
お白州の帰り道、隣の池旦デパートで地元画家の展示即売会とかの看板が目に入ったので、冷やかしに覗いてみた。
うーん。これはノーコメントとしておこう。
で、エレベーターの昇降口にキラキラ光るものがあったのだが、自然と足がそちらに向かっていた。
黒い服を着た同年輩の売り子さんが、ルーペでひとつひとつ確認をしている。
「これで1くらいですか?」
「いや、中央のだけなら0.85。全部でえーと、1.05ですね」
ふむ。まだ勘は鈍っていないわい。
「こっちのが小さいのに高いのは、クラリティが違うの?」
「いいえ、カットですね。クラリティはVS1で同じです」
(えっ?VS1クラスにしちゃ、ちと高いぞな。それにカラーは間違ってもDじゃない。買うわけじゃないし、まっ、いいか。しかし、ダイヤ幻想は日本ではまだ健在だ)
「こっちの黒いのは?ずいぶんと安いけど」
「はい。ブラックダイヤでございます」
「ああ、色付きジルコニアね」
「いいえ、ブラックダイヤでございます」
ちいと眉が鋭角になった。
「あらら、このブラックダイヤだか、変な色のサファイアは、ずいぶんと高いですね」
「いいえ、それはアレキサンドライトでございます」
思わず、「えっ?これが?」という言葉が出そうになったが飲み込む。
「これ、蛍光灯ですよね」
少し顔色が変わった。
「あのう、光の具合がちょっとまずいですかしら」
少し言葉遣いが変わったぞ。
蛍光灯の下でこの色のアレキサンドライトにしちゃ、べらぼうな値段だなと思った。
たぶん、色変化はほとんどないだろう。
おっ!というオパールがあったのだが、結構安いなあと感心していたら、0を1個見落としていた。
「このガーネットの脇にあるピンクのやつは何ですかなあ」
「ピンクトルマリンですわ」
ほう、ずいぶんと透明度の高いピンクトルマリンであるぞ。だから高いのか?
東南アジアの10倍はするわな。
まあ、深追いは止めよう。
「こっちのダイヤ、なかなかいいですね」
「あらお目が高い。それはVVSでEですのよ。いかがですか、多少ならお勉強できますが」
「いや、実は絵を見にきたついでに覗いただけでして……。ごめんなさい」
内側で湯が湧く音を背中で聞きながら、私は池旦デパートを後にした。
冷やかし、ごめんなさい。
私は心の中で、もう一度呟いた。