関東近県、福島や甲信地方の方ならご存じだろうがチタケ(またはチチタケ)というキノコがある。
傷をつけるとお乳のような汁が出ることからこう呼ばれる、半世紀前ならありきたり過ぎたキノコだった。
風呂の水くみとお湯沸し、キノコと山芋(都会で売っている山芋ではなく、所謂自然薯)などの山菜採りは私の責任範囲だったので、これはいやになるほど採ったことがある。
場所によっては、1か所で上記写真くらいは見つかり、半日も山をうろつけばかごいっぱいになった。
当時の地元では、このチタケは下衆の食べ物に近く、ホウキタケやシメジなどを見つけると喜んだ。
チタケ汁などいやになるくらい飲んだ。みそ汁のほとんどがチタケで埋まったこともある。
が、今では田舎ではマツタケ以上の扱いだともいう。
ただし、地元産はほとんどなくなり、似た仲間の乾燥キノコを中国あたりから輸入しているらしい。
もうすぐ49日である。
こうした特別な日には、チタケ汁が出る。
なんら変哲もない汁だったはずが、旨く感じている自分に驚く。
だいたい地元では、貧乏人の汁のネタだったものだ。
食感は悪い。
うまく出しを取ると相当深い味になるが、田舎のみそ汁では、そうした技術もなかった。
数年前に、母の49日に田舎では最高級のレストランで食事会があり、久々にチタケ汁を味わった。
不思議な感覚だった。
ひどく貧しい汁のはずが、えらく品のいい商品になっていた。
かつて1度だけだが、1甕数十万円のスープをシンガポール・シャングリラで御馳走になったことがある。
その時飲んだ、仏僧さえ我慢できずに垣根を越えてやってくるという、佛跳牆(ブッダジャンピングオーバーザウォール・スープ)よりうまいとさえ感じてしまった。
記憶というのは、人を相当ごまかす。」
私の学生時代は鉛色だったはずだが、今ではおそろしく光っている。
チタケ汁も、似たようなものかもしれない。
なお、本式の佛跳牆は、今作ると日本では1甕1億円くらいかかるらしい。
数年前、ズバリ言うわよのときめきたまふ占い師が、応援しているお笑い人2人にこれをプレゼントしたことがある。
たしか、請求書は600万円だった気がする。
しかし、記憶の力は恐ろしい。
下衆の汁が、感覚で数百万円の汁を上回ることもある。
ところで、49日に田舎に帰るのが少々怖い。
というのは、田舎は埼玉県鳩山町とならんで、平野部では関東一寒いところ。
先週は-8度を記録している。
昨日あたりは相当穏やかだったようだが、千葉の気候に慣れてしまった私には、かなり厳しい。
ほとんど冷蔵庫の中だ。
おちっこも、赤子なみに我慢できなくなってきている。