ところで、放射性同位元素というのがある。この中で中性子を出すものはないのだろうか?

調べてみると、ある。普通のα崩壊やβ崩壊、ガンマ線とは異なるけれども、「自発的核分裂」という性質を持った重い原子核がある。たとえばプルトニウム240とかカリフォルニウム252なんかがそうだ。これは、外部から種火となる中性子を照射しなくても「自発的に」核分裂して中性子を放出する。

中でもカリフォルニウム252はかなり強い中性子源だ。

半減期は2.65年とやや短いので忙しいけれども、廃止の際の安全性を考えると却って望ましいのかもしれない。

原子力百貨辞典ATOMICAというのがあって、この中にも解説記事がある。

「ラジオアイソトープ(RI)中性子源 (08-01-03-16)」
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=08-01-03-16


この記事によると市販品でも既に6.9×10の9乗個の中性子強度を持っている。これを150倍程度にするのは大して難しくはないだろう。

この他、1932年にチャドウィックが中性子を発生した時に使った装置でポロニウムからのα粒子をベリリウムターゲットに衝突させて中性子を発生させている。このため中性子はその正体が突き止められるまでは「ベリリウム線」と呼ばれていた。

このようにベリリウムとα線源を合わせれば中性子源とすることができるが、現実的には10の5乗個程度の中性子しか得られないようで、BNCTには使いにくい。

また光中性子反応を利用して凡そ1.7MeV以上のガンマ線をベリリウムに照射すると低エネルギーの中性子が出てくる。このような比較的高エネルギーのガンマ線を出し続ける物質とベリリウムを合わせたものも使えるが、こちらも反応確率がそれほど高くないようで、強度が出にくいようだ。

そんなわけで、今のところアイソトープ中性子源でBNCTで使えそうなのは252カリフォルニウムという事になる。10の12乗個程度の中性子は比較的容易に確保できる。けれども現在の製造方法ではこの物質は非常に高価で加速器よりもコストが高くなってしまうかもしれない。

(文:窪田 敏之)
少し前になるが東北大学の歯学部出身で(私の大学の後輩になります)現在東京医科歯科大学の放射線腫瘍学の三浦雅之教授にお話を伺いにいった。三浦先生とは面識がなかったけれども、25年前、大学で教わった時の東北大学歯学部附属病院の前病院長であった口腔診断科の笹野教授のご紹介で訪問したのだ。

中性子の照射設備を企画している我々としては、その中性子を使ってくれる研究者の先生方が必要だ。医学側の先生として「放射線腫瘍学」の三浦教授を訪問して、放射線による腫瘍の治療の現状や最先端の臨床の現状を色々お伺いした。

三浦先生は現時点ではまだBNCTはやっていない。しかしそれ以外の様々な放射線療法をやっているし、BNCTにも多少はご興味をお持ちのようだ。

中でも微弱なアイソトープ線源を使用した口腔癌、特に舌癌の治療に取り組んでおり、成果を出している。舌癌になったときに、この舌癌に適切な強度のガンマ線を放射するセシウム137を包んだ金の針を刺しておく。すると癌が縮小してゆき、大きな外科的切除などをしなくても制御できるようだ。

この「適切な強度」というのが、なかなか重要で議論の的になっている。三浦先生としては比較的弱い放射線を長時間照射する方式が良いという理論を持っており、実際に治療成績もかなり良いようだ。また単に5年生存率だけではなく、その他の副作用を低減するためにも低線量+長時間方式が良いようだ。他の医療機関では高線量・短時間方式を実施している所もある。

だが低線量方式の場合には治療の手間隙や術者の被爆の危険などは短時間で処置が終了してしまう高線量方式よりも多めになりがちだ。しかし三浦先生は敢えてこの低線量方式を採用しているのだ。

その他、今話題になっている重粒子線治療とか、通常のガンマ線照射で効力を増すための様々な増感の方式、ICRP勧告の被爆量の妥当性とか、がんの治療で「なぜ一度放射線治療を行った場所はもう一回はできない」のか、等々現在の放射線による腫瘍治療を取り巻く様々な話題であっという間に時間が過ぎてしまった。お忙しい中2時間にわたる会談だったが、非常に興味深いお話ばかりだった。

(文:窪田 敏之)