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読書の迷宮

小説・ノンフィクションなどなど、読んだ本の感想を種類に関わらず書いていきます。

「地には平和を」(小松左京:角川文庫)

(2019-07-15読了)

 

 小松左京の短編集。収録されているのは表題作の「地には平和を」と「日本売ります」「ある生き物の記録」の3タイトル。

 

ただし、最後の「ある生き物の記録」がページ数が比較的長くて「中編かな?」と思っていたのだけど、これは私の誤解でした。

 

実は「ある生き物の記録」はショートショート集だったわけで。数十編にわたるショートショートを纏めて一つのタイトルで呼称しているようです。

 

 さて、本作で一番目玉はやはりタイトル作の「地には平和を」です。

 

この作品、小松左京の実質的デビュー作って事で戦争からまだ15年ほどしか経っていない時点で書かれた作品。

 

物語は太平洋戦争が1945年の8月15日で終わらなかった世界。日本本土へのアメリカ軍の上陸が始まって以降のドラマ。

 

これ自体は架空戦記的な物に見えるのですが、その内容はしっかりとしたSFであり、歴史を未来から振り返ったときに「あの時、もしこうだったら」って「歴史のIF」を狂人が実際に過去改変してしまうって話で。

 

この物語全体には終戦を14歳の多感な時期に迎えた小松左京自身の自伝的要素、彼自身の戦争への思いが色濃く出ている。

 

久しぶりの再読だけれど、読んでいて思い出すのは先日読んだ「やぶれかぶれ青春期・大阪万博奮闘記」(新潮文庫)の前段、「やぶれかぶれ青春期」の部分です。

 

戦争末期の小松左京自身の自伝であり、当時の彼の考えや思い、周りの雰囲気がリアルに描かれているのだが、その体験があってこその「地には平和を」のリアルさに繋がるのだろうか。

 

設定は「IF」だけれど、そこで描かれる内容は非常にリアルな「戦記物」としても読める見事さで。そしてラストのSF的な描写もまた、歴史と哲学を語るような深さがあってデビュー当時からもう見事としか言いようがない。

文句なしの傑作でしょう。

 

 続く「日本売ります」は、どことなく「日本沈没」に続くようなアイデアが見受けられる作品。

 

ただ、個人的にはこの作品は昨今の日本の土地を外国人(特に中国?)が買いまくってる、大事な水源や自衛隊の土地の近くなどって話を思い出させて空恐ろしい部分があったな。

 

まあ小松左京自身はそういう想定をして書いた感じではなく、日本という国土・国民・国家の持つ魅力がどのようにこの小さな島々の中に凝縮されているのか?って点にこそ言いたいことがあったように思うが。

 

 最後の「ある生き物の記録」はショートショートにつき、特段ひとつひとつの作品の感想は書かない。

 

ただ、ショートショートって点で星新一あたりが書きそうなネタだったり松本零士の初期SF短編とかにありそうなネタってのもあったな。

あるいは、フレドリック・ブラウンとか。

 

SF的にストレートなものもあればホラーチックなものもあったりコミカルだったりとバラエティに溢れている。読んで損は無い。

「ハローサマー、グッドバイ」(マイクル・コーニイ:河出文庫)

(2019-08-13読了)

 

 「SF恋愛小説」として名高い作品で、以前に購入するも積ん読状態だったものをやっと読みました。

 

夏にこれを読まずしてどうするか?ってタイトル的な物もあってこの時期に読んだわけです。

 

 内容は非常に素晴らしかったですね。

 

前半中盤の胸がドキドキする感覚、ジュブナイルの冒険と恋愛を描く小説、って感じで。

 

しかし「これって別にSFでなくても良かったのでは?」と少し思う点はありました。

 

ところがところが!ラスト近くにあっと驚く仕掛けがあって、これがまた見事なSFになっている上にラストシーンで素晴らしいオチを用意しているあたり、まごうかたなき「SF」だなと納得した次第です。

 

 物語は、地球人によく似た知的生命体が地球の19世紀あたりの技術文明を持っている惑星が舞台。

 

この惑星自体の属する恒星系の複雑さも含めて、惑星では季節によって海が粘っこい性質をもった「グルーム」の時期が現れる。これが物語の背景として大きく関わってくる。

 

また、地球とは違った他の惑星が舞台なので、そこに住む主人公らの知的生命体以外の生物もオリジナリティがあって面白い。いくつかの動物や植物など。

大筋では関係が無いのだが、場面場面ではそれら動植物がシーンを左右する役割があったりと思っていると、それが意外な重要性を持っているのが驚かされる。

 

惑星の環境は以上ですが、それに加えて主人公らの知的生命体が大きく惑星を二分する国家を形成していて、互いに戦争状態であり主人公らの国家が次第に侵略されていっているとの時代の背景も物語の背骨となって働きます。

 

