Dustbin of Life -15ページ目

Dustbin of Life

Don't think.FEEL!
It is like a finger pointing away to the moon.


そういえば今日は日航機が事故った日だったか。
坂本九が飛行機に乗ってて亡くなったんだけど、その日はずっとニュース特番をやってたな。
「坂本九さんが乗ってるかもしれません」
「まだ飛行機の行方はわかりません」
って状態のまま、深夜に鶴瓶の『突然ガバチョ』ってバラエティーをやってて、そのゲストが坂本九だった。

当然、画面には
「これは○月○日に収録したものです。なお、行方不明の日航機に坂本九さんが乗っているとの情報があります」
と、出てた。


あの日はそれ以降もずっとTVを見てたなあ……

高校生最後の夏休みだったかな。
それが25年前か。

そりゃ、爽やかさも無くなるっちゅうの。ε=(。・д・。)
近年稀に見る試合だった。

これだから高校野球は恐ろしいし、面白い。

他人の魂を揺さぶることができるのは、凄いことだね。

勝負は負けちゃダメだけど、負けてもイイモノが手に入るのが甲子園だな。


本田君、いい仲間といい経験をしたな~。






ここ5・6年、ずっと画策しているコトが3つほどあって、どれも中途半端につまみ食いのように作業してた。
そのうち仕事もプライベートも忙しくなり、ここのところは全く手をつけていなかったけど、そのうちの1つについて本腰を入れて動いてみようと決意した。

正直、ちょっと手遅れかもしれないと思いつつも、他の2つよりは可能性がある。
(残る2つのうち、1つは全く可能性がなくなったし、1つは完全に時機を逸した)

忙しいとはいえ、時間はある。
これくらいの時の方が案外いいんじゃないかな、と。

結局、真正面から誠実にコツコツやったものの方が伸びるはずだ。

一関学院の2番手のピッチャー(2年生)、かわいそうだったな。
ピッチャーとしてあれほど辛い経験は、甲子園でもなかなかないんじゃないかな。

あの状況で出てきて、ボコボコにされて、泣きたい気分だっただろう。

このまま潰れたら、一生消えない傷になる。
このことを糧に努力すれば、この試合が一生の宝になるだろうな。

こんな経験ができるって、幸せだな。

来年、強くなって必ず戻って来い(゙ `-´)/


TOTOといってもサッカーのほう。

久しぶりに買ってみたのだが、土曜日の試合は9試合中8試合的中。
「これは( ̄□ ̄;)!!」
と思って、前週の結果を見たら、残り全部当たって2等だったとしても、2万円くらいの配当。
バカバカしい。

TOTOの始まった当初も、2等とか3等とかが当たって一度だけ数万円になったものの、あとは何百円の世界。
それがバカバカしくてやめてたことを、すっかり忘れてた。

BIGの方も1口買ってたが、やたら引き分けが入ってて、見た瞬間に
「当たるはずもない」
って思った。

結局、昨日の結果は2つ外してたので1円にもならず。

もう、買うのやめよう。
別にサッカーが好きなわけでもないし。
それがどうした?ってニュースだ。

そんな状態の人間がたくさんいるだろうって思ってもみませんでした、っていう論調を流す報道のレベルの低さに呆れ返っている。

田舎のマスコミならまだしも、大都市特に東京に住んでいたら、ホームレスをたくさん見るだろう。
そういう人たちの住民票がどういう状態なのかを考えれば、行政が把握できない住民登録者が山ほどいることくらい想像できるだろう。
(もちろんこうした行方不明者のうち、ホームレスの数など極々一部だが)
身元のわからない死体がどれだけあるかを考えただけでも、想像はつくだろう。
住民登録をされていない人間だって、何万人もいるはずだ。

