西洋かぶれ | 高井戸の住人のブログ

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本は歴史ものとSF、ミステリーときどき文学。
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図書館で借りて来たインドネシア文学の一冊です。
インドネシア文学でネット検索して真っ先に見つけた小説です。

アブドゥール・ムイス『西洋かぶれ』。
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サブタイトルに『教育を誤って』とありますが『見当違い』というタイトルでもいいです。

初版は1928年なので、インドネシアがまだオランダ統治下の時代。
舞台は西スマトラ。
インドネシア史上、極めて重要な位置付けになっている小説で高等学校の課題図書にもなっているそうです。
読んでいるうちにたしかにこれは高校くらいの年代で一度読んで、考えるといい本と思いました。

若くして高級役人になったハナフィというマレー人青年とオランダ人の女性コリーがテニスコートで恋愛の話をしているところから始まります。

ハナフィは父親が早くに死んで、母親の女手ひとつで育てられます。
2歳下の幼馴染のコリーとの結婚を考えるようになります。
コリーの方はフランス人の父親の下で高慢に育ち、東洋人との結婚は差別などの障害があるので感情的にはハナフィを好きでも理性的には距離を置こうとします。
ハナフィは自分の一族、民族を見下していて自身は西洋人たらんとして、母親に諌められても学歴もなく字の読み書きも満足に出来ない母親をいつも屈折した議論で言い負かした気になっています。
母親はオランダ語を並べ立てるハナフィをなだめられない。
しかしハナフィの、母親と妻に対する態度を見たオランダ人たちからも敬遠され始めます。
物語はこのハナフィを中心に起こるべくして起こる方向に進んで行きます。

初代芥川賞作家の石川達三の小説のようにテーマの設定、構成、人物描写が巧みです。

解説もよくまとまっていたので、ちょっと言葉を借ります。
①民族とは何かの課題に取り組んでいる。
②植民地時代当時のインドネシアの新旧両世代の生活感情がよくわかる。
③作者晩年に書いた作品で事実に根ざした作品。
④人物の心理描写が巧みで自然。
⑤国境も時代も越えて人のあり方を示唆している。

作者は真っ向からこれらの課題に取り組んでいて、心から考え抜いて書き下ろしたんだなと思いました。

いくつもの出来事を経て最後にハナフィは自分の母親の賢明さに気付くのですが、読んでいていちいち心に突き刺さる作品でした。
(>_<)