 前半中盤で、主人公の少年ドローヴは政府高官の父親と母親とともに毎年避暑地で夏を過ごすのだが、昨年そこで出会った地元の酒場の娘ブラウンアイズに惹かれ、今年も会えないかと楽しみにしている。

 

ただ、政府高官の父親や母親からは身分の差を言われて「地元の子供と親しくするな。私達が紹介した子供と仲良くなれ」と言われる事に。

 

こういう身分差のある恋愛と、避暑地での子供どうしの屈託のない冒険行や恋愛感情など、普通に人間が主人公の青春小説としても読める素晴らしさとおもろさ、胸キュンが一杯詰まっている。

 

作品としてはテーマが全く別ですが、ふとハル・クレメントの「20億の針」を思い出しました。子供が主人公で、子どもたちが海沿いで(「20億の針」の場合は島が舞台)って感じが似た感覚を思い起こさせたのかも知れません。

 

最初はまだブラウンアイズとの間ではアイコンタクト的な雰囲気だけだったのですが、次第次第に気持ちを明らかにしていって、そこにもうひとりの女の子とドローヴとの親密さがブラウンアイズに嫉妬を起こさせる三角関係的な物語も含まれて、非常に魅力的に感じられます。

 

その合間合間に戦争の様子だとか、敵の進撃の進み具合だとかが背景として描かれて後半には戦争色が非常に強くなります。

この辺り、せっかく恋愛物として非常に盛り上がってるのになんで話は世界の話、戦争の話に傾いていくんだ?と思う気持ちが強かった。

 

しかし、それがやがて驚天動地のラストの展開に繋がる事になって、作品全体では語られていた意味合いが非常に重要になっていく。

 

ラストの展開に関しては、これを「恋愛物」として考えていたら戸惑う読者も多くいそう。あくまでもSFとしての枠組みで読んでいくと、いい意味で驚かされるのだが。

 

その点で賛否分かれる評価になりそうな気がするが、ラストシーンはSFとしても恋愛物としても見事と言えるか。

 


 





 

※以下、ネタバレがあります。

 





 


 

 途中で惑星の軌道に関する話が出てきて「お?いきなりSF的な話になったな」と思ったのですが、それがまさか驚天動地のラストに至るとは。

 

 

惑星の軌道が変化して数十年に渡って惑星が寒冷期に突入する。そのために地下に都市を作って一部の政府高官などがその期間を過ごせるシェルターになっていると。

 

この辺りから、それまでの淡い恋を描くSF恋愛小説の雰囲気が一変して、フェンスの外に集まってくる人々の悲壮な姿を描く絶望的な破滅SFの様相を呈する。

 

特にそれまで気高く華麗な雰囲気を持ちつつ、最初は鼻持ちならない感じだったのが次第に親しみを感じられるキャラになったブラウンアイズの恋敵(?)のリボンの一変する様子が非常に哀しさを感じさせた。

 

あと、地下の核シェルターのような施設、そしてそこに全員入っているはずなのに警備していた軍人たちの姿が見えなかったり、ある日突然、父親が慌てた様子で「電気が止まった」「ほかの階に行けない」と言ってる場面で背筋の凍るような感覚が生まれる。

 

おそらく最下層の最重要人物たちだけを助ける為に、それより上の何層かの住人はエネルギーや食料の為に「切り捨てられた」と思われる描写に。

 

このあたりで、ふとモルデカイ・ロシュワルトの「レベル・セブン」ってSF小説を思い出した。これは全面核戦争が発生して地下の核シェルターにいた人々の様子を描く作品なのだが、次第次第に悪い状況になっていって…って展開で。

 

あの絶望感と悲壮感。しかし本作ではその後に続きがあり、明確には描かれていないけれど、あのロリンがかつてと同様に助けてくれてこの極寒の世界の中でドローヴの想像と同じく、かれらは数十年の寒冷期をやり過ごせるのだろうと想像させ希望をもたせるラスト(って解釈でいいのかな?)。

 

ラストの解釈に関しては、あまりにシンプルな表現なので難しい感じではあるけれど、本作には続編があって(直接ドローヴやブラウンアイズが出てくるわけではなく、その後の世代の話)どうやら生き残ったのでは無いか?2人は再会しているのでは?と思わせるっぽいので、その解釈にしておこう。

 

続編「パラークシの記憶」(河出文庫)はKindle版もあるし文庫もネットなら手に入る感じなので読んでみたい。

「紙の動物園」(ケン・リュウ)

(2019-06-25読了)

 

 

 

 中国生まれのアメリカ人、ケン・リュウの短編集。

 

彼の名前は書店でいつも平積みしているのと又吉直樹の推薦の帯が目について印象に残っていました。いつか読まないとダメだなと思っていた所、今回「小川一水セレクト」と銘打って並んだ作品の中に発見し、購入。

 

 全体の印象は非常に良かった。この作家の作品を今まで読まなかったのを悔やんだほどのクオリティの高い作品の数々でした。

 

 「紙の動物園」

 