年金の不正受給がなければ、または該当者が行政サービスの枠から外れていれば、こんなニュースはどうだっていいニュースだ。ほぼ芸能ニュースのレベルだ。


古きよき日本のムラ社会が崩壊し、価値観が多様化し、システムが複雑になる一方の現代で、行政が人々をキッチリ管理することなど不可能だ。

管理するためには、刑務所のような社会を作るしかなく、そんなことを人々が望むはずがない。

「面倒なことだけは誰かにやってもらいたい。不都合は全て他人のせいだ。悪いのは国だ」
甘えん坊の子供のような国民性を持つこの国に未来などないと思う。

行政など、最低限のレベルのサービスだけでいい。
何かをやればやるだけドツボにはまって行っているようにしか見えないよ。


 陽が陰り始め、上がりきった水温が緩み始め、死にゆく仲間達の数が10匹を数えた頃、それまでひとときも窓の傍を離れなかったマコトのもとに、ハマサキがゆっくりと近寄った。
「どうだ?」
 その顔にはすでに先ほどのような笑顔は見られなかった。
「もう、チャンスは少ないぞ」
 マコトは笑った。
「おまえも余裕が無くなったってことだな」
 その言葉に目を伏せたハマサキに、
「いいのさ。気にするな。何にしても俺はおまえの後に行くつもりなんか無かったさ」
 そう、マコトは答え、再び瞳に輝きを取り戻した彼の尾鰭に一撃を加え、
「で、どうすりゃいい?」
 と尋ね、ハマサキはしっかりとマコトを見据えて言った。
「この場所に他の連中が入って来る時の天井の動きを見たか?」
「ああ、見たよ。人間の腕ごと入ってくるな」
「そう、あの瞬間しかないはずだ。奴らは暴れる獲物を逃さないように、ここに手を入れて来る。その手に噛みつくしかない。幸い、ここは川の中だ。だが、川岸までそう遠くない。だから噛みついた手が外へ出た瞬間、そのまま下に落ちればいい」
「出来るか?」
「お前なら確実さ。俺は五分五分。ただしタイミングが難しいぞ」
「お前はそのタイミングを掴めばいいのさ。俺の動きを見てな」
 マコトは一滴の嫌みも含めずにそう言って、上を見上げた。
「ありがとう」
 ハマサキの呟きに近い言葉、その瞬間、天井が揺れ、嬌声と伴に二人の頭上に空が広がった。
「今だ」
 ハマサキの叫び。マコトは猛然と上昇し、水しぶきを上げて、宙に舞った。滴り落ちる水滴、風が舞った。
「いけえ、行ってくれえ」
 マコトは捕らえられた仲間を擦り抜け、その尾鰭に自分の尾鰭を叩きつけることで浮力を増し、その勢いのまま人間の指に噛みついた。
「痛っ……」
 人間の声。広がる視界。眼下に見える母なる川。
 マコトは完全に檻から身体が抜け出したことを確認し、今まさに口を外そうした瞬間、激しく横に薙いだ腕に振り飛ばされ、猛スピードで川岸に叩きつけられた。
 マコトはその間、ずっと目を見開いていた。青く輝く水面。未来を求める確固たる意志。過去がもたらした根拠に満ちた自信。今を直視する冷静な瞳。
 しかし、彼の叩きつけられた場所は水際まで身体2つ分はある砂利の上だった。
 マコトは懸命にもがき、水辺を求めた。尾鰭で地面を叩き、身体を左右に激しく振り、頭を打ちつけようと、鱗を剥ぎ落とそうと、必死に前進を試みた。
「あと半分。もう少しだ」
 身体中の酸素を使い果たした。視界が歪む。
「シーナ。待ってろ、シーナ」
 腹に水の感触。苔の匂い。視界が暗い。
「ちくしょう、あと少し。どうしてだ。まだ行けるのに…」
 何とか水を口に出来る場所まで辿り付き、マコトの安堵が脳裏に滑りこんだ途端、戻り始めた視界を一瞬にして失った。
 全身を襲う溶けるほどの熱。同時に強烈な拘束感に苛まれ、再び浮揚感を得たことで、ようやくこの脱出が失敗したと思い知った。
 マコトはもう一度シーナの名を呟き、残った力を振り絞って、
「あとは任せたぞ。ハマサキ」
 と叫んで絶命した。

