当時の表紙

「7月19日に開かれた記者会見の場でプロスケーターへの転向を表明し、新たなスタートを切った羽生結弦。その羽生と同じ仙台出身で、10年以上にわたり撮影を続けてきた写真家・能登直と『Number』で羽生の表紙写真を何度も撮り続けてきた文藝春秋写真部の榎本麻美が「印象に残る写真ベスト5」、「被写体としての羽生結弦」というテーマで語り合った。」

2人の対談の中で今回はあえて文藝春秋写真部の榎本麻実カメラマンの写真5枚と記事を取り上げたいNumberには思い出の貴重な記事が多くあり私は大切に保管している。同じ文藝春秋社でも週刊文春はゴシップ週刊誌であり情報を与えているのはどんな勢力かあまりにわかりやすい構図である。

文藝春秋写真部・榎本麻実カメラマンの印象に残る写真
 

©Asami Enomoto/JMPA

榎本私はアスリートとしてかっこいい姿を撮りたいと思っていて、競技中の険しい表情の写真も『Number』には載っているし、それも含めてアスリート・羽生結弦さんだと思い、シャッターを切ってきました。

ずっと見てきて思ったのは、羽生さんは場の空気を変えるのがすごいということ。

大会に出てくると、彼の持つ気迫のようなものにみんな飲み込まれる感じもある。

それは近くで撮影しているカメラマンにとってもそうでした。

だから、ひとたび登場すると、こちらも気合が入る、そんな被写体ですね。

一企業の写真部のカメラマンがひとりの選手をいろんな大会で追いかける経験って

なかなかできるものではありません。

ソチ五輪のシーズンからこの前の北京五輪まで、グランプリシリーズ含め

ほとんどの大会を欠かさず撮り続けさせてもらえたというのは

羽生さんが初めてなので、本当に貴重な経験をさせていただきました。

シーズン総集編の『Number PLUS』の表紙も飾った

榎本 平昌五輪の『SEIMEI』、演技中の1枚ですね。選手の正面にジャッジ席があるのですが、この1枚はそのジャッジ席の上から撮ったものですね。この『SEIMEI』は、絶対に転ばないという意地を感じる鬼気迫る演技で『本当に凄いな』と思わされた、忘れられない凄味のある演技でした。

 

©Asami Enomoto

見ている人をゾクゾクっとさせるのも羽生さんの魅力かな

榎本 振り返ると羽生さんの活躍を追いかけて、私たちも本当にいろんな場所に行きましたね。写真を見ていくと、大変だったけど楽しかった思い出が多く、世界各地に連れて行っていただき、ありがたいな、と本当にそう思います。私の3枚目の写真も2016年ボストンで開かれた世界選手権の後に撮った写真ですね。

榎本 これは表紙ではなく、電車などに掲示される中吊りで使われた写真なんです。言葉にするのが難しいですが、羽生さんの「色気」とも違う、一種の“妖艶さ”、綺麗な雰囲気のある感じが写真にちゃんと入ったかな、と。この写真の前後に何カットか撮っているのですが、一瞬ニヤッと笑ったこのカットが妖艶でいいなと思っていて。電車でこの写真が使われた中吊りを見て、嬉しかったですね。闘志あふれるアスリートらしい姿も見せてきましたが、キリッとした演技で、見ている人をゾクゾクっとさせるのも羽生さんの魅力かな、と。