NHKヴィジュアル新書の中野京子氏の美術シリーズ、楽しみにしていた「異形のものたち」を読みました。
「異形のものたち 絵画のなかの『怪』を読む」
中野京子:著
(NHK出版 2021年4月刊)
悪魔や天使、妖怪など、西洋の名画に描かれた異形たちの姿から、時代背景や人々、描いた画家の心理を探っていきます。
人魚やケンタウロスなどの人獣は第一章で紹介されます。
人魚が描かれた絵で取り上げられるのはベックリンの「人魚の戯れ」、ドレイパーの「オデュッセウスとセイレーン」。
ベックリンの人魚はこのブログでもご紹介したことがあります。
アーノルド・ベックリンの人魚 | mariのブログ (ameblo.jp)
生き生きと描かれた人魚の絵は好きなので、本書で取り上げられて嬉しいです。
絵の解説を読むとベックリンは人魚が好きだったそうで、なるほど、だから同じ(?)人魚好きの琴線に触れるのね!と思ったり(笑)。
赤ちゃん人魚がつかんでいる魚、本書では餌であろうか、と推察していましたが、私にはオモチャにしている気もします。
まあ、そのあとで食べちゃうのかもしれませんが。
共食いとあったけれど、人間も哺乳類を食べるんだし人魚が魚を食べても共食いってわけでもないと思うんですけどね
左上で飛び跳ねている黄色い尾ひれの人魚のお腹のヒレをリボンのよう、と評していて、そうなんですよ、この小さなヒレが萌えポイント!
改めて絵を見て思いましたが、いくら人魚でも荒波に煽られて岩にぶつかったら怪我しそう。
ドレイパーの描く精霊のような人魚と違い、ベックリンの人魚は生々しい肉体が描かれているだけに、そんなことが心配になったりします。
ベックリン作品は有名な「死の島」も第五章の「ただならぬ気配 不可視の恐怖」で取り上げられています。
魚系の異形としては人魚ではありませんがアルチンボルドの絵画「水」も紹介されていました。
魚やカニ、珊瑚など海にまつわる生き物で構成された人物の横顔で、アルチンボルド展で見たことがありますがインパクト大です。これが生物かと問われると微妙ですが、もしこんな怪物がいたらかなり不気味ですね~。
「ただならぬ気配 不可視の恐怖」ではハンマースホイの「室内」も挙げられていました。
確かに怖いといえば怖いかな。でも静かで落ち着く、という感覚も少しあります。
作者の心情が投影される近代の作品は、恐怖を感じるかどうかは見る人によって分かれるかも。
その他、異形の造形については古い時代の絵のほうがより創造的との著者の観察が興味深いです。
近代になるにつれて、天使などもそうですが人間っぽくなってくるとのこと。
また、西洋絵画では異形を描く画家のほとんどが男性であるとの指摘もありました。
怪物や幻獣を描く画家は現代なら女性も多そうですね。
人間の好奇心と想像力がある限り異形の生き物はこれからも生まれ続けるわけで、未来に描かれるそうした生物はどんな姿をしているのか、気になります。
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