いろんなサッカーチームにトレーニング指導に行くと、必ず出会う話題が「プレジャンプ」の話。
Jリーガーやなでしこのゴールキーパーに対するパーソナルトレーニング指導をしていても、まずこの話は話題に上がります。
どんな話かというと、プレジャンプは必要なのか不要なのかという問題。
そしてやるとしてもタイミングのズレが起こるという問題。
割と長い間議論されている部分だと思います。
プレジャンプが必要か、不要か。
やるべきか、やらないべきか。
この点についてはかなりたくさん記事が出てきますので、それぞれの意見はそちらをご参照いただくとして、サッカー経験がない僕の立場、つまり身体操作の観点から言えることを少し述べたいと思います。
まず、現象としては、トップレベルでプレーするほぼ全員のGKはプレジャンプをしています。
トップはプレジャンプをやっていないと分析されている記事などもありますが、やっています。
ノイアーも、カーンも、カシージャス、バルデス、ブッフォンも、みんなやっています。
いやいや、やっていないだろ、、と思われる方もいると思います。
このあたりは、「何をもってプレジャンプとしているのか」という基準次第だと思います。
なので、僕の考えるプレジャンプについてまとめたいと思います。
サッカー経験ないので、あくまで身体操作という観点です。
まず、プレジャンプを議論するために必要な大前提の知識として、反力という物理法則を知っておく必要があります。
人間が地面を使って移動するとき、地面を蹴って移動します。
前に進む時も、ジャンプする時も、地面を蹴らないと難しいのは当然です。
(もちろん重心移動も同時に行います)
この時、「地面を蹴る力=進む力」ではありません。
地面を蹴った結果、地面から返ってくる力によって、人間は移動することができます。
この「返ってくる力」が反力です。
柔らかい地面で進みにくいのは、得られる反力が分散するからです。
物理法則でいうと、作用反作用の法則です。
だからジャンプも反力によって起こります。
ではそれを踏まえてプレジャンプを考えてみましょう。
(はっきり分類するために、プレジャンプとメインジャンプという名称を使います)
なぜプレジャンプをするのか>
プレジャンプの直後にメインジャンプするためであり、そのためのエネルギーをチャージするため。
つまりプレジャンプは、より強くより速いメインジャンプするためのエネルギーを得る役割があります。
もちろん、他にもメインジャンプのためのエネルギーをチャージをするための方法はあります。
例えば体力テストの垂直跳びのように、深く股関節を曲げて上体を沈めることで地面を蹴る反動を得る方法です。
単に高さと到達速度だけを満たすだけであればこれでも問題はありません。
しかし、ここで問題が生じますよね。
それは、時間の問題、つまりタイミングの問題です。
ボールが飛んでくるタイミングとエネルギーがチャージできたタイミング(=プレジャンプの着地)が合わなければ、メインジャンプは”遅れます”。
プレジャンプはやらない方がいい、と考える立場の方の主な理由はここだと感じています。
しかし。
プレジャンプがあるとタイミングが合わないから出来るだけやるべきでない。
と結論づけるのは、ちょっともったいないかもしれません。
いるのかいらないかを考える前に考えるべきこと。
それはプレジャンプの「方法」です。
ジャンプには2種類ある>
まず、大前提として人間ができるジャンプには2種類あります。
一つは「普通の」ジャンプ。
地面を蹴って、空中に飛び上がり、頭や体幹の位置が上に上がるジャンプです。
横に蹴れば横に大きく飛べます。
メインジャンプはもちろんこちらです。
もう一つは、頭や体幹の位置は変えずに、両足だけを浮かせるジャンプ。
地面は蹴りません。
引き上げジャンプまたは膝抜きと呼んでいます。
僕はこちらがプレジャンプだと考えます。
結論から言うと、こちらができると、GKのプレジャンプの条件を満たすことができます。
逆にプレジャンプを、「普通のジャンプ」でやってしまうと、タイミングの問題が起こります。
だから、GKは2種類のジャンプを習得して使い分ける必要があるのです。
引き上げジャンプのメリット>
プレジャンプに使われるべき膝抜きのメリットは、両足を空中に浮かすまでの時間が非常に短いことです。
そして浮いた状態からもすぐに両足を地面に降ろすことができること。
これを獲得できると、身体が浮き上がることなく両足だけを地面から浮かすことができます。
反力を強く得るためには、両足が地面に着いた状態から沈み込むのと、両足を浮かした状態から着地するのとでは後者の方が有利です。
反動、つまり勢いが使えますので、得られる反力は大きくなります。
膝抜きができるということは、身体を浮かすことなく、地面からの反力を得ることができるということを意味します。
普通のジャンプのデメリット>
空中にいる時間が長くなる=重心がかなり上がる=タイミングの問題が生じる。
空中で身体が伸びる=地面に降りて沈み込む(関節を曲げてパワーの発揮に備える)時間が長い。
これらがタイミングが合わない理由です。
要するに「普通のジャンプ」は、プレジャンプ(エネルギーチャージ)からメインジャンプまでに要する時間が長いのです。
これらのことから言えることは、プレジャンプを有効なものにするためには条件があるということです。
プレジャンプを有効化する条件>
2種類のジャンプを習得すること
2種類のジャンプを使い分けられること
引き上げジャンプからメインジャンプへの移行をスムーズ(速く)すること
引き上げジャンプを連続かつ速く数回行えること。
(これはトップレベルのGKたちがタイミング合わせる時に、ガクガク小さく動いている現象=タイミングを合わせる動作のことです)
これらの条件を満たせば、プレジャンプは有効です。
これらの指標を踏まえた上で、上記に挙げたトッププレイヤーたちはプレジャンプを「やっている」と表現しています。
(トップレベルの引き上げジャンプはものすごく速くて小さい(1mmぐらいのこともある)ので、わかりにくいですが)
最後にプレジャンプに対する僕の考えをまとめると、
プレジャンプは必要。
なぜならメインジャンプの反力を得るために物理学的観点から考えても有効だから。
上記「プレジャンプを有効化する条件」を満たせば、プレジャンプはやらない方が良いとされる理由をクリアできるから。
そのためにも、プレジャンプとメインジャンプの力源は明確に分類して指導することが必要。
(プレジャンプは地面を蹴るのではなくみぞおちの動きを使います)
もちろん、速く動くためには、同じベクトルを発生させることができる「協力者」は多ければ多いほど有利です。
上半身・腕の動きやモモ裏上部の筋力が強い方がいいのは当然です。
最後に、引き上げジャンプ(膝抜き)の動画を掲載しますので、検証してみてください。
加えて、プレジャンプを有効化する条件の一つである「プレジャンプからメインジャンプへのスムーズな移行」に使えるトレーニングも載せています。
参照してみてください。
お読みいただき、ありがとうございました。
全てはパフォーマンスアップのために。
中野 崇
追伸
引き上げジャンプの動画、これは空手道場で指導している場面です。
空手においても、反力を素早く得て間合いを詰めたり強い突きのためのエネルギーをチャージするために使われる身体操作です。
他にも野球の内野手、バレーボールのブロック、サッカーのフットワークなどでも使われます。
これらのことから言えることは、人間が素早く移動するための共通の身体操作ということであり、人間の構造上、スポーツで使える動き、ということです。
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