 タイトル作の本作はSFと言うにはファンタジー寄りなのだが、内容的には本書の中では間違いなくベストの感動と感慨を呼ぶ作品。

 

自身の中国生まれアメリカ移民の経歴と重なる内容で、中国人の母親が持つ人種差別の苦しみの中で自身の中国人としての矜持と子供への愛情が溢れている。

親の気持ち子知らず、とは昔から言うけれどそこに人種問題的な視点の深さが「息子から母親への偏見」と言う視点から深く描かれる。

 

そして世の常で、母親の愛情を知る大人になった頃には母親は居ず。その切なさと哀しさが溢れる名品だった。

 

 「月へ」

 

 SF的な話か?と思っていたら、物語は中国からアメリカへの移民審査の話だったか。そこにSFファンタジー的な比喩物語を挟みつつ描く。

 

 「結縄」

 

 これは「紙の動物園」を除くと本作で一番「凄い」と思った作品であり一番ハマった作品。

文字の代わりに縄を結う事で文字の代わりに記録を残す部族の話。

 

その縄を結う文字が、実は最先端の科学に必要なアミノ酸結合を解明する話に繋がって、遺伝子の比喩にも繋がっていく。このSF的感覚のずば抜けた魅力が堪らないんだよな。

 

例えばファースト・コンタクト物で言葉が重要なポイントとなる作品では、映画にもなったテッド・チャンの「あなたの人生の物語」(映画化タイトル「メッセージ」)があるが、ああいった作品の読後感に似たものもあるかな。他のファースト・コンタクトの意思疎通とかも。

 

「太平洋横断海底トンネル小史」

 

 アジアから北米大陸に向かう海底トンネルの話。

珍しいのは太平洋戦争が歴史とは違っていたら、との歴史の「IF」に基づくSFって点。我々の歩んだ歴史とは似ているのだが、歴史のある時点で枝分かれして別の歴史を辿った平行世界での物語と見ることも出来るか。

 

一つの技術が世界の物流を大きく変えて世界の有り様を変える話、そこに歴史改変モノを融合させた面白い風味の作品。

 

「心智五行」

 

 本作では「結縄」と並ぶ面白さであり、そのテイストもどこか通じる部分を感じた作品。

 

物語はある種の「ファースト・コンタクト」物と言えるか。主人公が事故でたどり着いた惑星は、かつて人類が植民地化した惑星なのだが母国との繋がりが隔離された為に文明が独自に進化している感じの星。

 

珍しいのは、これもやはり中国的思想が基本になっていて、独自の文明を進化させたこの星がどこか中国的な東洋的な思想で満たされている点。

 

主人公の女性が持つ常識とは大きく違う世界で命を助けられて、その世界の思想に次第に染まっていきそこに住む男性を愛するようになるのが読んでいて心地よく、それが分断されてしまう展開から、その後のラストの展開は非常に起伏に飛んで面白かった。

 

「愛のアルゴリズム」

 

 これも大きな意味で「結縄」「心智五行」と同様に「コミュニケーションの物語」と言えるだろうか。

アンドロイドに搭載するAIの性能を上げていくと、アンドロイドの外観が人間そっくりになっていくと「人とアンドロイドの違いはどこにあるのか?」の境目が見えてこなくなる。その点を鋭く描く短編。

 

人工知能の話でよく出てくる「中国語の部屋」の問題を中国出自を持つ著者がその言葉を使いつつ説明するのはお見事。

 

物語は、これを突き詰めると人間の思考とAIの「中国語の部屋」とどこに違いがあるのか?との疑心暗鬼に襲われる。その心理的な恐怖感を描いて行く。

 

考えれば、そっちへの思考よりも「アンドロイドの思考は人間と同じく意志を持っているのではないか?」って疑問に向かう方が健全なんだろうけど、「自分は何者なのか?どこから来てどこに行くのか?」って問題は「ブレードランナー」でもあったけれど、アンドロイド自身が持つ疑問と言うよりも人間が自分自身に問を投げかける話になって来るんだろうな。

 

「文字占い師」

 

 これは読んでいて辛い作品だった。後半の辛い場面はテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」後半のような精神的厳しさを感じる拷問シーンだった。拷問していた人物が近しい者だったって点とかも。

 

この作品もまた、大きな意味での「コミュニケーション」の物語であり「相互理解と誤解」の物語である点は「心智五行」の大まかな流れに通じる点がある。

主人公のアメリカ人の女の子が台湾に越してきて、そこで地元の子供たちと出会いある老人の文字占いを知る。

 

その出会いと相互理解の話は非常に楽しく、そこには「心智五行」の展開と似ている。

 

そこから「えっ!」と驚く展開であるが、その辺りの繋がりや残酷さや辛さってのは先に書いた「未来世紀ブラジル」ラストの強烈さに似たテイストを感じた次第。実際の歴史と絡む話でSFではない普通小説?となるのかな。

 

 続く「もののあはれ」も購入済み。近々読もうと思う。