【懺悔小説】erとre | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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最終確認と言っても、半分は形式的なものではあった。
なにしろ、現地のエンジニアが強度、重金属検査の確認は当然ながら、サイズや色もひととおりは終わっているはずだったからだ。
赤道直下の国から時差6時間、昼でも氷点下の国への移動はきつかったが、私は半分観光気分でチャンギを飛び立った。


(中略)


サンプルはよくできていた。
マスプロスタート承認用書類は、すでに机の上に置かれている。あとは、私のサインだけだ。


私は、最後のパッケージ確認に入っていた。





何かが私の鼻を動かした。
なんだろう。


と、そのパッケージの文字にこんな文字を見つけてしまった。


…… center of ……


その製品は、イギリス向けであり、ファーストロット3Mは、ロンドン最大のストアーH向けだ。

たとえパッケージでも、こんな英語の商品をHストアーに納品できるわけがない。
いや、納品後の返品・回収は必定だ。


私は、首を横ふった。

相手の顔が赤く燃え上がる。挙げ句の果ては、隣にいた相手方の製造担当が私の目の前で小刀のようなものを振り回した。
が、私は、首を縦にはふらなかった。

すでに3Mは印刷済とか言っている。

それはあなたの勝手だ。こちらは許可していない。
とにかくこれじゃ、パッケージはOKできない。

erをreに修正しないと、OKは出せない。

私は、冷たく言い放った。







翌日。
次の出張先への移動まで、約半日の自由時間があったから、私は久々に膝が曲がらないような寒さの中、朝の散歩を楽しんでいた。

と、後ろからかなり大きなエンジン音がした。
振り返る間もなく、それは私のコートをかするように走り抜けた。
膝をしたたか打ったが、その時は痛さを感じなかった。
ホテルに戻り、暖かい部屋で一服しているうちに、何か生暖かいものがすねに絡みつき、むず痒いような感じの後、急激な痛みに襲われた。

膝から下に、粘ばついた赤い液体が流れていたのだった。






後日知ったのだが、そのパッケージはすでに本社の一部からOKを得ていたものであったらしい。

つまり、その工場ではなく本社側に問題があったのだが、そちらは追及されることなくうやむやのうちに消えていった。



そうか。あの工場に罪はなかったのか。


相手にとっては、仮に単価が安いものとはいえ、すでに了解を得て生産したものを、全て破棄し生産し直しとなった。

怒り心頭であったろう。

悪いことをしたのだな、とは思っている。


しかしながら、あの時の判断は間違っていなかった。
なぜなら、後に他社で同じ文字を使った製品が、Hストアーから受け取り拒否をくらったからだ。

たぶん、アメリカ英語人あたりが、英文字チェックをしてしまったのだろう。




しかし、やっぱり、あの会社としては納得いかなかっただろうな。

私自身も悪いことをしたとは思っていないが、とにかくごめんなさいしておこう。

なぜなら、私ではなくとも、相手にとってはこちら側のミスなわけだから。