【テレパシー小説 4】怨霊 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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「ふざけるなーーーーー!」



京電本社の無茶な命令にさえ服したふりをして対策を練っていた、それほど冷静な善田。

その彼が、机を蹴飛ばして怒りをあらわにした。



紅潮した顔。

その手には、馬酔木新聞が握られ、手も体も怒りに震えているのが分かる。



「ふざけてるんじゃねえ、大ウソツキが!」


善田は、また吠えた。




善田は、あの夜のことを思い出していた。

第一には、事務員を含め、皆残っていた。

が、こうなってからは受付嬢はもちろん、経理職員も人事事務員も不要だ。


だいたいここには、女性が連泊する設備はない。

食糧と水も限りがある。

このままでは、1週間ともたない。


現場の男たちは、真っ暗闇の中で雑魚寝をしている。

食事と言ったら、1日2食のカップ麺だけである。

下手するとそれさえ口に入らず、ビスケットを分け合っていた。


馬韓が官邸にカートン単位で生ビールを入れ、ゴライオン・ガールことリャンポーがパフォーマンスコンビニ遊覧会をしていた時にである。

当時の馬韓は、現場への差し入れはおろか、自分は銀座赤坂六本木の高級店を連日連夜食べ歩きに忙しかった。

1食平均5万。

庶民には贅沢すぎる食事である。

場合によっては、20万近いことも少なくなかった。



いいご身分だったんだなと知ったのは、約2年後のこと。

善田があちらに逝く直前のことだった。



部屋中に、汗とすえた臭いが広がっている。

かといって、外界とつながる部屋の窓も開けられない。


それは、放射線のこともあるが、まだ春のうららかさにほど遠い奥州の北風が、疲労困憊した作業員の体力を奪うからだ。


そんな中で、善田は命じた。

現場作業に直接関与しない事務員、特に女性は第二に移動せよと。




第一作業員男子は、2,3の急病人を除き、みな残った。



それがなんだ!この馬酔木新聞は!!!!!。


所員の大半が国の命令に背き、まるで全員が逃げ出したかのような書きぶり。



ふざけるなと思った。

バカを言うんじゃない。


皆必死の覚悟で作業に当たっていた。


あのケーブルは、だれが運んだと思っているのだ!


保田野の家族などのように、南国に逃げたりはしていない。


冗談も休み休み言え。




善田は、馬酔木新聞をびりびりに破った。





許さん!


三途の川の向こうからでも呪ってやる。



善田はそう思っていた。