男の性(さが)は何ともPoor Things―『哀れなるものたち』 | トロント・カナダ 50代からの自由な生き方 by ブルー・モンキー

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海外(カナダ)から日常の気づき、素敵な生き方をしている人、気になる社会問題、そして、大好きな映画の話などを書いています。

 

 

ずいぶん時間が経ってしまいましたが、

映画『Poor Things(哀れなるものたち)』の

感想を書いてみたいと思います。

 

予告編を観たときは、

正直言って”変な映画”というのが第一印象でした。

 

ヨルゴス・ランティモス監督の独特な世界は知っていたものの、

性的描写は多いし、イマイチだと勝手に決めつけて

観るつもりはありませんでした。

 

しかし、エマ・ストーンがアカデミー賞を受賞し、

その体当たりの演技が評価されたとのことで、

とにかく観てみることに。

 

結果は、ものすごい映画!でした。

 

 

『哀れなるものたち』という邦題も的を得ていて素晴らしい!

 

英題『Poor Things』では、色々な意味合いがあると思うのですが、

わたし的な解釈だと、

 

男性目線で言えば、女性が性的、

そして子供を産む”道具”として扱われてきた

「哀れなるものたち」であるように映りますが、

 

この映画は、あくまでもフェミニズムの視点で、

男の性(さが)が『哀れなる”もの”』であると。

 

まず主人公ベラを、自殺した妊娠女性の頭に、

その胎児の脳を移植して生き返らせるという発想

 

つまり、

 

女性が身体は大人、頭の中身は子供

 

という設定自体が、

男の願望-「性的な満足を優先し、精神的には幼いので自分の都合に合わせて手なずけやすい」

(ごめんなさい、すべての男性に当てはまるわけではありません!)

といった男性目線で描かれていると思います。

 

子供の脳を持ったベラは、当然ですが無邪気で自由奔放。

 

そこが男性にとっては魅力的なのですが、

旅をしながら見聞を広げ、やがて知識と経験を積むことによって

知的な女性へと変貌していき、

やがて社会の矛盾やジェンダー差別に目覚めて自立していくところは、

まさにフェミニズム映画。

 

そして何と言っても最後に、

ベラ(自殺した妊娠女性)を自分の所有物のように扱う夫が、

人体実験で羊の身体と本人の顔をもって蘇らせれたシーンは、

動物性をもった男の性(さが)を哀れむ

という結末として受け取られ、本当にお見事でした。

 

余談ですが、

エマ・ストーンが何かのインタビューで、

全裸シーンが多いことに対して、

「最初は抵抗があったが、ヨーロッパ人との仕事を通して、

裸が自然なものとなり抵抗がなくなった」

といった主旨の返答をしていました。

 

自由主義で開放的なヨーロッパ人との仕事によって、

彼女の女優としての幅が広がったのは間違いないでしょう。

 

テーマが深く、監督の独特の世界観が満載なので

”変な映画”という印象があり、好みが分かれるところですが、

それでも、映画全体をファンタジーに仕上げることで、

人体実験や性的描写も上手く緩和され、

エンターテイメントに仕上げているところはさすがです。

 

英語で「トロフィー・ワイフ」と呼ばれる

女性蔑視の表現があります。

*ウィキペディア

(男性が社会的・経済的に成功した後に選んだ

己のステータスシンボルにするため結婚した女性。

しばしば軽蔑的な用法で使われる)

 

世界的に女性が”もの”のように扱われてきた長い歴史の中で、

昨今は#me too運動など、

いろいろなキャリア、立場の女性たちが

地位向上のために立ち上がりました。

 

また、最近ではマッチングアプリに疲れた女性たちが、

男性の性的欲求を満たすだけの

カジュアルセックスに警鐘をならす

「Boy Sober」なる動きもあります。

 

 

 

カナダは世界各国からの移民が暮らしています。

 

中には宗教的、または慣習によって

女性蔑視の国から来た女性たちもたくさんいます。

 

彼女らも、もともとフェミニズムの考えが根付いている欧米の女性たちとともに、

女性の地位向上のため、あるいは、

何か社会的な問題があると抗議デモをするなど、

自らが声を上げます。

 

そんな社会に住んでいると、

やはり日本人として、

わたしも何かしたいという衝動に駆り立てられます。

 

わたしができることは、このブログで発信という、

とても小さな行動ですが、

自身が感じた日本とカナダ、そして世界との違いが、

少しでも伝われば嬉しいです。

 

『哀れなるものたち』

興味がある方はネット配信などで、ぜひご覧ください。