音楽と液晶テレビに見るソニーの過去と現在
先週、旧知のレコード会社の友人達と飲んでいてソニーの過去と現在という話になりました。
全員50代です。
私が大学を卒業して某レコード会社に就職した頃、とても羨ましいことがありました。
それはCBSソニーの社員が持っている名刺です。
当時、我々が持っていた名刺はまさに自分の肩書きと何をしているのか、という会社での役割が分ればよいという程度のものでした。
それがソニーの社員の名刺は違うのです。
まず名刺が横書きで、左上にブルーの文字で「We say music」と印刷されているのです。
「We say music」・・・・・・・・・・ソニーで働く社員全員が音楽を愛してる!
そんな印象の名刺でした。羨ましかったし、カッコイイと思いました。
そして、ウォークマン。
当時洋楽の宣伝マンをしていた私は、新曲が出るたびに試聴曲が録音されたカセットテープとまだまだそれなりに大きかったカセットプレーヤーを持って、放送局のディレクターのデスクに行っては、カセットを試聴させていたのです。
放送局をハシゴすると結構体力を消耗するし、大きなプレーヤーが邪魔だ!と怒るディレクターもいました。
しかし、ソニー洋楽宣伝部のMクンは手のひらに入るサイズのウォークマンを持ってディレクターに新曲を試聴させているではありませんか。
もうビックリ!
その場で試聴させてもらいましたが、私のカセットプレーヤーより音がよい。
ショックでした。
そのとき聴いた「ELO」(エレクトリック・ライト・オーケストラ)の「Discovery」というアルバムに収録されていた「Confusion」は一生忘れることができません。
ソニーって先進的だし、カッコイイなあ・・・・・・と誰もが憧れていました。
では、最近のソニーは?
いまのソニーを端的に物語っているのが四面楚歌と言われているテレビ事業ではないでしょうか。
これも日経ビジネスからの引用になりますが、、2008年3月期、ソニーのテレビ事業の売上高は1兆3000億円と増えたが、730億円の営業赤字に陥ったのです。
今期は円高の影響を含めたら、テレビ事業は数千億円単位のの赤字になることは目に見えています。
全世界的に価格が下落し続ける液晶テレビのコストダウンにソニーは追いついていけないのです。
ここにも成功体験を捨て去ることができなかったゆえの苦悩があるのです。
以下、日経ビジネスから引用します。
「ブラウン管のトリニトロン技術で世界をせ席巻したソニーは、ブラウン管の時代がしばらく続いた後に、有機ELの時代がくると技術の流れを読んだ。ところが意に反して、主流は液晶になる。技術が乏しいソニーは、既に液晶パネルに投資していたサムスンと合弁会社を設立、他社との提携で液晶パネルの確保に動かざるを得なかった」
自社で液晶パネルなどの部品を製造していれば、パナソニックのようにコスト削減の余地が出てくるのに、今のソニーではそれができない。
そもそもはトリニトロンに固執し過ぎたために技術の流れを読み間違えたところから起こったことなのです。
さらにプレーステーション生みの親と言われた久多良木健氏が肩入れした高性能プロセッサー「Cell」をテレビに搭載することで半導体技術での優位性も併せて確保しようとした矢先の2008年2月にソニーは生産設備の全てを東芝に売却してしまったのです。
東芝は「Cell」を搭載したテレビを今秋にも発売し、他社のテレビ事業との差別化を図る戦略です。
進取の気象に富んでいたはずのソニーの戦略がことごとく外れているような気がしませんか?
ハワード・ストリンガーさん、大丈夫でしょうか。
これがソニーの過去と現在ですが、ここから学ぶべきことは「企業の誤算」と誤算に気づいたとき企業がどう対処するかです。
ここでもまた、過去の成功体験ほど恐いものはないというのが私の強い印象です。