時代に翻弄されながらも、映画館を守り続けたふたりの純愛
「・・・・・・ぼく、ずっと、オリヲン座守るさかい。何があっても、ほかさん。どんだけ貧乏しても、子供らが観れる映画、流していくつもりや。トヨはん、ここでいつまでもシャシンかけてもらえますか」
「・・・・・・夏やったな、蛍飛んでましたわ。留はん、うれしそうに、蛍、蚊帳んなかに放して、私ら、ずっと観たままで、うちら、はじめて、手繋いだ」
トヨはん役が宮沢りえ。留はん役が加瀬亮。
この映画のテーマは冒頭のトヨと留の会話に凝縮されています。
映画を愛し続けた貧しい男と女の物語。
愛し合いながらも純愛を貫いた男と女の物語。
銀座東映本社の試写室で観た「オリヲン座からの招待状」に涙が止まりませんでした。
映画を観て泣くことはよくありますが、これほど心の奥底から涙がこみ上げてくる作品には滅多に出会うことはありません。
朝イチの試写会だったので、今日は終日仕事になりませんでした。
京都の西陣にある小さな映画館を営む松蔵(宇崎竜童)とトヨ(宮沢りえ)夫婦。時は昭和35年。東映、大映、松竹映画全盛の頃である。劇場はいつも近所の人たちで満員盛況。そんなある日、一文無しの青年留吉が放浪の末、この町にやってくる。シャシン(映画)が大好きな留吉は松蔵夫婦に頼み込んで、この小さな映画館に住み込みで働くようになる。「おやっさん」と呼ぶ松蔵が死んだ後、既に世の中はテレビの時代で映画は斜陽に。しかし、残された留とトヨは周囲の目を気にしながらも純愛を貫きながらこの劇場を守っていくのですが・・・・・・・・・。
そう、日本版「ニュー・シネマ・パラダイス」のような作品です。
映画は、幼い頃にオリヲン座に通いつめ、留とトヨに実の親以上の愛情を感じていた良枝(樋口可南子)と祐次(田口トモロヲ)の回想シーンから始まります。
年老いた留から二人に届けられた1通の手紙・・・・・・・・・・
それは、長年続いた「オリヲン座」をついに閉館するというオリヲン座からの招待状だったのです。
原作は浅田次郎。あの「鉄道員」に収録されていた短編の映画化です。
何よりもトヨ役の宮沢りえが素晴らしい。何気ないしぐさや言葉の中に恥じらいや喜びや哀しさを織り込む演技は、何の気負いもない清清しさに溢れ、トヨが泣けば観客も泣き、トヨが笑えば観客も笑う・・・・・・・・
観客との間で、そんな当たり前のやりとりが自然に生まれる彼女の演技に、只、只、感動し、泣いていました。
満足度95点。
晩年の留役を原田芳雄が演じていたのですが、若い頃のトヨ(宮沢りえ)とダブリ、名作「父と暮らせば」を思い出してしまいました。
それにしても宮沢りえさんは、何物にも代えがたい日本の宝のような女優さんになりましたね。
彼女を超える女優は、いま日本にはいないでしょう。
11月3日から東映系劇場で公開されます。
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