これも、小説ということにしておこう。
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私は、会社では知る人ぞ知る犯罪者である。
とは言っても、泥棒やら強姦とかではない。
国境破り常習犯ということでだ。
そのきっかけはこうだ。
某国に出張が決まったが、その国でテロが相次ぎ急遽ピザが必要になった。
それまでならば、我が国からはノービザでの入国ができたのだった。
さて、困った。
仕事の予定が目一杯つまっていて、引き延ばしはできない。
もしビザを取るとしたら、たっぷり1週間はかかる。
ということで、無謀にもビザ無しで入国を決行することになった。
とはいえ、無策で行くわけではない。
まずは、ノービザで入れるE国に行く。ここで飛行機を乗り換え、S国に移動する。
最終目的地の某国とS国は別国とはいえ同一共同体に近く、国境はあっても事実上フリーに近い。
つまり、S国からの入国やS国への出国は、ほとんどノーチェックである。
これには、現地の社長も一役かってもらった。
彼は、某国とS国国境付近ではそれなりの顔らしい。
実際、S国飛行場で出迎えてくれた彼の車に乗って形ばかりの国境検問をくぐる時には、彼は検問官となにやら笑い話をしながら、すんなり検問を後にできた。
後に彼からは、検問所があっても実際に係官が常駐することがない裏道を教えてもらうことになる。
かなりの山道だったが、何度かその道を通り密入国やら出国を繰り返した。
が、確かにそこで検問にあったことはなかった。
しかし、一度だけこんなことがあった。
少し遠くまでドライブしているうちに、いつの間にか私はI国に入ってしまっていた。
が、ずっと気付かずにいて、別の道を使ってねぐらに帰ろうとした。
と、道の途中に大きな洗車場のような建物が見えてきた。
はて?
変わった建物だなあとは思ったが、とにかく走り抜けた。
と、後ろからけたたましい音が追ってくる。
パトカーである。
なんだ?
とりあえず、車を止めた。
2人の、ピストルを構えた警官が近づいてくる。
聞きにくかったが、どうも私はI国に入っていたことらしいことは分かった。
とにかく、ゆっくりとパスポートを見せる。
もちろん、パスポートを内胸ポケットに入れるような危険な真似はしていない。
少なくともその国で運転するときは、ギア脇に置いて置いた。
赤いパスポート。
霊力抜群である。
さらり開いただけで、警官は笑いながら、「よし行っていいぞ。でも、これからはちゃんと止まれ」のようなことを言って無罪放免だ。
ああ、また赤いパスポートに救われた。
なにせ、某国ではビザ無し入国しているにも拘わらず車をレンタルできたのも、何を隠そう赤いパスポートの威力・霊力である。
改めて、多くの日本人諸先輩が築き上げてきてくれた信頼と努力に感謝した。