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労働者階級の家庭で生きる少年の現実を描いた作品。
少年がタカのヒナを育てながら共に成長していく感動ストーリー・・・かと思いきや、さすが社会派ケン・ローチ監督。夢と希望を与えるようなハリウッド作品とは一線を画します。
少年ビリーは歳の離れた炭鉱労働者の兄ジャドと母親の3人暮らし。父は失踪してしまい、貧しい暮らしを余儀なくされています。
貧しくても家族仲良く思いやりを大切にしながら・・・と言いたいところですが、この家族には思いやる気持ちなど微塵もありません。ジャドは自分が家族の稼ぎ頭だと息巻き、ビリーを小間使いのように扱います。母も子供たちのことを心配していると口には出しますが、行動には一切移しません。ジャドと母はいつもいがみ合い、ビリーの居場所はこの家族にはないようでした。
ビリーは小遣い稼ぎのために朝は新聞配達のバイトをしています。そのため、学校では疲れきってしまい教師からは劣等性のレッテルを貼られています。また、この学校の体育教師や校長の性格や口の悪さときたら・・・。ほとんど生徒への虐待です。さらに、同級生からもいじめられてしまうビリー。ビリーの居場所は学校にもありませんでした。
そんなビリーが唯一心を許せる相手・・・それは、タカの「ケス」だけでした。
私有地の高台に巣を作ったタカのヒナを盗み育て始めたビリー。タカの育て方を知らないビリーは古本屋で本を盗み勉強します。そして、大きくなるにつれて、外へ出し調教し始めます。
大空へ羽ばたく「ケス」。
ビリーの想いが「ケス」に乗り移っているようです。この場所から遠くの場所へ飛んで行きたいと・・・。
学校ではタカを育てていると変人扱いされてしまうビリーでしたが、ビリーのことを気にかける教師がタカのことを話してくれとビリーを教壇に立たせます。
今までのビリーの言葉は、相手からの言葉に対する言い訳を切り替えてばかりだったような印象がありました。まるで貧しい家庭で生き抜く少年の処世術かのように・・・。
しかし、教壇でタカの話をし始めたビリーは自らを主張しているかのようでした。今まで馬鹿にしていじめていた生徒たちも真剣に聞いています。
ここで一気に信頼が生まれてハッピーエンドになるのかなぁと思っていたら・・・やはり夢と現実は違いました。
労働者階級の家庭で育ち、環境は最悪。家族から守られるどころかほとんど見捨てられた状態のビリー・・・最悪なラストです。
ビリーに夢や希望を与えることはできないのでしょうか。
ケン・ローチ監督はこの作品で何を伝えたかったのでしょうか。
労働者階級の人たちの生きる活力となる作品ではありません。労働者階級の人たちが自力で幸せを掴むことなどできない現実をまざまざと私たちに見せつけて、社会に強く訴えている作品でした。
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Title:
KES
Country:
UK (1969)
Cast:
(Billy)DAVID BRADLEY
(Jud)FREDDIE FLETCHER
(Mrs. Casper)LYNNE PERRIE
(Mr. Farthing)COLIN WELLAND
(Mr. Sugden)BRIAN GLOVER
(Mr. Gryce)BOB BOWES
Director:
KEN LOACH
