スポーツと無料指導。
無料指導とは、無料で指導するということ。
無料で、自分が持っている経験・知識・技術を提供するということ。
少年スポーツ指導やトレーナー帯同などでまだまだ多いこの形式。
指導を受ける側が、「お金がない」という一点で「無料で教えてくれる人」に頼るのは理解はできますが、僕はよほどの理由がない限り避けるべきだと思っています。
なぜなら「無料」には指導をする側・受ける側の双方にとってそれぞれが思っている以上に大きなデメリットがあるからです。
これまでも何度かこのブログで触れてきてるテーマですが、今回は改めて掘ってみたいと思います。
だらだらと書くとわかりづらくなると思うので、端的に無料指導のメリットとデメリットを指導側・指導を受ける側それぞれで分類します。
▶︎指導側の5つの無料メリット
①チームや選手に入っていきやすい。
指導という行為は、レベルによる数値化はできません。それゆえいきなり有料だと受け入れてもらいにくいという背景があります。無料だと”お試し”的な感覚で受け入れてもらいやすい。
スポーツ選手のトレーナーをやりたい、チームの指導をしたい、などの”想い”がある人にとっては想いを実現する(したように見える)有効な手段となり得る。
ただし一度無料で入ると、そこから有料への移行は非常に難しいという特徴を持つ。→事前に有料化を約束しておくのがいい。
②簡単に経験を積める
①の理由により、受け入れてもらいやすいため、実際の現場経験を積むことができます。
これは一定の期間重要なことかもしれません。
しかし、”勉強期間”に担当された選手たちにとっては迷惑な話であることも忘れてはならない。この期間は無料だからこそ相当しっかりやらなければ相手にとってはマイナス。
③実績を作りやすい
②と同じくチームに入りやすいことによるメリットです。
それが有名チームであったりプロチーム・選手だと、「〇〇で指導実績あり」というプロフィールを書くことができます。
海外留学なども同じように使えるかもしれません。
ただ僕の個人的な感覚としては、勉強と実績はまるで別物であり、勉強させてもらうというスタンスでの経験を”実績”として扱うのはちょっと微妙じゃないかな。。
④繋がりが作りやすい
チームや選手には様々な関係者がいます。
無料であれ何であれ、関わってしまえばそこでいわゆる人脈を作ることができます。
自分でお店を持っている場合はそこへの選手動線も作ることもできるかもしれません。
⑤厳しい評価を受けにくい
これはもしかしたら裏の心理として働くことかもしれません。
チーム側・選手側には、「無料でやってもらっているのだから」という心理は確実に働きます。
「本当の評価・本当の要求・本当の意見」を抑制する作用は確実に存在します。
だって無料でやってもらってるのですから。
*メリットとして書きましたが、これは実際には双方にとってデメリットですよね。
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▶︎チーム・選手側の2つの無料メリット
①経済的な負担がない
これは無料で指導を受ける方のほぼ全ての理由といってもいいかもしれません。
無料、だからお金がかかりません。もしかしたら交通費も払っていないケースだってあるかもしれません。
②人員配置
チームの場合、トレーナーが在籍しているか、コーチの人数はどうかなどはチームの評価に影響を与えます。
人員配置には人件費という固定費がかかるため、お金をかけずにこれができることは非常に大きなメリットとなり得ます。
細かいところは抜けているかもしれませんが、概ねこんな感じだと思います。
比較すると分かる通り、受け入れ側のチームや選手には主に経済的な側面以外にはメリットはあまりないのです。
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無料で指導の提案または受け入れ、となるとどうしてもメリットに目がいきがちですが、そこには確実にデメリットも存在します。
ここを踏まえた上でそれでも無料、というのであればそれはもちろん選択の自由ですが、実際はデメリットを十分に分析せずに無料に飛びついているケースも多々あります。
▶︎指導側の3つの無料デメリット
①経済的に損失がある
指導という行為は商品など実物を渡すわけではないので分かりにくいかもしれませんが、確実に損失です。
損失とは時間、技術です。
時間は、指導に使う時間だけでなく、その知識や技術、経験を蓄積するまでの時間も含まれると僕は考えます。
技術、これも同様です。
特にトレーナーなど技術の習得に時間やお金をかけてきたものを無料で提供するのは、損失です。
指導側が、「指導したい」「スポーツに関わりたい」という想いが強ければ強いほど、この損失という部分に目をつぶるケースが多いかもしれません。
損失という言葉を連発するとお金にうるさい奴だと思われるかもしれませんね。
しかしここをしっかりしておかないと、以下で紹介するデメリットを生んでしまうのです。
②継続性・責任
無料で指導をしている場合、変化への耐久性が不十分になります。
変化への耐久性とは、指導側の環境変化です。
例えば、独身・副業なしの状況だと自分の想い次第でいくらでも継続できるでしょう。
しかし、結婚して子どもが生まれた、本業の方で経済的に苦しくなった・多忙になったなどのケースはいくらでも想定できるはずです。
