ジャーナリストの山本美香さん(45歳)が取材中にシリア北部アレッポで政権軍との銃撃戦に巻き込まれて死亡した。
このニュース自体はテレビや新聞で詳しく報道されているので、ここでは書きませんが、私がこの出来事から感じたことを書いてみようと思います。
一つは、大手のマスコミに所属しないフリーに近いジャーナリストの立場。
彼女は「ジャパンプレス」というジャーナリスト集団に所属して、アフガンやイラクなどの戦場を何度も訪れ取材してきたベテランジャーナリストである。
では、今回のシリア取材はどういう目的で行ったのか?
危険を犯してまでもシリアに行くのには、それ相応の報酬という裏付けがあるからだろう。
正義感だけでこんな危険な地域に行くわけはない。
事実、ジャパンプレスも日本テレビとの契約により、シリアに行った。
シリアで危険を犯して撮影した映像が日本のテレビ局で流れ、その映像に対価としてテレビ局からお金が支払われる。
このように日本の多くのフリージャーナリストたちはテレビ局と契約することにより資金のあてがつき戦争取材が可能になる。
一方、民放のテレビ局にしてみれば社員を危険な地域に派遣しなくても済むし、リスクを回避することができるというわけだ。
「ジャーナリストがいれば、状況悪化を防ぐことにもつながる」という正義の前に私が悩んでしまったのは、それではテレビ局の報道セクションに所属している人たちは果たしてジャーナリストなんだろうか?という疑問です。
危険なことはフリーのジャーナリストに任せて、自分たちは彼らから得た映像を使って報道(?)しているにすぎないのか。
そんなことばかりではないと思うが、どうも釈然としないな~と思いながら朝日新聞を読んでいたら、こんなことが書いてあった。
「朝日新聞は危険地域の取材について、本紙記者に代わってフリージャーナリストに依頼することはない。取材場所や取材方法を含め、記者を危険地域に派遣するかどうかは独自の判断で決めている」
ここまで書くのは新聞ジャーナリズムのプライドだろう。
もうひとつは、山本さんと父親の関係。
山本さんの父親、山本孝二さん(77歳)は元朝日新聞の記者だったという。
幼い娘は新聞記者という父の背中をみて育った。
彼女の著書「戦争を取材する~子どもたちは何を体験したのか」(講談社)の中で父親についてこう書いている。
「世の中の出来事を鋭くウォッチする父の姿を見て育ったせいでしょうか。いつの間にか報道記者になりたいと思うようになっていた」
父、孝二さんは娘からジャーナリストになった理由を聞いたことはなかったと言っていたが、子どもとは自然と親の背中を見て育つということだ。
羨ましいな~。
わが一人娘は私の何を見て育ったのだろうか?
真剣に考えてしまうが、45歳で親より先に亡くなるよりは、無事に生きていてくれているほうが親としては嬉しいかもしれない。
でも、私が音楽好きで、ギターを弾き、レコード会社で働いていたという背中は見ているはずだ。
だから世界は違うが、娘が声楽家の道を歩んでくれたことに少しだけ誇りを感じている。
しかし、この山本美香さんという人は実に使命感の強い人で、自身の体験を多くの場で語っている。
今年の5月に早稲田大学で講演した時に学生に残した言葉が彼女の使命感の強さを表している。。
「日本で暮らす私たちにとっては、戦争は遠い国の出来事と思うでしょう。でも、紛争の現場で何が起きているかを伝えることで、世界が少しでもよくなればいい。報道することで社会を変えることができる。私はそう信じています。」
ジャーナリストという職業の可能性を信じ、ジャーナリストがいれば、少なくとも状況悪化を防ぐことにつながると信じ、自らの職業に殉死した山本美香さんの生き方に合掌したいと思います。
それと同時にジャーナリズム、ジャーナリストとは一体どういうものなのか?を改めて考えてみたいと思います。
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