駅前にある代官所の門を叩いた。
「なんだじいさん、朝の散歩して家に帰れなくなったのか?」
先ほどまで西洋ラッパを鳴らしながら馬車を走らせ、やっと代官所に戻ってきたばかりのお代官様の付き人風情が言う。
「ちげえやす。てえへんなものを見つけてしまったので、ご報告にめえりやした」
「ふーん。なんだ。隣の猫が八つ子でも産んだのか?」
てんで取り合ってくれない。
「ちげえやす。ちげえやす。トラの野郎が飛び出しちまったんで」
「ほら、野良猫の家出の話ではないか」
「まちげえやした。フーテンのトラじゃあなくって、アツミのケチな野郎です」
と、付き人の顔色が変わった。
「じいさん。あんたのなめえは?」
「へい。しま爺でありおりはべりいまそかり」
「ジジイ、おめえさんが生やしたのか。さすればきっときついお沙汰があるであろう」
げっ!
疑われたずら。
しゃあない。
代官様言葉を使うっかねえか。
「そもそもアツミのケチな野郎は、海の外より食を本邦に入りてより、その肥料、飼料、食品、栽培種に混入するは必定。かかる“世出下痢無”の瑞穂にはびこるは、たうぜんにて悲しゅうこそ思はめ」
「なんでジジイ“世出下痢無”の名を?ますます怪しい。いつわりなく真を申さば許し解かむ」
ということで、例のやつが道端に生えている場所を知らせてきました。

綺麗なのですが……。