        ※

「アハハハ。凄いなこいつ。俺の指をくわえて脱走したぞ」
「うわあ、ホントだホントだ」
「逃げた逃げた」
「捕まえろぉ」
「よっしゃあ」
「おお、ナイスキャッチ」
「しかしこいつ大きいし、活きがいいなぁ。こんな身の締まった奴は『せごし』にして食べたら旨いぞ」
「何にぃ、『せごし』って?」
「刺身さ。ブツ切りにしてワサビ醤油で食べるんだ」
「へえ、さすが鮎釣り名人。何でも知ってるわね」
「まあな」
「早速食べようよ」
「そうだね。じゃあ、釣りもここまでにして、バーベキュー大会を始めるか」
「OK」
「んじゃあ、とりあえずビールを……」
「いえ~い」
「そんじゃあ、乾杯」
「かんぱ~い」
「ワハハハハハ」


             THE END
 意識が戻った時、マコトは自分がどういう状況にいるのか判らなかった。激しく頭を打ちつけていたせいで視界ははっきりとしないが、慣れ親しんだ川の匂いや流れを感じ、そのことが余計に混乱を招いた。
「大丈夫か?」
 なんとなく目の焦点が合い始め、声の方にマコトは目をやった。そこには群れがあった。見知らぬ者どもの群れ。激しく苛立つ青年、あきらめを背びれに漂わす男、疲れ切った妊婦、屍。
「何も言わなくて良い」
 男の声がやけに大きく反響し、そのことでマコトはこの群れを高く取り囲む竹の壁を確認した。
「あまり動かない方が良い」
 それでもマコトは高い壁の上方に目を向け、空までが竹で出来ているこの牢獄に愕然とした。
「あんたは誰なんだ? なんなんだ、どうしたっていうんだ」
 マコトは動揺を隠しきれず、涙声で男に尋ねた。しかし、男はその問いに答えず、しばらく無言でマコトに寄り添った。
 男はマコトの緊張が溶けるの促すように、ゆったりと尾鰭を動かし、
「俺はハマサキって言うんだ。おまえの名前は?」
 と尋ね、大きく吐息を吐きながらマコトは
「マコト」
 と小さく答え、ハマサキはマコトを川底へ押しやり、川の流れに任せる形で竹の塀にマコトを寄りかからせた。
「釣られたのさ」
「釣られた?」
「そう。人間の罠にかかったのさ」
「わな……」
 マコトは呟いた。
「そう」
 穏やかな男の声。マコトはその言葉に何故だか冷静さを取り戻した。
「友釣りって奴さ。人間達はそう呼んでいるらしい」
「友? あんな野郎が友だと…」
 マコトは激しく身を振り、それを笑いながら抑え込んだハマサキは
「名前だよ、ただの。そんなことに体力を使うんじゃない」
 となだめ、それを振りきるようにマコトは態勢を入れ替え、ハマサキを壁に押しつけた。
「そうだ。あいつは何処へ行ったんだ」
「あいつって?」
「俺の友達だよ」
 吐き捨てるようなマコトの言葉に、ハマサキは笑いながら答えた。
「死んだよ。おまえを下敷きに岩に叩きつけられたっていうのにさ。多分かなり弱ってたんだろうな」
「見てたのか? おい。何処で見える?」
 その言葉にハマサキは自分の押しこまれた壁の上方を下顎で指し示し、見上げたマコトはそこに本物の空を確認し、反射的に上へ泳ぎだそうとした途端、
「出られやしないぞ」
 とハマサキが声をかけた。それでもマコトは上へ泳ぎ始め、その窓にはまるで関心を示さないふりをしながら泳ぎつづけ、壁づたいに牢獄をひとまわりしてハマサキの元へ帰って来た。
「で、あいつの死骸は何処にあるんだ?」
 と、マコトは腹を晒して浮かんでいる連中を見ながら言った。
