君は元々、誰でもなかった!
だから人からどう思われようと、それは思われたことにはならない。
悪口を言われたって、へっちゃらだ。
だって君は、誰でもないんだもの。
君は一人称で自分のことを語るけれど、真実(ほんとう)は無人称なんだ。
つまり無人称であるということは、誰でもないということだ。
「あの娘は、死んでしまったわ!マンホールの底に真っ逆さまに500mも落下してね。
でもあれからすぐに、あの娘の魂が私の中に入ってきたのよ。
お願い!これからはママと一緒になって生きてみたい!って言ってね。
それで私は、受け入れることにしたの。
あの娘の魂と私の魂が混じり合って、一つになったわ!」
〈娘=私〉
「それで、少し解ったような気がします。
あなたがあの時と同じ容貌と同じ服装のままで、ぼくの前に現れたことの意味が」
私、あの時以来、歳を取らなくなってしまったわ!
数字のない世界。文字のない世界。音のない世界。匂いのない世界
そして、形のない世界。年齢のない世界。そういう世界の住人になったのよ!」
珈琲が冷めてしまった。
もう一度、熱い珈琲を沸かして来ようと、シマフクは考えている。
今この瞬間、珈琲が冷めるということは、時間は少なくとも今は存在しているのだろうか!?
女性が言う。
「時間も存在しないのよ!だから、過去も現在も未来もない。
ただ、この今の一瞬が存在しているだけ。
その毎瞬の連続で、世界が創られている。
だけど、珈琲が冷めるという現象があってもいいのよ。
気にしなくてもよくってよ!私はむしろ冷めた珈琲の方が好きだから」
そう言ってから、その瀬戸内海を思わせるパーマネントブルーのワンピースを着た女性は、珈琲をおいしそうに一口啜った。
シマフクのお店は、その翌日から絶好調になった。
何故だろう?
何故かは解らなかったが、結果忙しくなって売れてくれれば、それで何の文句もない。
お客さんは次から次へと湧き出てきて(本当にその辺の路地から、地面のコンクリートを突き破って湧き出てくるような感覚だった)、
彼女たちは生き急ぐ💨かのように、手当たり次第に物を買ってゆく。
特に、古い物がよく売れている。
数年前に人気だったが今はすたってしまったキャラクターたちが、特に人気なのだ。
ショッピングモールなどでは、1年以上経過して売れ残った物は、たいてい売り場からハズされる。
そして、300円ショップなどに流れてゆく。
でもシマフクのお店では、300円ショップで売られている物が、定価でどんどん売れてゆくのだ。
信じられない!!つい昨日までは閑古鳥が鳴いていたのに!!
あなたがもしも歪んだ街に行きたいと思ったのなら、電車に乗って行くしか術がない。
道路という道路は、歪んだ街の近くに来ると、全てが消えてしまっている。
その先は、濃い深い霧の中を進むしかない。
とても濃密な霧に包まれている(形容しがたいほどに)。
誤ってそのまま真っすぐに進んで行った人たちは、車ごと形が無くなってしまった(神隠しにあったみたいにして)。
そういう例が、10例ぐらいあった。
それからは誰も、歪んだ街へ車で行こうとは思わなくなった。
そういう観念が、人々の間に定着した。
歪んだ街は、ただそこにあるのだ。
そこは行くべきところではない。
ただ、そこにあるという事実だけを知っていればよいのだ。
しかしながら、二本の線路だけはちゃんと通じている。
あれから18年。あの歪んだ街は、一体どんな姿になっているのだろう?
分岐した地球🌏の、もう一方の姿になっているのにちがいないだろうけれど。