般若仏母(般若菩薩) | 徒然草子

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般若仏母はサンスクリット名をプラジュニャーパーラミター(Prajnaparamita)と言い、プラジュニャーパーラミターが般若波羅蜜多、すなわち、智慧の完成を意味することから、般若経典を尊格化した存在であり、般若経典群の本尊と看做される。又、Prajnaparamitaが女性名詞であることから、当尊格は女性尊として表現され、般若仏母とも称される様に、彼女は三世諸仏能生の智母とも言われている。尚、日本では般若菩薩とも称され、菩薩の一種と看做されている。
般若仏母は大乗仏教のパンテオンにおいて比較的古くから知られている女性尊であり、又、前期密教の経典である『陀羅尼集経』第3巻には般若仏母の世間、出 世間の功徳や印呪、画像法などが説かれているが、中期、後期密教の時代に下る程、その重要性が低下している様に見受けられる。恐らく、智慧の担い手として の女性尊の役割を、当初、般若仏母が一手に引き受けていた所、時代とともに女性尊の種類が著しく増加し、彼女が担っていた機能が多くの新出の女性尊の職能に分化されてゆくに比例して、彼女自身が目立たなくなっていったものと思われる。
しかしながら、彼女自身への信仰は根強く残り、般若経典の写本類にしばしば般若仏母の画像が描かれ、又、ナーランダー寺院の遺跡からは般若仏母の像がいくつも発掘されている。

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インドやネパールでは般若仏母は美しく魅惑的な女性尊として表現されることが多いが、その図像は
『サーダナマーラー』では三種類の般若仏母の図像が説かれるが、これらは大きく一面二臂系と一面四臂系に分けられる。それらを纏めると、以下の通りである。
(1)一面二臂系
 ①身色は黄色、又は白色。説法印を結び、般若経典を戴く蓮華を左脇、若しくは両脇で挟んでいる。

 ②身色は白色、右手は赤蓮華を持し、左手は般若経典を持す。

(2)一面四臂系
 ①身色は黄色。左右第一手で説法印を結ぶ。右手第一手は施無畏印を結び、右手は般若経典を戴く青
   蓮華を持す。

以上の他にもラダックのアルチ寺では一面六臂、身色緑色の般若仏母の壁画が確認されている。
一方、チベットでは般若仏母そのものよりも般若仏母の垂迹と看做されることが多い女性密教行者マチク・ラブドゥンマの図像の方が多い様に見受けられる。

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インド、ネパールにおいて般若仏母は肌の露出の多いインド風の美女像として表現されるが、性的道徳に厳しい中国のフィルターを経て伝わった、日本の般若仏母こと般若菩薩は肌を覆い隠す羯磨衣、又は甲冑を身に付けている。更に性別を曖昧にすべく髭を添えられる場合もある。
漢訳仏典が説く図像の概要は以下の通りである。

(1)『陀羅尼集経』
身色白色一面三眼二臂。左手は経典を持し、右手は施無畏印を結ぶ。

(2)『仁王護国般若波羅蜜多経念誦法』
身色黄色一面二臂。左手は般若経典を持し、右手は説法印を結ぶ。

(3)『仏説仏母般若波羅蜜多大明観想儀軌』
身色金色一面六臂。左右第一手は説法印を結ぶ。その他の手で般若経典、優鉢羅華等を持す。

(4)現図胎蔵曼荼羅持明院
身色白色一面六臂。左第一手は経典を持し、右第一手は施無畏印を結ぶ。その他の手は与願印などを結ぶ。

上記の般若仏母(般若菩薩)は単独、又は眷属等を配した曼荼羅形式で表され、大般若会などの本尊として用いられた。但し、大般若会の本尊に関しては、中国宋の影響により、鎌倉時代以降は釈迦十六善神の図像が本尊として用いられる事が一般化していった。