してあげる相手がいる幸せ"The Giving Tree" Shel Silverstein | 本と映画と。

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好きな本(日本の小説、英語の小説、韓国の小説)のレビューを書いていく予定です。映画のレビューもときどき。

 クリスマスの季節に読みたい本を、もう1冊。『おおきな木』として日本語版でも有名な、シェル・シルヴァスタインの名作絵本です。

 

 男の子が小さいころ、おおきなりんごの木と男の子は大のなかよしで、いつも一緒にあそびます。男の子も、木も幸せでした。

 

 ところが男の子が大きくなると、木と一緒に過ごす時間がだんだんと減っていき、木はさびしさを募らせますが、ときおり戻ってきてくれる男の子を大歓迎し、葉をゆらして喜びます。

 

 成長するにつれて、男の子は木にさまざまなものを要求します。お金が欲しいといって、リンゴの実をぜんぶもっていってしまったり、家が欲しいといって、枝を切ってしまったり。しかし、男の子のわがままにこたえたあと木の気持ちは、いつもこうつづられています。

 

   "And the tree was happy."

 

 しかしある日、男の子は、どこか遠くへ逃げる船が欲しいといって、ついには木を切り倒し、幹をまるごと持って行ってしまいます。そのときの木の気持ちはこうです。

 

     "And the tree was happy ..."

             "but not really."

 

 そして長い時間がたったあと、男の子はふたたび木のもとへ戻ってきます。木はよろこびますが、自分はもう、ただの切り株で、あげられるものは何もないのだと、男の子にあやまります。

 

 しかし、男の子はいいます。自分は何もいらない。静かに休みたいのだと。

 

 すると木は、とたんにうれしくなります。だって切り株は、座って休むのに最高の場所ですから。木にはまだ、大好きな男の子にあげられるものがあったのです。そのときの気持ちはやっぱり・・・

 

               "And the tree was happy."

 

 切り株に腰掛ける老人の小さな後ろ姿が最後のページに描かれて、絵本は終わります。

 

 英語のタイトル"The Giving Tree"は、「与える木」、あるいは「与えてばかりいる木」という意味で、「与えること」が作品のテーマです。

 

 木は無償の愛を男の子に与えます。文字通り身を削って、献身的に男の子を支えました。ちなみに、英語では、木の性別は"she"(女性)ということになっています。たしかに母性を思わせる深い愛を感じますが、包み込むような愛し方ができる人は、性別を問わず素敵ですよね。

 

 さて、一方の男の子は、どうでしょう? 彼は木に、何もあげなかったのでしょうか? 一見そのようにも思えますが、だとすると、木がいつも"happy"だったのは、なぜでしょう。

 

 もらうのも、ひとつの愛のかたちではないかと、私は思います。与える人が喜ぶのを知っていて、もらう。そういう愛し方も、あるのではないでしょうか。甘えること、助けを乞うこと、それは相手を信頼しているからこそできる行為です。だとすれば、心配やおせっかいを掛け合うこともまた、愛情表現だと言えそうです。

 

 何かをしてやれる相手がいることの幸せを、しみじみと感じさせてくれる絵本です。


 

 

 

 以下のバイリンガル版は、英語と日本語の両方で楽しむことができます。