「ここに戻されないところを見ると、多分塩焼きにされているだろうな」
「塩焼き?」
「火であぶられて、食べられちゃうのさ。おまえも海に行ったことがあるだろ。あの水に含まれている塩ってモノを振りかけられてな」
「ふん。ざまあみろ」
「ざまあみろって、俺達も同じような扱いをされるんだぞ」
 マコトは大げさに声を上げたハマサキのその台詞に、何故だか何の衝撃も受けなかった。
「俺達はまだ食べるために釣られるからいいさ。あのクソ生意気なブラックバスどもは人間達の遊びの為に殺されるんだからな」
「それこそ、良い気味だ」
「しかし、俺達のほとんどが塩焼きさ。妊婦達は甘露煮にされるんだろうな」
 妊婦。衝撃を受けなかった理由。たぶんその言葉のせいだろうとマコトは思った。遂げられなかったこの思いは自分の生命をより重く感じた。
「卵がうまいらしいぞ」
 ハマサキはしつこくその言葉を繰り返した。
「卵の話しはいいよ」
「種、つけられなかったのか?」
 その言葉にマコトは頷き、そして涙を流し、ハマサキはマコトの顔を見ないまま続けた。
「どうして人間達はあんな汚いマネをするのか知っているか?」
 マコトは張り裂けそうな浮き袋を静めようとゆっくりとエラを閉じ、ハマサキの言葉に静かに耳を傾けた。
「人間という生物は、自らの社会の中に弱者を作りたがる習性を持っている。積極的な主観を持たず、客観的な価値基準だけを信じて生きていく。そう、奴隷の様な大多数を作り続けることが彼らの世界を繁栄させているのさ」
 ハマサキはマコトの前に廻りこみ、目を見据えて続けた。
「おまえを捕らえたあの小男。ああいう本質的な弱者の願望を刺激し、勘違いさせ、搾取し、それを使い捨てながら利用する。あれこそが人間達の常套手段なのさ。そうしてあろうことか、生態系の掟すら愚弄するかのようにそのシステムで俺達を翻弄し、挙句の果てはこの自然を汚染し、神の如き生態系自体を破壊しようとしているのさ」
 マコトは熱弁をふるうハマサキの迫力に、それまでに持っていた過去への切なさを今の怒りへと昇華させ、しかしながら、それと同時にある疑念を抱き、未来無きこの状況に何の躊躇もせず尋ねた。
「どうしておまえはそんなに人間達のことを良く知ってるんだ?」
 ハマサキはその言葉の出現を心待ちにしていたかのように微笑み、マコトの態勢を反転させるようにきつく身体を押しこみ、塀に向かう形で寄り添いながら、
「おまえ、川から引き抜かれた時、川を眺める余裕があったか?」
 と口元だけで笑顔を作りながら尋ねた。
「ああ、なんとなく見てはいたが…」
「青かっただろ、川」
「ああ」
 本当はそんな余裕など無かったマコトは、その熱弁に押されるようにそう言うと、一度笑顔を消したハマサキは再び同じ笑顔を作り、言った。
「俺が幼い頃に海へ出たときに、一匹のロシア鮭に出会ったんだ。そして彼にロシアの英雄の話を聞いたんだ」
「ロシアの鮭?」
「そう、一度人間に釣り上げられ、そこから奇跡の生還を果たした鮭の話さ」
「聞いたことないな」
「有名な話だよ。『川は青かった』っていう名言を吐いたそうなんだが、彼の人間についての話を聞いて、俺は思ったんだよ。人間にひと泡ふかして、俺達日本固有の民族の英雄になってみようかなってさ」
「英雄ねえ」
「ロシアの鮭達は彼の出現以来、人間達の罠にかからなくなったらしいんだ。しかしどうだい、俺達は。今まで人間に捕らえられた者で生還した例がなかったんだから、人間達について知るものもいなければ、それに対する対策も出来なかった」
