中論.24章 四つの優れた真理の考察
(反対者の非難) 1.もしも此の一切が空であるならば.生も滅も存在しない…生も滅もないから.聖なる四つの真理(四諦)の無い事が汝に付随して起こる…
2.聖なる四つの真理が存在しないから.完全に熟知する事(知).煩悩を断ずる事(断).道を修習する事(修).ニルヴァーナを直接に体得する事(証)とは在り得ない…
3.それ(知.断.修.証)が無いが故に.四つの尊い果報(四聖果)は存在しない…結果がないが故に.結果としての状態(位)もなく.また目標に向かって進む事(向)もない…
4.もしもそれらの八賢聖(四向四果の聖者)が存在しないならば.修行者の集い(サンガ)は存在しない…また聖なる四つの真理が存在しないから.正しい教えもまた存在しない…
5.法ならびに僧がないが故にどうして仏が在り得ようか(三宝)…この様に空を説くならば.汝は三宝(仏法僧)をも破壊する…
6.空を説くものは果報の有実.非法.法および世俗の一切の慣用法をも破壊する…
(ナーガルジュナ[龍樹]の反駁) 7.此処に於いて我らは答えて言う… 汝は空における効用(動機).空そのもの及び空の意義を知らない…故に汝はこの様に論争するのである…
8.二つの真理(二諦)に依存して.諸々の仏陀は法(教え)を説かれた…その二つの真理とは.世俗に覆われたたちばでよ真理と.究極の立場から見た真理とである…
9.この二つの真理の区別を知らない人々は.仏陀の教えに於ける深遠な真理を理解して居ないのである…
10.世俗の表現に依存しないでは究極の真理を説く事は出来ない…究極の真理に到達しないならば.ニルヴァーナを体得する事は出来ない…
11.不完全に観られた空は.智慧の鈍い者を害する…恰も不完全に捕らえられた蛇.或いは未完成の呪術の如くである…
12.それが故に.その法が鈍い者共によって良く領解され得ない事を考えて.聖者(仏陀)が教えを説示しようとする心は止んだ…
13.また汝が空を非難しても.我々には欠点の付随して起こる事がない…空に於いては欠点が成立しえない…
14.空が適合するものに対しては.汎ゆるものが適合する…空が適合しないものものに対しては.汎ゆるものが適合しない…
15.故に.汝は自分の持っている諸々の欠点を.我々に向かって投げつけるのである…汝は馬に乗っていながら.而も馬を忘れているのである…
(有自性論者の攻撃に対する積極的な反駁) 16.もしもそれ自体(自性)に諸々の事物の実有である事を認めるならば.もしもそうであるならば汝は諸々の事物を因縁なきものと見做すのである…
17.汝は則ち.結果.原因.行動.主体.手段.作用.生起.滅亡および果報を破壊する…
18.どんな縁起でも.それを我々は空と説く… それは仮に設けられたものであって.それは則ち中道である…
19.何であろうと縁起して起こったのでは無いものは存在しないから.如何なる不空なるものも存在しない…
20.もしも此の一切のものが空でないならば.何ものかの生起することも無いし.消滅する事も無いであろう…そうして汝にとっては四つの真理が存在しないという事になるであろう…
21.縁起したのではない苦しみが.何処にあろうか…無常は苦しみであると説かれている…それ(無常法)は.自性を有するものには存在しないからである…
22.それ自体として存在するものが.どうして再び生起するであろうか…それ故に空である事を排斥する人にとっては.苦しみの起こる原因の真理(実諦)は存在し得ない…
23.それ自体として存在する苦しみが消滅する事は.存在し得ない…汝はそれ自体を固執するから.苦しみの消滅の真理(実諦)を破壊する…
24.もしも道が.それ自体として存在するのであるならば.それの修習(実践)は成立しない… 然るに道は修習される…汝の説く.それ自体なるものは.存在しないのである…
25.苦と集と滅とが存在しないときに.苦しみを消滅させるものであるからとて.如何なる道がニルヴァーナを体得させるであろうか…