吉田初三郎の鳥瞰図を見る | 書斎の汽車・電車

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 府中市美術館で開催中(7月7日まで)の『Beautiful Japan 吉田初三郎の世界』展を見てきました。

 吉田初三郎といえば、大正・昭和初期に私鉄の沿線案内図を数多く手がけたことで知られていますが、本展示会では、初三郎の仕事の全貌を紹介しています。

 

 吉田初三郎の鳥瞰図といえば、鉄道の沿線案内図では、実際にはカーブしている路線を一直線に描くデフォルメをしていることが多いです。今回展示されている中では、小田急、南武、富士身延、それに美術館にとっては地元の京王といったあたりが展示されています。また、昭和天皇(当時は皇太子)に絶賛され、初三郎の名を一躍広めることになった京阪の沿線案内図(大正3年頃)では、まだ後年の「初三郎式」(スタイル)は確立していません。

 

 鉄道の沿線案内図だけでなく観光地(景勝地)の鳥瞰図もたくさん手掛けた初三郎ですから、展示も鉄道関連以外の方が多いのですが、とはいえほとんどの鳥瞰図には鉄道の姿もはっきり描かれています。

 その特徴として、鉄道路線を真っ直ぐに描くというのは先に述べましたが、加えて、「遠景が立ちあがってくるような構図」、「中心部分の拡大」(富士身延鉄道であれば、富士山とともに身延山を拡大していますし、京王では多摩御陵などが拡大されています。これが観光地の図であれば、中心地を拡大するわけです)「歪められた周縁部」といったデフォルメが加えられています。結果として、日本列島などもかなり実際とは違う形で描かれることになります。そして、実際には見えないであろう「超遠景」が描かれるのも「初三郎式」の特徴でして、富士山や遠隔地の主要都市が画面の隅に描かれるのは当たり前、図によっては遠く「サンフランシスコ」「パリ」が登場するものもあります。

 

 初三郎といえば観光と思いきや、関東大震災や広島の原爆の惨禍も描いています。また絵葉書やポスターの原画、若き日の絵画作品などを見ると、あの鳥瞰図は一朝一夕にはできないのだな、優れた絵画の才能がなければ到底描けないのだなということがよくわかりました。また、印刷、製本技術の進歩、旅行が容易になったことも、初三郎の活躍の背景にあったことを改めて感じました。

 

 私の手元の初三郎作品というと、昭和初期の京王電車のものがあるくらいです。私鉄の沿線案内図全般が高騰する前に、各社の案内を随分買いましたが、初三郎作となると当時からそれなりのお値段(それでもまだ安かったですが)がしましたし、コレクターも多くてそんなに市場に出ないこともあり、残念ですがそんな結果となっています。ともあれ、今回の展示は、吉田初三郎の描く豊潤な世界の全貌を知る又とない機会になりました。会期はあとわずかですが、皆様にもご覧頂きたくご紹介した次第です。