今や記憶世界に漂うだけになってしまったが、感激した食を挙げてみよう。
・大学生初日、先輩が学食に連れて行ってくれた。
そこで食べたカキフライ定食。
確か180円と、学食の中では高い方だった。
田舎は内陸奥地であり、海の幸と言ったら、せいぜい行商の秋刀魚か塩にまみれた鮭。
カキフライなどというものは、聞いたことさえなかった。
いやあ、旨かった。
それまで旨いと思えた食べ物と言ったら、たまに町に出た時にデパートで食べられるカツ丼くらい。
だいたい、外食の経験は少なかった。
今食べたらどうかは分からないが、あの時のカキフライ定食は、それまでの人生のなかでは最高に旨かった。
・大学生最後の年。
実験室隣席は、本人の名前がつくものがあるような、蔵元の息子。
おかげで、酒は売っていない酒も飲めた。
5時過ぎからは、先生方は見て見ぬふりの酒盛りの日々ではあった。
そいつが、なにやら曰く付きのスーパーニッカを持ってきた。
スーパーニッカ自体学生には高級だったが、当時はかなりの酒も飲んでいたから、さほど驚くものでもなかった。
悪友とビーカーで乾杯する。
が、一口含んで、お互い顔を見合せた。
自然と笑みが漏れる。
それは、私たちの知っていたスーパーニッカとは全くの別物だった。
何十樽に1本、優れものが生まれるという。
まさに伝説の味だった。
値段ではスーパーニッカよりかなり高いものも飲んだが、あの酒ほど衝撃のあるものは少ない。
・ドンムアン空港の北10キロくらい。
地元では有名なコブラ料理屋があった。
ここの品定めで、私には人生最大の恐怖を味わったところだ。
その緊張が冷めやらぬ中、キングコブラとワニ肉のミックスチャーハンが出てくる。
コブラの胆酒割りで舌がおかしくなっていたせいだろか。
このチャーハンは、私の食べた中で一番旨かった。
小骨がいささか邪魔だったが。
・アユタヤに近い、地元民には人気の店。
そこで食べたトムヤムクン。
観光客用トムヤムとは、全くの別物と言ってよいほどの味。
これは、とても真似して作れないなと思った。