(続)光が射す場所 102 | 蒼のエルフの庭

蒼のエルフの庭

蒼の方への愛を叫んでおります
主に腐小説中心の妄想部屋でございます
ご理解いただける方のみお入りください
(男性の方のご入室はお断りいたします)

足の痺れがおさまり

ゆっくり立ち上がって歩きだし

先程の座敷に向かうと

翁の姿がない

 

はて?何処に行ったのかと

戸惑っていると

茶室に向かう廊下で

翁がこっちを向いて

 

「櫻井殿、煎茶だが

 躙口から入ってはどうかな?

 準備は整っておるから

 露路の蹲で身を清めてから

 中にお入り ・・・ 何でも経験じゃ」

 

そう言ってニヤリと笑って

踵を返した

 

露路?つくばい?

聞いた事がない言葉ばかりで

頭の中は?マーク

思わずため息が落ちる

 

取りあえずは露路を探す

櫻井は縁側から庭に降りて

大体の見当をつけて歩きだす

 

苔むした庭さきに待合らしきもの ・・・

もしかして ・・・ これが露路?

その先に躙口が見える

手前には手水鉢が置いてあった

これが『つくばい』だ ・・・

ホッと一息ついて手を洗い

懐から手拭いを出して綺麗に拭いた後

躙口の前の飛び石に立つ

 

右上の棚は刀を置く場所のようだ

改めて、ここは武家社会の江戸なのだと実感する

 

「あの ・・・ 入ってもよろしいでしょうか?」

 

声を掛けると

翁が返事をする

 

「どうぞ、お入りなさい」

 

躙戸を引いて

腰を屈め狭い躙り口を

躙るように潜る抜ける

 

刀を置く棚がある意味を知る

あんな長い物提げては此処には入れない

茶室の中では丸腰

つまりは身分の差がないと言うこと

 

「すまぬな 窮屈な思いをさせて(笑)

 じゃが、そこをくぐり抜けた主は

 今日の正客じゃ 

 そこにお座りなさい」

 

狭い茶室

翁が視線を向けた先は

床の間の前で天井が高い場所

 

 

 

「失礼いたします」

 

し~んと静まり返った茶室に身を置くと

心が引き締まった感じがする

床の間に視線を向けると

若ちゃんが描いた秋の軸が掛けてあった

 

「これは若智さんの軸 ・・・」

 

「紅葉にはまだ早いが

 季節は秋じゃからな(笑)」

 

「素晴らしい絵ですよ ・・・」

 

櫻井たちが見た絵は

歳月を経た軸

描き上げて数年も経っていない絵は

本来の鮮やかな色を纏っている

 

「鳥の鳴き声が聴こえてきそうじゃろ?」

 

「ええ ・・・ 聴こえてきそうです」

 

「さて、堅苦しい事をすると

 後であやつに叱られる(笑)

 茶菓子と茶を召し上がれ」

 

翁は煎茶が入った湯呑みと

茶菓子を載せた菓子皿を櫻井の前に置く

 

「それでは頂きます」

 

この場合は菓子からだったはず

一応、うろ覚えではあるが

作法通りにお茶を頂く

 

「結構なお手前でございました」

 

「ふふ ・・・ ちゃんと味わったか?」

 

「はい、とても美味しいお茶です ・・・」

 

「それは良かった 

 川原ならここまで堅苦しくはせぬのだが

 何事も経験(笑)

 さて、己の心と向き合えたかな?」

 

「向き合うまでは

 出来ていません ・・・

 迷いが多いのか ・・・

 それとも欲が深いのか ・・・」

 

自分ほど小さい人間はいない気がして ・・・

 

「向き合っているようじゃな(笑)

 人はな多かれ少なかれ

 迷うもの、そして欲が深いものじゃ

 そこを恥じる必要はないぞ」

 

「若ちゃんや上ちゃんを見てると

 自分の器の小ささに

 呆れてしまいます ・・・」

 

「そんな事はない

 あやつたちも、些細なことで迷う

 それにかなり欲も深い(笑)」

 

そうは見えない ・・・

特に若主人は既に悟りを開いたみたいな

そんな達観したところがある

それは大野にも通じるものがあると思った

 

「そうでしょうか ・・・」

 

自信無さげな櫻井の表情が

若主人を追いかけていく前の

翔旦那に重なり

翁は暫くここで預かることを決めた

 

「櫻井殿、今日からここに泊まりなさい

 翔旦那には使いを出す」

 

そう言われて

その方がいいのかもしれないと

大きく頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

<続きます>