます。
その合間合間に戦争の様子だとか、敵の進撃の進み具合だとかが背景として描かれて後半には戦争色が非常に強くなります。
この辺り、せっかく恋愛物として非常に盛り上がってるのになんで話は世界の話、戦争の話に傾いていくんだ?と思う気持ちが強かった。
しかし、それがやがて驚天動地のラストの展開に繋がる事になって、作品全体では語られていた意味合いが非常に重要になっていく。
ラストの展開に関しては、これを「恋愛物」として考えていたら戸惑う読者も多くいそう。あくまでもSFとしての枠組みで読んでいくと、いい意味で驚かされるのだが。
その点で賛否分かれる評価になりそうな気がするが、ラストシーンはSFとしても恋愛物としても見事と言えるか。
※以下、ネタバレがあります。
途中で惑星の軌道に関する話が出てきて「お?いきなりSF的な話になったな」と思ったのですが、それがまさか驚天動地のラストに至るとは。
惑星の軌道が変化して数十年に渡って惑星が寒冷期に突入する。そのために地下に都市を作って一部の政府高官などがその期間を過ごせるシェルターになっていると。
この辺りから、それまでの淡い恋を描くSF恋愛小説の雰囲気が一変して、フェンスの外に集まってくる人々の悲壮な姿を描く絶望的な破滅SFの様相を呈する。
特にそれまで気高く華麗な雰囲気を持ちつつ、最初は鼻持ちならない感じだったのが次第に親しみを感じられるキャラになったブラウンアイズの恋敵(?)のリボンの一変する様子が非常に哀しさを感じさせた。
あと、地下の核シェルターのような施設、そしてそこに全員入っているはずなのに警備していた軍人たちの姿が見えなかったり、ある日突然、父親が慌てた様子で「電気が止まった」「ほかの階に行けない」と言ってる場面で背筋の凍るような感覚が生まれる。
おそらく最下層の最重要人物たちだけを助ける為に、それより上の何層かの住人はエネルギーや食料の為に「切り捨てられた」と思われる描写に。
このあたりで、ふとモルデカイ・ロシュワルトの「レベル・セブン」ってSF小説を思い出した。これは全面核戦争が発生して地下の核シェルターにいた人々の様子を描く作品なのだが、次第次第に悪い状況になっていって…って展開で。
あの絶望感と悲壮感。しかし本作ではその後に続きがあり、明確には描かれていないけれど、あのロリンがかつてと同様に助けてくれてこの極寒の世界の中でドローヴの想像と同じく、かれらは数十年の寒冷期をやり過ごせるのだろうと想像させ希望をもたせるラスト(って解釈でいいのかな?)。
ラストの解釈に関しては、あまりにシンプルな表現なので難しい感じではあるけれど、本作には続編があって(直接ドローヴやブラウンアイズが出てくるわけではなく、その後の世代の話)どうやら生き残ったのでは無いか?2人は再会しているのでは?と思わせるっぽいので、その解釈にしておこう。
続編「パラークシの記憶」(河出文庫)はKindle版もあるし文庫もネットなら手に入る感じなので読んでみたい。