5月3日深夜(5月4日未明?)、クレムリン上空でドローンが爆発した映像が広く流されています。
現時点で入手可能な情報によれば、これはロシアによる自作自演のいわゆる偽旗作戦である可能性が極めて大きいと思います。
ロシアの大統領府は、この爆発は、「プーチン大統領を狙ったウクライナのテロ攻撃であり、ロシア側の防空手段により破壊されて、攻撃は失敗に終わった」旨の発表をしていますが、
・その爆発の時刻頃に、プーチン大統領は全く別の場所にいたとされており、ウクライナ側がプーチン大統領がクレムリンの一定の場所にいたと考える理由がない限り、「プーチン大統領を狙ったテロ攻撃」ということはあり得ません。
・ロシアの防空態勢が、当該ドローンをどの時点、どの位置で補足し、破壊手段を講じたのか、全く発表されていませんし、当該ドローンが、どこから発進したのかも明らかにされていません。400~500kmは離れているウクライナの領内から発進したのだとすれば、クレムリンの上空に至るまで、全く補足できずにみすみす侵入を許すということがあり得るのでしょうか。特に、モスクワでは、市内に、対空ミサイル等が設置されていると報じられています。
ロシア国内に侵入してドローンを発進させたのだとしたら、その発進場所はどこで、それらの侵入者は何故捉えられていないのでしょうか?
・仮に、レーダーで捕捉できない程度の小型ドローンであれば、搭載できる爆弾の爆発力は限定されており、ウクライナ側にとっては、戦術的に無意味な「花火」にしかなりません。
むしろ、現時点では、ウクライナの首都キーフの大統領府その他の重要な施設へのロシア側の攻撃を誘発する有害無益な行動となってしまいます。
それに、それまでレーダーで捕捉できなかった程度の小型ドローンがなぜ急にクレムリンの上空に至ってから、防空網に補足され、破壊されたのでしょう?
自爆型ドローンの多くは、目標に突入しコンタクト時点で爆発するシステムですので、クレムリン上空で爆発していることは、当該ドローンは、ロシアの自作自演で、上空で爆発してクレムリンの屋根などに大きな被害を与えないようにセットされていたか、それとも対空ミサイルや高射砲、高射機関銃などで破壊されたとしか考えられません。
映像で見る限り、対空ミサイルや高射機関銃の弾丸等の飛跡(通常、弾道を確認するための曳光弾が混ざっているはず)は確認できませんので、私は、当該ドローンがクレムリンの上空で爆発するようにセットされていた可能性が大きいと思います。もっとも、この時刻ですので、そのような飛跡が必ず確認できるとまでは断言できません。
[追記:ロシア側は、具体的破壊手段を明らかにしていません。対空ミサイル、高射機関砲等でしたら、ドローン以外にその破片等があるはずですので、どうも妨害電波などの電磁的手段で攻撃を失敗させたと主張しているようです。ドローンへの指示を行う電波を混乱させたり、ドローンが積んでいる電子装置のチップの作動を妨害するような電磁的手段はあっても、ドローンを空中で自爆させるような電磁的手段は、非常に考えにくいと言わざるを得ません。自爆装置は、通常、物体とのコンタクトで起爆させる物理的なシステムで、電磁的な起爆システムではないからです。ウクライナの戦場でもロシアもウクライナも、そのような相手方のドローンを自爆させるような電磁的手段は使っていません。ロシアがどのような手段で爆発させたかを明らかにしないのであれば、ロシアによる自作自演の疑いはさらに強まると思います。]
[再追記:ロシアが主張するこのドローンを破壊した「防空システム」とは具体的に何かを追及されると、ロシアの自作自演がばれてしまいます。本当なら、その「防空システム」のオペレータは、クレムリンへのドローンの突入を防いだということで勲章ものですよね。私のような素人よりも、はるかに軍事技術に詳しいロシア人の軍事ブロガーのうち、嘘でも出鱈目でも平気なプーチン政権の太鼓持ち以外のブロガーは、ドローンを遠隔操作で自爆させる「防空システム」なるものに、既に大きな疑問を持っているだろうと思います。そうすると、ロシアとしては、「防空システム」を追及されて愚かしい自作自演がばれないように、このドローン攻撃の話題を早く埋もれ去るようにしようとすることが考えられます。]
・CNNは、この爆発の時、クレムリンの屋根に2人の人影が見えることを報じています(日本のニュース番組のコメンテーターの多くは触れていません。)。この人影は誰で、この時刻に、どんな理由で、クレムリンの屋根に登ったのでしょうか。
また、CNNのコメンテーターは、もしもウクライナ側が、このタイミングでドローン攻撃を掛けたのだとしたら、赤の広場のパレード用の施設やその他の施設を狙わなかったことに疑問を呈しています。
現時点での私の見立ては、この爆発は、ロシアによる自作自演のいわゆる偽旗作戦であり、その目的は、
1.ロシア国民にプーチン大統領および自国首都の政府の要所がテロ攻撃を受けたと愛国心を煽り立てるようなプロパガンダを展開して、このままでは評判の悪い追加動員等を含む一層の戦争努力に協力させる。
2.ロシア国内でも陰で暗殺を恐れて逃げ隠れして、穴にこもっているなどと揶揄されており、ぺスコフ報道官がわざわざそれを否定する声明を発しなければならない状況のプーチン大統領の行動を正当化する。
3.5月9日に予定されている軍事パレードを中止する、あるいは、プーチン大統領がそれに出席しない口実を作る。
ことだと考えています。
なお、ロシアは、容易に、ウクライナの占領地で、ウクライナ側が使うドローンを入手できますので、破壊されたドローンの部品がウクライナ製であるとしても、偽旗作戦を否定する十分な理由とはなりません。
上記3は今のところ、そうなっていませんが、プーチン大統領が恐れている暗殺というのは、ウクライナの刺客によるものではなく、ロシア国内の軍隊やFSB等の一部にいると思われるロシアの将来を真に案じている愛国者によるものだと思いますので、プーチン大統領としては、多数が集結するパレードの場には本当は出たくないだろうと考えています。
どうなるでしょうか。
[追記:なお、念のためですが、偽旗作戦は、別にロシアの専売特許ではありません。例えば、日本(大日本帝国)が実行した偽旗作戦としては、1928年の張作霖爆殺事件が有名です。日本軍(関東軍)が鉄道を爆破しておいて、それが中国側の犯行であると主張しました。アメリカの偽旗作戦としては、1964年のトンキン湾事件があり、アメリカ軍の駆逐艦が北ヴィエトナムから魚雷攻撃を受けたという虚偽の事実を主張して北ヴィェトナムに対する軍事行動を正当化しようとしました。その時点で、偽旗作戦であることを見抜くか、少なくとも疑いをもって、時の政府のプロパガンダに載せられてしまわない知性が大切だと思います。]
[再々追記:私は、ロシアの自作自演か、ウクライナかという二択で議論していたのですが、ロシア国内の反プーチン派による犯行という3番目の選択肢が報道されるようになっています。反プーチン派とすれば、プーチン政権に恥をかかせ、国民の信頼を失墜させることなどが目的と考えられますので、クレムリンの建物を破壊する必要はなく、クレムリン上空で派手な花火を花開かせるようにセットしてドローンを飛ばすことは十分に考えられます。現在、入手できる情報で、反プーチン派の犯行と解するのは不合理であるという事情は見当たりません。]