 ハマサキは輝きに満ちた眼差しをマコトに浴びせ、一段と強い口調で続けた。
「口で言っても駄目なんだ。英雄の存在と行動でしか皆を納得させられないんだ。だから、そのために俺は…」
 そこまで言うとハマサキは急に口篭った。
「だが、俺にはそんな器量は無かったんだ。ここに連れてこられるまでに全ての体力を使いきったんだ。だから…」
 ハマサキはマコトの前鰭を掴み、それを激しく振って、弱々しく懇願した。
「おまえなら大丈夫だ。俺の夢を実現させてくれ。この川の、いや、日本中の仲間を救ってくれ」
 マコトにはその泥臭く芝居がかったハマサキの行動が鼻についた。
「英雄になんてならなくても良いんだ。ここを飛びだしてくれれば良いんだ」
 マコトは少しだけ、自然とハマサキから距離を取った。
 不敵な笑み。あの小男と同じ罠の匂い。
 彼が自分の感情を利用し、その結果を踏み台に自らの脱出を成功させようと図っているのは明白だった。
「俺には出来ないな」
「出来るさ。おまえ、種つけが出来なかったんだろ。彼女に詫びる時間があったのか。もし受精が出来なかったとしても、このまま終わって良いのか?」
 マコトはその言葉に愕然とした。これがハマサキの罠だとしても、一瞬でも自らの保身に気が行った自分に後悔した。
 マコトはハマサキの方を見ずに彼の傍を離れ、一気に上昇し、しばらく窓から外を眺めた。
 川の流れはいつもと同じ表情で永遠を描いている。その色、匂い、移ろい行く景色。自分というちっぽけな存在を飲みこむような時の流れ。
 もしあのままシーナと生涯を添い遂げたとしても、射精後の寿命はもともと長くはない。そんな運命。
 俺は英雄になんかなりたくはない。だが、あの囁きが残された二人の時間や彼女の子孫を守ることになるなら、俺は戦うべきなのではないか。そうマコトは思った。
 マコトとシーナの生活も3ヵ月が過ぎ、シーナが出産の準備を始めた頃、マコトはひとまわり大きくなった身体を岩場に潜め、彼女が出産準備をしている間、鋭い視線で周囲を監視していた。
 白み始めた青い月夜。静寂の香り。シーナの丸みを帯びた身体。
 光り輝く彼女の姿を見つめるとマコトは得も言われぬ感傷に犯された。
 愛しい彼女と彼女が宿した生命、過ぎ去りし幸福な時間、まもなく終わる二人の生命、永遠に続く生命の鎖。
 失われる現実に落胆し、夢のごとき永遠の存在に打ち震え、自分の存在が何のためにあるのかを明確に確認した。
「マコト」
 シーナの声。出あった頃の張りのある声は失われ、それでも懸命に身を翻して笑顔を作る彼女の姿。マコトの緊張は胃袋から溶け抜けた。
「どうした?」
「もうそろそろ準備が出来るから、あなたは休んで」
「ばかなことを…」
「いいのよ。全然休んでないでしょ。産んだら呼ぶし、あなたも休まないとね。私はあなたの子供しか産みたくないの」
 マコトはシーナの言葉に従い、一度周囲を見渡してから彼女の傍へ向かった。ふたコブ型の岩、水藻のカーテン、緩やかな流れ。
 二人だけの最後の時をお互いに何も語らず、寄り添って過した。思い出すのは出会いの日、この場所で過した時間、語り合った現実、実現しなかった夢。
 彼女の息使い。上空に見える朝靄。マコトは緩んだ眉間に力を込めて彼女を見やった。
「そろそろよ」
 シーナの呼吸が荒くなり、膨らんでいた腹が痙攣を起こした。
「大丈夫か?」
