この病気について、自分の備忘録、まとめとして書いておきます。
(2019年4月14日投稿/2022年3月13日更新)
MPN-JAPAN『骨髄増殖性腫瘍について』(2021年3月)
※新型コロナについても記載されています。
本態性血小板血症
(ET : Essential Thrombocythemia)
種類
◎大きなくくりで言えば「血液のがん」。
※悪性新生物としてがん保険も適用されることがある。
※実際は、がん(悪性腫瘍)ではない。
◎骨髄増殖性腫瘍(MPN:Myeloproliferative Neoplasms)の一つ。
骨髄増殖性腫瘍とは、「血液の種」に異常が生じ、骨髄の細胞が著しく増殖することで腫瘍が発生する疾患の総称。
慢性骨髄性白血病以外の病気は、国内で年間の発症数が1,400人という希少疾患。
・慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)
・真性赤血球増加症または真性多血症(polycythemia vera:PV)
※患者数 約15,000人
・本態性血小板血症(essential thrombocythemia:ET)
※患者数 約3万人
2021年1月の日本の推定人口が1億2,557万人なので、日本の人口に対する患者数の割合は、0.0238%となります。言い換えると、4,186人に1人の割合でET患者がいることになり、単純に割合で計算すると、東京都の人口1,396万人の中に3,322人、100万人の都市に238人、10万人の都市に24人の患者がいる計算になります。
・原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)
※患者数 700〜1,000人
・慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia:CEL)
・分類不能骨髄増殖性腫瘍(MPN,unclassifiable)
※本態性・・・医学で、ある症状・疾患は存在するが、その原因が明らかでないものであること。
発症
◎1年間の発症者数は、人口10万人あたり2人程度の稀な病気。
◎発症年齢は、50~70歳代のほか、30〜40歳代の女性が発症する例も多く見られる。男女比は1:1~2 。
血液の成り立ち
◎血液は、固形成分の血液細胞と液体成分の血漿からできている。
◎血液細胞には、白血球、赤血球、血小板がある。
◎血液細胞は、顆粒球・単球(白血球の一部)、赤血球、血小板を造る骨髄系、リンパ球(白血球の一部)を造るリンパ系の2つの系統があり、すべて骨の中の骨髄にある造血幹細胞から造られる。
血液成分の役割
◎赤血球(基準値350万〜550万/μL)
→赤血球は肺で酵素受け取り、全身の組織へ運搬する。
◎白血球(基準値3,500〜10,000μL)
→白血球は細菌やウイルスなど体内に侵入してきた病原体を除去する。
◎血小板(基準値15万〜40万)
→血小板は出血時に傷ついた血管の孔をふさいで血液が血管の外に漏れ出すのを防ぐ。
どんな病気?
◎血小板が異常に増加する(45万を超え100万を超えることも珍しくない)病気で、血栓症や出血を合併しやすく、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞を発症して、初めて診断されることもある。
(血小板は、血液を固まらせて出血を止める働きがある。)
血小板が増えると
→血液の粘度が上がり、血液の流れが悪くなり、血栓(血のかたまり)が生じやすくなる。
→著しく増えた血小板がうまく機能することができなくなり、脳、消化管、粘膜での出血が起きやすくなる。
◎現在の医学では治すことができなく、病気とうまく付き合えば、寿命は健常者と同じだが、一部に骨髄線維症や急性白血病に移行する場合がある。
◎約半数にJAK2V617F変異、2〜3割にCALR遺伝子変異、1〜3%にMPL遺伝子変異を認められる。
※JAK2(ジャックツー、Janus Activating Kinase 2)•••造血にかかわる酵素の遺伝子。
※CALR(カルレティキュリン、Calretidulin)
病気の症状
◎症状は、体全体に現れる。
◎全般的な症状 (体がだるい、疲れやすい、やる気がない、集中力低下、筋力低下など)
◎血管の閉塞によるもの (手足の発赤や温感、ときに灼熱痛、指先や手足のチクチク感と他の異常感覚、胸痛、視力障害や飛蚊症、頭痛、脱力感、めまい、通常は軽度の出血[鼻血、あざができやすい、歯ぐきに血がにじむ、消化管からの出血など])
◎細い血管が詰まることで起きる症状 (頭痛、視覚異常、めまい、耳鳴りなど)
◎太い血管が詰まる (心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓)
◎血管がやぶれ出血しやすくなると (消化管出血、脳出血)
◎ET患者は、一般の人よりも6倍、血栓症を起こす確率が高くなする。
◎一般的に血小板数が150万/μL以上になると、止血機構に異常をきたし出血しやすい状態になる。
本態性血小板血症により引きこされる合併症
◎心筋梗塞・脳卒中
本態性血小板血症で血栓ができやすくなっていて、動脈に血栓が詰まることにより心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。
◎骨髄線維症
原因は不明で、一部の患者で長い経過中に骨髄線維症に移行する場合がある。骨髄線維症は、骨髄内に線維質のコラーゲンができ骨髄が固くなり、正常な血液が造ることができなくなる病気。進行に伴い、ふらつきやお腹の張理、不快感などの症状が見られるようになり、さらに進行すると感染症や白血病などが起こる。
◎白血病
一部の患者で長い経過中に白血病になる場合がある。白血病は白血球が骨髄内で増殖し、骨髄を占拠して、それにより正常な血液細胞の生産が減少し、貧血や免疫力の低下、出血傾向、脾臓のはれなどの症状があらわれる。
病気の原因
◎骨髄に含まれる造血幹細胞の遺伝子、主にJAK2、CALR、MPLに異常が生じ、血小板が過剰に増加することで発症すると考えられてるが、なぜ、その異常が起こるのかについてはわかっていない。
検査の種類と目的
◎血液検査
・血小板などの増加の程度を評価するための検査であり、血液細胞(赤血球、白血球、血小板)の数などを調べる。
◎血液形態検査
・診断時に行われる検査で、採取した血液をスライドガラスに薄く塗り、色素で染色した後に顕微鏡で血液細胞の形態を観察する。本態性血小板血症では、巨大化した血小板など、異常な血液細胞が観察される。
◎骨髄検査 参考:骨髄検査とは?