そうなった場合、無料での”仕事”の優先順位は確実に落ちます。
家族を養わなければなりませんからね。。
また、他で同じ指導の仕事を有料で受けた場合、責任としてどちらを優先すべきかは明確です。
③後進への影響
後に続く人への影響です。
僕の経験的に、この部分を考えている人は、本当に少ない。
あなたが安易に無料でやることで、後輩たちには確実に無言の影響を与えます。
あの人でさえ無料でやってるのに自分はお金なんてもらえません、という心理を生みます。
あの人でさえ無料でやってるのにあなたはお金を要求するのですか、という無言のプレッシャーを生みます。
自分が無料でやることによる、後輩へのデメリット、考えてほしいです。
*僕がものすごく苦労した部分です
もう一度、指導側のメリットとデメリットを見比べてみてください。
指導側のメリットの中で「無料でないと受けられないメリット」は非常に少ないはずです。
①ぐらいでしょうか。
有料でも大半のメリットは受けられるはずです。
にも関わらず、「無料でやります」を指導側がやってしまう理由はなんでしょうか。
それは「お金をもらうに値する価値を提供できる」と言い切れないことが原因じゃなかろうか。
でもそれってかなりの自分軸。指導の仕事なのに自分軸です。
選手にとってそれが本当に有益なのでしょうか。
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▶︎チーム側・選手側の3つの無料デメリット
①要求・評価しづらい
すでに少し書きましたが、「無料で指導に来てくださってる方」には、心理的に強い要求はできません。
途中で帰ろうが、ドタキャンしようが、そして成績が上がらなくても「どうなってるんだ」とは言いにくい関係性を生み出します。
これまで僕が出会ったケースでは、暴力を振るった”無料コーチ”を保護者が「お金ももらわずに頑張ってくれてるし、、(文句言いにくいのよね。。)」という出来事がありました。
これって、実はものすごく多くないですか?
②”契約解除”しにくい
いざ無料で受け入れてしまうと、その後にこの人の指導はちょっと微妙だな、となっても「もう来ていただかなくてもいいです」とは言いにくい関係性になります。
逆にちゃんと契約していれば、契約を更新しません、という方法がとれます。
無料指導は、ちゃんと契約書を交わしていないケースが大半です。
それゆえ、断りにくいというケースは非常に多く出会います。
「あの人ちょっと微妙だけど無料で時間作って来てくれてるしね。。」
そんなこと選手には関係ありません。
貴重な時間と努力を、そんな理由で少しでもロスさせたくない、それが本当に選手のことを考えるチームのスタンスではないでしょうか。
③利用されてもクレームしにくい
たった1回の指導でも写真を一緒に撮って”指導している感”を出そうとするケースは結構多く。
有名選手であればなおさらその”後光効果”を利用しようとするケースは残念ながら多しです。
選手側が本意ではない場合でも、無料で受けてしまっている状況では非常に断りにくいのが人間心理です。
無料指導を申し出られたら、”なぜ無料を申し出るのか”をしっかり考えるべし。
数としては3つですが、これらは人間心理的にも非常に解決しにくい部分ではないでしょうか。(感覚的にいかがでしょうか?)
無料で指導に来てくださっている人との関係が”問題”になった時、このデメリットは深刻化しやすく、長期化しやすいものとなってしまいます。
注)
ここまでの話は、「絶対に無料はやめとけ」という話ではありません。
双方がこれらのメリット・デメリットを共有・納得した上での「選択」であれば何ら問題はないと思います。
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僕は指導とは一方的なものではなくて指導側と選手・チーム双方の本気のやりとりがベースにあると思っています。
無料指導という行為は、一見慈善的であり”お金のない”選手やチームのことを思いやっての行為のように見えます。
しかしここで触れて来たように、安易な「無料関係」にはこの本気のやりとりを阻害するファクターが多数発生してしまう可能性が高いのです。
親としての立場から考えると、無料での指導を仮に持ちかけられた場合、僕は大事な息子たちの指導を無料では受けません。
相手がなぜ無料を持ちかけるのかをめっちゃ考えます。
こちらの考えをちゃんと伝えてお金を支払って責任を共有します。
子どもへの無料指導のデメリットは、時に「本人ではなく周囲の反応によって起きる」からです。
「無料で来てもらってるから、、」という心理が、少しでも影響してほしくないからです。
最後に。
これまでの話と逆に、「有料だからといって何を言ってもいい」と言うわけではないということも忘れてはいけません。
リスペクトを持って、”本気のやりとり”ができる関係性を。
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▶︎なぜスポーツトレーナーが現場で無償ボランティアを続けてしまうのか。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
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