 マコトはそんな稚拙な言葉しか思いつかず、その動揺をなだめるように大きな目を緩めて笑ったシーナの顔。マコトは青白く輝く満月に魅入られたかの如く、全身の細胞の震えを感じ、暖かく包まれるように凍りついた。
「がんばれ」
 うわごとのように漏れる呟き。力む四肢。何のものとも判らない、ただ荘厳な音楽が大音響で流れ出る様に彼女の身体から白く輝く卵が産みだされた。
 彼女の涙。
 産み落とされる卵を眺めながら、マコトは同様に何かが流れ出し、同時に何かが体内に染み渡っていくのを感じた。
 身体が熱を帯びていくのを感じたマコトは、まもなく産み終えると言う彼女の視線を受けとめて、彼女に頬を寄せてくちづけをし、今まさに受精を行なおうとした瞬間、背後に異様な殺気を感じた。
「ちょっと待てよ」
 下流でうすら笑いを浮かべながら泳いでいる小さな男。皺枯れた皮膚、無数の傷。鼻に通った白い糸。うつろに光る濁った瞳。
 マコトはその異様な姿に寒気を覚え、彼女と卵を川藻で隠し、射精しかかった身体を一気に戦闘体制へと移行させた。
「ここを何処だと思ってるんだ、おい」
「しらねえよ」
 男はヘラヘラと薄気味悪い笑みをこぼしながらマコトに近づいた。
 マコトは思った。この状況で現れることの危険さ、明らかに自分より大きい相手に対する態度があまりにも不自然で、不気味だと。だからこそ、本来であれば声を出す間も与えずに攻撃するところを、敢えて躊躇した。
「今、大事な時なんだ。用が無いなら、さっさと行ってくれないか」
 マコトの穏やかな声に男はまるで耳を貸さず、遮るように、
「こんなにでかいテリトリーを抱えているくせに、えらくお上品じゃねえか」
 と声を荒げた男は、まるで何かに導かれるようにマコトに近寄った。
「悪いことは言わないから、行くんだ」
「何を偉そうに。怖いなら怖いって言えよ。何なら俺が射精してやろうか?」
「冗談はよせよ」
「冗談なんかじゃないよ、俺みたいなハンパ者はこんなチャンスでもなきゃあ、あんな美人の卵にブッかけられないからなぁ」
 まっすぐマコトに近寄っていた男は、ふらつきながらシーナのいる岩の方へ転舵した。マコトはすばやく男の鼻筋へ廻りこみ、一発鼻突きをかまして、男を後退させた。
「おお。てめえ強いじゃねえか。俺の知る限りでは一番だぜ」
「判ったんなら、行けよ。チビ」
「ぬかしてないで、来いよ。俺達の流儀通りな」
 マコトは挑発に乗りたくはなかった。こんな奴は一撃で外へはじき出せるはずだった。何かある、と言うことは判っていた。
 一瞥した時のシーナの不安気な顔。もう卵達に時間がないことは明らかだった。
 マコトは決意した。一度シーナの方に振りかえり、流れに任せて後退し、男の方へと近づき、尾鰭が男に触れそうになった刹那、反り返るように急上昇し、男の上方から一撃を食らわした。
「ぐへっ」
 男は川底に叩きつけられ、しかし、まるで死霊のように浮き上がり、そこは躊躇せずに男の側面に張り付いたマコトは胸びれに噛みついて言った。
「これで最後だな。このポジションになったらお終いだ。観念しな」
「どっちが…」
 死臭のするような瞳の光。その光は男の尾鰭でも光っていた。
「てめえ」
 マコトは激しくその体勢を解こうともがき、その瞬間、尾鰭の光がマコトの身体を貫き、圧倒的な水圧と解ける様な視界がマコトを襲った。
 短い破裂音。
 たち昇る水しぶき。
 男と身体を合わせたまま、息の出来ない空気の世界へと身体が浮いた。
 マコトは叫んだ、「シーナ」と。
 そうして乾いた岩に叩きつけられ意識を失った。