・骨髄に針をさして造血幹細胞を含む骨髄液を吸引し、顕微鏡で血液細胞に成長する過程にある若い細胞の成熟度や異常があるかどうかを確認する。また、骨髄線維症への移行の有無を確認するために、骨髄の組織を採取して、その状態をみる場合がある。
◎遺伝子検査
・ETの診断では、採取した血液を用いて遺伝子検査が行われる場合がある。本態性血小板血症の大部分で、JAK2やCALRなどの酵素の遺伝子のいずれかに異常が認められるため、それらの遺伝子に異常があるかどうかを調べる。
診断基準(WHO)
◎2001年
・陽性基準
→1.血小板数>60万/μLが持続する
→2.骨髄で巨核球の増生を認める。
・除外基準
→1.真性多血症の証拠なし。
→2.慢性骨髄性白血病の証拠なし。( フィラデルフィア染色体、bcr/abl 融合遺伝子ともに陰性 )
→3.原発性骨髄線維症の証拠なし。
→4.骨髄異形成症候群の証拠なし。
→5.反応性血小板増加症の証拠なし。
◎2008年
→1.血小板数>45万/μLが持続。
→2.骨髄生検で巨核球増加。
→3.真性多血症、原発性骨髄線維症、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、および他の骨髄性腫瘍の証拠なし。
→4.JAK2V617F変異あるいは他の腫瘍マーカーを認める。腫瘍マーカーを認めない場合は、反応性血小板増加症の証拠なし。
◎2016年
→1〜4までは変更なし。
→4.JAK2、CALRあるいはMPL変異を認める。
治療方法
◎治療の目的は、血小板の数を減らし、血栓症や出血疾患などの合併症を予防すること。
◎治ることはない病気で、悪化を見逃さないよう定期的に検査をする必要がある。
◎主に血小板の量を継続してコントロールする治療を行う。
◎薬物療法(抗がん剤など)
・抗がん剤などを使って造血幹細胞の異常な増殖を抑えることで、血小板が過剰に造られるのを抑える。(原則として、抗がん剤の使用は60歳以上、または血栓症の既往歴のある方)。
◎抗血栓療法
・血栓の元となる血小板に作用して血栓をできにくくする薬(アスピリンなど)を少量服用する。(原則として、60歳以上、または血栓症の既往歴のある方)
◎対症療法
・ETの症状には、頭痛やめまい、体のだるさなどさまざまな症状があり、症状に応じた薬を使うことなどにより、これらの症状を軽減させることができる。
リスク群別治療方法
◎血栓症低リスク群(年齢が60 歳未満かつ血栓症の既往なし)
→定期的な経過観察を行う。
◎血栓症低リスク群
(JAK2 V617F 遺伝子変異がある、または心血管リスク因子[喫煙、高血圧、脂質異常、糖尿病]がある)
→低用量アスピリンの内服を考慮する。
◎血栓症高リスク群(年齢が60歳以上あるいは血栓症の既往あり)
→血栓症を予防するため低用量アスピリンの投与と細胞減少療法を行う。
※細胞減少療法には、ヒドロキシカルバミド(商品名:ハイドレア)やアナグレリド (商品名:アグリリン)等がある。
薬
◎抗血小板薬(アスピリンなど)
・血液を固まりにくくすることで、血栓症の発症を抑える。
◎アグリリン(2014年11月発売)
・血小板をつくる働きのある巨核球に選択的に作用して血小板を減らす薬で、抗がん剤ではない。
・目標の血小板数まで、少しずつ量を増やしていく薬。
・副作用は、頭痛、動悸、貧血が多く、その他として下痢、むくみ。体が薬に慣れることで症状がなくなったり、軽くなる。
・1日の服用回数は上限4回、1回の服用量は上限5カプセル。
◎ハイドレア(1992年8月発売)
・細胞のDNAの合成を阻害することで、未熟な 骨髄の異常な増殖を抑え、血小板、赤血球、白血球の数を減す抗がん剤。
・副作用は、発疹、吐き気、嘔吐、貧血などがある。
・1日1〜4カプセルを1〜3回に分けて服用する。
予後
◎生命予後は健常者と比べ劣っている。
◎症状がよくみられるが,疾患の経過は良性の場合が多い。
◎動脈および静脈の重篤な血栓性合併症はまれであるが、生命を脅かす可能性がある。
◎白血病への転化を起こす患者は2%未満であるが、細胞傷害性治療薬で,特にアルキル化薬に曝露されると可能性が高くなる。
参照
本態性血小板血症 (骨髄増殖性腫瘍.net)
本態性血小板血症 Q&A(骨髄増殖性腫瘍患者・家族会)
本態性血小板血症 (シャイアー・ジャパン) ET説明の動画あり
本態性血小板血症 (MSDマニュアル)
真性赤血球増加症・本態性血小板血症 (慶應義塾大学病院)
骨髄増殖性腫瘍/本態性血小板血症(PharmaEssentia Japan)