国内向けモデル「MDR-M1ST」との違いも比較
ソニー、海外仕様の超広帯域モニターヘッドホン「MDR-M1」
2025/08/27
ソニー、海外仕様の超広帯域モニターヘッドホン「MDR-M1」 - PHILE WEB
編集部:成藤正宣
ソニーマーケティングは、レコーディング/ミキシング向けの密閉型モニターヘッドホン「MDR-M1」を、9月19日(金)に発売する。価格はオープンだが、市場では税込45,000円前後での実売が予想される。
「MDR-M1」
昨今の音楽制作環境にあわせて開発された、超広帯域再生に対応するモニターヘッドホン。日本国外では2024年10月より既に販売を開始しており、この度国内導入が決定したかたちとなる。
また2019年に発売した国内向けモデル「MDR-M1ST」(以下、M1ST)は本機のベースモデルにあたり、用途やスペック、デザインなど共通点もある一方、チューニングや装着感は大きく異なっている。本稿の後半では、2モデルの違いについても比較しながら紹介する。
MDR-M1(右)とMDR-M1ST(左)は、似ているようで大きな違いのある “兄弟モデル”
上述のとおり、MDR-M1(以下、M1)は音楽制作工程の中でもレコーディング/ミキシング向けに開発しており、特に昨今の制作環境の変化にも対応している。
具体的には、近年はスタジオ外でモニターヘッドホンを使用するシーンが増えており、屋外での音楽制作やリスニング、ホームスタジオでの音楽制作やライブ配信にもモニターヘッドホンを使いたいというニーズが高まっているという。加えて、「ミュージシャンと同じ環境で音楽を聴きたい」という一般ユーザーからの需要も増加傾向にあるそうだ。
これらを前提にM1は、5Hzから80kHzまでを正確に再現する広帯域再生能力、長時間使用でも疲れにくい装着性を備え、幅広い用途や環境で音楽に集中できる密閉型を採用。また業務用ツールとしての耐久性や、ケーブルやイヤーパッドを簡単に交換できるメンテナンス性にも配慮されている。
ドライバーユニットは40mm径で、M1STとは異なる設計を採用。振動板は複数回の試作を重ねて完成させたという特殊形状で、充分な量感と低歪で低域を再生するための柔らかさと、超高域再生のために形状を維持できる硬さをあわせ持つとしている。
M1のドライバーユニット。プロユースのヘッドホンとして、振動板素材は高価なものや希少なものを避け、「いつでも容易に入手できる」素材を選定することも重要だという
密閉型ハウジングには「ビートレスポンスコントロール」を採用しており、ポート(通気孔)によって低域における通気抵抗をコントロール。これにより振動板の動作を最適化し、低域の過渡特性を改善することで、正確なリズムの再現を図っている。
ケーブルは3.5mm 4極プラグにより着脱に対応。コネクターは左ハウジングに配置され、ネジ式金具によって強固に固定することができる。ケーブルは長さ2.5mと1.2mの2本が同梱し、接続する機器や利用シーンに適した長さを選択できる。どちらも再生機器側プラグは3.5mmステレオミニで、付属アダプターにより6.3mm標準プラグに変換が可能。
最大入力は1,500mW、インピーダンスは50Ω、音圧感度は102dB/mW。本体質量は約216g。
屋外でポータブル機器と繋ぐシーンなどにも対応できるよう、2.5m/1.2mの2種類の長さのケーブルを付属する
「国内向け」と「海外向け」、兄弟モニターヘッドホンの具体的な違いとは?
上述のとおり、M1とM1STは兄弟機のような関係ではあるが、チューニングや装着感は大きく異なっている。その根幹には、日本国内の音楽制作現場向けに開発されたM1STに対し、M1は海外の音楽制作シーンにあわせて作られていることがある。
M1/M1STは一見そっくりだが、並べると其処此処に違いがある。例えば、ハウジングとヘッドバンドを繋ぐハンガー部。M1の方がほんの少し長いのがお分かりいただけるだろうか
M1/M1STともに、実際に存在する特定のレコーディングスタジオのサウンドをリファレンスとして音作りがされている。M1の音質リファレンスに選ばれたのは、“音の良いスタジオ” として世界的に評価が高いという米ニューヨーク・マンハッタン「Power Station at BerkleeNYC」の スタジオAコントロールルーム。ミュージシャン ボン・ジョヴィ氏のいとこ、トニ―・ボンジョヴィ氏が設立に携わったレコーディングスタジオで、一時期は「Avatar Studios(アバター・スタジオ)」の名で呼ばれていたこともある。
さらに音質監修として、ワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM6」の開発にも参加した、米Battry Studios(バッテリー・スタジオ)のマスタリングエンジニア、マイク・ピアセンティーニ氏が就いている。
数々のロックやミュージカル音楽の収録に愛用されていたスタジオだけに、その音をリファレンスとするM1は、低域/高域の両端の存在感が強められている印象。また、“音楽全体を俯瞰的にモニターしたい” という海外のニーズに応えるかたちで、イヤーパッドを厚めにし、音像が耳から距離をおいて結ぶようになっている。
M1ST(写真左)とM1(写真右)のパッド厚を比べてみると一目瞭然。ちなみにパッドの厚み変更にあわせて、頭を左右から押さえつける側圧も、M1の方が少し弱められている
一方のM1STは、東京・乃木坂にあるソニー・ミュージックスタジオ東京のニアフィールドモニター環境をリファレンスとしており、音像は耳から近め。特にボーカルに焦点を当てたバランスとなっている。M1とはある意味対照的なキャラクターであり、開発スタッフも制作する音楽のジャンルやチェックしたい要素に応じて、M1とM1STの使い分けを想定しているとのことだった。
M1ST(左)とM1(右)のドライバーユニット。目指す音質に応じて、振動板の材質、形状も異なるという
ちなみに、“スタジオのサウンドをリファレンスにする” といっても、設置されているモニタースピーカーの音を模しているわけではない。スタジオ内の音響を含めたサウンドを手本としていることには留意が必要だ。
音質以外に国内向け/海外向けの差が現れているのが、インピーダンス。M1STが24Ωなのに対し、M1は50Ωと倍以上となっている。これは、世界各国の多種多様なスタジオ機材になるだけ対応するためだという。
ケーブルは付属する本数も違うが、プラグ部のローレット加工も違う。M1STのケーブル(下)は綾目模様、M1のケーブル(上)は平目模様となっている
このほか違いとして、M1STはソニー・ミュージックソリューションズ、M1はソニー・マーケティングが販売元となる。完全業務用のM1STにはメーカー保証が付帯しないが、M1には無料修理期間が設けられており、制作現場に近い音を楽しみたいという一般ユーザーにより優しいと言えるだろう。
ソニーのモニターヘッドホン ラインナップ。左から順に、1989年以来国内のスタジオで活躍している「MDR-CD900ST」、MDR-M1ST、MDR-M1、2023年に登場した空間オーディオ制作向けの開放型モデル「MDR-MV1」。いずれも現役で、音楽制作の用途ごとに使い分けが想定されている