小説は根も葉もある嘘 | 雪の上に照れる月夜に梅の花

雪の上に照れる月夜に梅の花

雪月花の時 最も君を想う…土方歳三、新選組、薄桜鬼大好き

NHKの大河ドラマ「光る君へ」にドハマりしている。

毎回、源氏物語のどこかの場面を彷彿させるようなところがあって、主人公のまひろ(紫式部)が将来源氏物語を書くとき、この出来事をネタに創作したのかな~なんて思う。

「小説は根も葉もある嘘」と言ったのは誰だったか……。
そして、このドラマを観てる日本人の多くがその部分に気づいてX(Twitter)のTLがめちゃくちゃ盛り上がる。
源氏物語を学んだことがない日本人はほとんどいない。
国民みんなが内容を知っている物語。
そんな長編物語は他になかなかない。


昨日の第10回「月夜の陰謀」もめちゃめちゃ良かった~。

今回は表の物語(歴史)としては花山天皇を出家させた事件を扱う。
失敗しないことは分かってはいてもドキドキの展開でしたね。
そして藤原兼家は一族の存亡をかけて息子の道隆、道兼らを主に使って陰謀を企てる。

そして道長は端役とするように見せて実は陰謀が失敗したときの最後の手とする。
息子たちを駒として使うところがなんとも政治家らしい。
 

架空の物語としては道長とまひろの恋の成就(?)だった。

前回でまひろが散楽師の直秀の死の事件のあと、父に「男に生まれて世の中を正したかった」と言った理由がわかった。

道長はまひろに古今和歌集の恋の和歌を送る。
「あの人の心はまだあそこに」と思ったまひろは陶淵明の漢詩を書き送る。
男が和歌を送っても女が漢詩で返答してくる。
普通は漢詩が男性的で和歌は女性的、漢字が男手、仮名は女手とされている中で、その意味とは?
道長は同僚の藤原行成に相談。
「和歌は人の心を見るもの聞くものに託して言葉に表すもの。漢詩は志を言葉に表すもの」
刀ミュの歌合せを思い出しましたね。
紀貫之による古今和歌集仮名序「やまとうたは人の心を種として、万の言の葉としてなれりける。世の中にある人、ことわざ繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり」ってやつ。
「送り手は何らかの志を詩に託しているのでは?」との意見に道長はそうかと思うところあり、今度は漢文で「君に会いたい」と手紙を送る。
そしてどこかのはずれのいつもこっそり会う寂れた家?(六条河原院?)で二人は逢瀬を交わすけれど、「藤原を捨て、身分も立場も捨てる。一緒になろう」という道長をまひろは「世の中を変える使命がある、そのために貴方は高貴な家に生まれてきた。己の使命を果たして」と諭す。
諭しながらも二人は契り、まひろは幸せで悲しい涙を流す。
「光る君へ」のオープニング映像が非常に官能的で、初めて見たとき「これが大河のオープニング?」とちょっとびっくりしたのだけど、道長とまひろのこの展開ありきのあのオープニングだったんですね。
道長はまさに「光る君」だなあ。
ボロ屋での逢瀬のシーンといい、まるで源氏物語の夕顔の場面のよう。
夕顔は頭中将の元愛人。「雨夜の品定め」で「中流の女人」の話をし、頭中将が「かつてそんな女を愛したが北の方が嫉妬したのでその女が姿を消した」と話したが、それが夕顔だった。
これ、このさきの道長とまひろの運命を暗示しているよね。
中流の女まひろ。決して道長の正妻にはなれない。
道長の北の方への遠慮で道長と別れることになるんだろうなみたいな。
そして夕顔だけでなく、実は紫の上も似ていて。
あんなに光源氏に大事に愛されたのに後ろ盾のない紫の上は光源氏の正妻にはなれなかった。それどころか安心していたところで女三宮に簡単に正妻の座を奪われてしまうのでしたね。
幸せで悲しいまひろの涙は、のちに彼女の書く物語へと昇華されたんだろうと思わせる。
まひろは道長を愛し続けるんだろうなあ。
紫式部は結婚がすごく遅かったみたいだから、ずっと道長を思い続けていたのか、長く陰の愛人として過ごしていたのか……などと想像したり。
「道長さまが政でこの国を変えていくさまを都で死ぬまで見つめ続ける」といったまひろの言葉に、夫を失った紫式部が道長の娘の中宮彰子の女房となり、源氏物語という長編小説を道長のリクエストで書き続けたことを思う。

そして道長は歴史では将来栄華を極めるわけだけれど、政治家としてもなかなかのもので世を安寧にすることに手腕を発揮したみたいで、それもまた「己の使命を果たせ」というこのときのまひろの言葉を胸に刻んだのではないかなどと想像できたり。
そんな道長との対比させて、帝という己の使命や宿命よりも寵愛した女御への思いのために生きる道を選ぶ花山帝の出家を描くアイディアにも驚かされた。

まひろの父の高倉の女が住むボロボロの家のシーンは末摘花を思い出させましたね。
 

なんかもういろいろ伏線とか暗示とか、源氏物語へのオマージュとかある感じ。
いくつもの仕掛けが隠されていて、毎回とてもとても面白いです。


そして衣装もとても素敵。
調度品なんかも興味深いし、生活様式が見られるのも楽しい。
貴族の御殿とか内裏とか建物の復元がすごと思うし、それに加えてまひろの家や高倉の女の家や、道長とまひろの逢瀬の場所の寂れた院とか、今まで実物として見られなかった建物の復元とか、ホント見ていてとても興味深いです。

あんなふうに高貴な成人男性と女性が顔を合わせて話すことなんてないと言われればそうかもしれないけれど、そこは現代のドラマですから。
間違っているというより、テレビドラマとして現代の視聴者に見せるにはそれはしょうがないのではないかなあ。



また来週も楽しみです。