
夕方に戻ったが、権之介は見えない。
が、私はすぐに姿を見せるのを知っていた。
台所に向かい、投げ売りしていた血合いを解凍していると、やっぱり窓から覗くものがいる。
早速、もどした血合いを細かく切り定位置に置いた。
が、いささか様子が違う。
うむ?
血合いなどいらぬ。いつものやつだ!
という顔ではないが、半分くらい食べたところで、草むらの方に行った。
最近にない行動だ。
やはり、口に会わなかったのかなと思い、鶏肉を刻み始めた。
と、ニャアではないが、外から人の声ではない声がした。おお、権之介殿もしゃべれるではないか!
私は、少なからず感動した。
と、……。
ふむ?
明らかに別の場所から若い声。
ありゃりゃ、と思っていたら、白っぽいものが崩れベランダに登ってきて、権之介の食べ残しをくちゃくちゃしている。
おお、そういうことか。
権之介は夕飯を半分、彼女のために残したのか。
感心、感心。
私は彼の優しさに胸を打たれ、どう処理すべきか迷っていた血合いを、また細かく切り、また窓を開けた。
が、いささか、早すぎたようだ。
白いやつは、まだすべて食べ終わっていなかった。
つい、権之介気分で追加を置こうとしたのが間違いだったようだ。
白いものは一目散に草むらを抜けて、屋敷から消えてしまった。
ああ、権之介殿。
すまぬ。配慮が足りなかった。
貴殿のプレゼントを、彼女は半分しか得られていない。
おわびに、どっさり2猫分を草むらの方に置いておくので、許したもう。

スパイダー・オーキッド
(蜘蛛蘭)
夜中なり明け方なりに、ご賞味いただければと存じまする。