ボロい東京 | 書斎の汽車・電車

書斎の汽車・電車

インドア派鉄道趣味人のブログです。
鉄道書、鉄道模型の話題等、つれづれに記していきます。

 今回は書評です。ご紹介するのはまたも昨年暮れに刊行された本ですが、ご紹介する機会を逸したのではなく、出ていることに気付かなかった一冊です。そして、久しぶりになりますが、鉄道書ではありません。

 

 三浦 展『ボロい東京』(光文社新書)です。新書ではありますが、著者が撮影した写真集となります。

 その被写体ですが、東京の下町などに残る昔ながらの(ボロい)住宅、それも主に細部にこだわっています。

 

 最初の「階段」の章では、昔ながらのアパートのいささか急な、そして踏み抜きそうな「外階段」が多数出てきて、まず度肝を抜かれました。後は、本当に開くのかなという「扉」、芸術的ともいえる物干し台が出てくる「洗濯」、車を入れるのに相当なテクニックが要りそうな「車庫」、壁面にいい味を出している「管・線」、かなりくたびれたポストが多数登場する「郵便」、壁面、塀などを彩る「苔・草」、まだ使えるのかなという「消火器」、恐らくもう営業していない「店」、増築ぶりが強烈な「建物」、建築資材としてのトタンが個性を放つ「錆」の各章が、読者を「ボロい東京」に誘います。

 

 解説は必要最小限、とにかく写真が語る本です。著者は東日本大震災の直前から撮影を始めたそうですが、被写体の多くはその後姿を消したといいます。著者の「あとがき」にもありますが、建物そのものよりも素材に関心が移り、それが錆び、朽ちていくことにより生まれるオーラに惹かれたのだそうです。

 

 とにかく強烈な印象を残す写真集ですが、レイアウトビルダーの方には特にお薦めします。鉄道車輛や鉄道施設は全く出てきませんし、本書のような情景をそのまま再現しようという方はほとんどいないかも知れませんが、リアルな(少し古めの)都市の情景を志向する方なら、本書に目を通して損はないでしょう。