Sくんへ 15 | blondcoco の人生相談

blondcoco の人生相談

マーケティングから恋愛問題まで、あらゆる お悩み相談室ブログです。
朱夏世代(30代、40代)の うつや思春期特有の悩みが 得意分野です。

僕が小説の中で、好きになった人物のことを語ってみよう。

その人の名は、宮本伊織。

彼は少年時代に宮本武蔵の試合を見て、その強さに圧倒され、

武蔵の弟子になって強い兵法者になろうと決意する。

しかし、武蔵は弟子を取らない主義の人だ。

伊織は置き去りにされる。

沢庵という和尚が、そんな伊織に言う。

「武蔵の剣は邪剣だ!。武蔵に学ばずとも、もっといい師匠を探してあげよう」と、言ってくれる。

伊織は、名もなき一人の老人を紹介され、その人の弟子になり剣術を学ぶ。

伊織は右手も左手も同じぐらいの握力があったので、二刀流を勧められる。


宮本武蔵=二刀流というイメージがあるが、

武蔵はほとんどの決闘において、二刀流を用いてはいない。

一撃で相手を倒すが、その闘い方はいつも卑怯そのものであった。

毎試合極端な遅刻はするし、後ろから襲ったり、まさに邪剣、悪剣の使い手だった。


佐々木小次郎との巌流島の決闘を制した武蔵は、次の相手に伊織を選ぶ。

伊織と最初にあった日から10年の年月が経ち、伊織は立派な青年に変貌していた。

姿形、髪形、風貌、どれをとっても武蔵によく似ていた。

小次郎との試合の前に、瀬戸内の小島で、荒くれ者の海賊たち10数人を一刀両断した切り口を見た武蔵は、

その使い手が伊織であったと解ると、対戦したいと思ったのだ。


そして、ついに二人の対決が実現する。

武蔵は伊織に対し、真剣を使え!と言うが、

伊織は「木刀にします!」と言い、大小2本の木刀を構えた。

その構え方は、自然体だった。

だらりと両手を下にさげた、美しいほどに自然な構え方だった。


武蔵と伊織は、1時間も構え合ったまま、身動き一つしなかった。

静寂の時間がじりじりと過ぎる。

やがてその静寂を破るように、真剣を持った武蔵が

「ヤッー!」と打ち込んできた。

と同時に伊織の木刀が、武蔵の脳天を打ち砕く。

武蔵は、前のめりに倒れた。


伊織が後ろを振り向くと、そこには一刀両断され、

首を切り落とされた蝮(まむし)が死んでいた。

一時間に及ぶ睨みあいの中で、一匹の巨大な蝮が

伊織の後ろから襲ってこようとしていたのだ。

武蔵の剣は、伊織を狙ったものではなく、

その蝮だったのだ。


これまで卑怯な手を使い、さまざまな強敵を倒してきた武蔵が、

初めて正剣で闘った相手が伊織だった。

伊織の美しい構えを見た武蔵は、この男になら負けてもいい!

一瞬思ったのだろう。

これまでの自分の生き様を恥じたのかもしれない。


伊織の方とて、武蔵の脳天を打つ時、多少力を緩めた。

それ故に、武蔵は死ななかった。

だが脳に障害が残り、言葉も発せず、手足も自由に動かすことは出来なくなった。

そんな武蔵を、伊織は一生をかけて世話(介護)をした。

そして、宮本武蔵という名で、いろいろな書き物を残す。

今日、宮本武蔵が書いたとされ評価されている書物は、

全て伊織が書いたものだ。


武蔵との決闘のあと、伊織は自らを

山野辺伊織ではなく、宮本伊織と名乗った。


周囲の人たちは、長い間

伊織のことを、宮本武蔵だと思っていた。

それほどに、風貌が似ていたからであろう。